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FIND FIXER:切り札は、この掌の中に。  作者: パタパタさん・改
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来店

 『改訂記念の特別指導講演(チュートリアル)』が終わり、聖歌がVRTCG”UW”の大会会場の出入口に行くと二人の影が見えた。


 一人は恋愛ゲーに出て来そうなギャル感溢れ出る金髪のアバター、才理 彩架だ。蠱惑的な笑みを浮かべる彼女はそのノリの軽そうな容姿とは裏腹にとんでもない真実を隠していることをまだ彼らは知らない。

 そしてその彩架の後ろにはふっくらした黒髪が特徴的な男子高校生、羽田 桜星だ。顔を構成する素はイケメンであることに変わりはないがいつも通り死んだような眼をしている非常に残念な男子だ。其処らに飾られてあるアンデッドの絵の方がまだイケメンに見える。まるで壁のシミみたいな目つきだ・・・。


 「あ!才理先輩!桜星君も!」


 「あ!来た来た聖歌ちゃ~~ん!こっちだよ~!」


 嬉々として突っ込んでくる聖歌を持ち上げて高い高いをする彩架。傍から見ればただのイチャ付き合いなのに深く見て見れば何処か変なものを感じる。

 それは桜星も同じことを感じたようで、壁に背を預けながら公共の場でイチャイチャしている百合二人に言う。


 「一応ギリギリ間に合ってチュートリアル参加してきましたけど、意味あるんですかねアレ。現代王位保持者?だったか『戦場の策士』とかよく分からない人の負け戦見てきましたけど・・・それはさておき」


 「スリスリ~~おー可愛いのう聖歌はぁ~~、VRの感触も最高なのよぉ~~」


 「にゃぁ~~んごろごろ」

 

 「もうちょっと節度を持ってくれませんかね先輩・・・・。聖歌も。・・・・仲間だと思われたくないんですが・・・・」


 「「はッ!!!」」


 我に返ったように頬を紅潮させるお二人方。ピタッとほっぺスリスリが止まり、周囲の状況を確認する。此処まで変化が違うと一周回って彩架が怖く感じる。なんせ目が見開いたまんまだ。狂気を感じる。

 彩架はグルゥーっと周囲に目を向ける。

 

 大丈夫だ。人は居ない。


 彩架はグッと親指を桜星に向ける。今さっきの修羅の如き顔ではなく至って普通の「てへぺろ☆」みたいな顔をしている。可愛いが、桜星にとっては恐怖でしかなかった。


 「大丈夫!桜星君、誰も居ないし、・・・むしろ混ざっちゃう?」

 

 「混ざりたくねぇ・・・。ってかそろそろ僕ら誘った理由教えてほしいんですけど・・・」


 事実、桜星は彼女に誘われた理由が未だ分からず此処に来た。VRバイザーから接続ができる国際的ゲームをしよう!という言葉に好奇心旺盛な聖歌が陥落し、そのまま桜星も陥落したと言う感じだ。あら、青春ですねぇ。

 

 桜星が彩架に聞くと、彩架は「あ、そうだった!」と演技臭のする言葉遣いでわざとらしく口に手を当てる。


 「まだ桜星君には言ってなかったっけ?」

 

 「私にも言ってないです先輩」

 

 「え?あれ?そうだったっけ?なんか言った気がするんだけど・・・」


 「詳細は知らされてません!」

 

 「詳細すら知らされてません」


 「・・・・・・・・・・・・」


 これには流石の彩架も黙るしかない。なんせ言ったつもりが言ってすらなかったのだから。なのでもう一度、というか初めて最初から説明をすることにした。

 

 「私たちの通ってる学校の部活には共通してある課題が科されます。なんでしょう?」


 「確か・・・一年に一回何かの賞を受賞しなきゃいけないって奴でしたっけ?」


 桜星の答えにうんうんと頷く彩架。

 そして次に仁義なき質問をぶつけた。

 

 「―――で、今年は何か受賞したっけ?」


 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」


 「聖歌ちゃん?」


 「は、はいいいぃぃぃ!!」


 「将棋、囲碁の大会は?」


 「一つの校から複数のグループを出すのはダメでした」


 「では桜星君、PCでやってたEスポーツの予選はどうでしたか?」


 「初戦敗退です聞かないでくださいあのくそ暑い部室でPC動かしたらどうなるか分かってるでしょ?」


 その答えに満足したのか、彩架は嬉しそうな顔で腕を組んで頷いた。


 「じゃぁ我らが遊戯部の戦績は何もないと言う事だ!」


 「そうなりますね・・・」

 

 「そですね」


 聖歌と桜星が栄気のない声で呟く。聖歌はそうだが、桜星に至っては余り気にしていない・・・というよりかは、ずっと死んだ魚の目をしているせいでどういう原理か不思議といつもとあまり変わらない表情に見える。

 それはさておき、だ。


 彩架はそんな元気のない菜っ葉みたいな二人組をみて「ふふん!」と鼻を鳴らす。どうやらそんな崩壊の危機一歩手前の遊戯部に救いの一手があるらしい。


 「では、この世界(VRTCG)で賞を取ればいいのさ!!」


 「「は?」」


 「ん?もう一回言った方が良い?――えっとね、このUWで賞を取れば良いってはn」


 「いやいや何言ってるんですか先輩。此処ゲームの世界でしょ。リアルではあるかもだけど、VRの世界で大会なんてあるはずないし、ゲームでトロフィーとか貰っても現実では大した意味ないじゃないですか。そんなんで先生が認めてくれるわけないでしょ?」

 

 「聖歌に同じく」


 二人して素っ頓狂な声を上げ、更には大会や賞を全否定してくる。そりゃそうだ。現実世界のカードゲームで世界大会優勝なんてよくある話だが、VRTCGで大会なんてあるはずがない。ゲームの大会で貰えた賞が現実まで影響を及ぼす訳がない。そう思うのも当然だろう。

 そんな二人の呆れた顔を見て彩架は二人を手招きする。


 「まぁまぁ、そんなに信じてくれないなら信じられる証拠を出してあげよう。さぁさ、私に付いて来たまえ諸君!」


 「「うへぁ」」

 

 疲れた様な声を出しながら聖歌と桜星が付いて来るのを尻目に、彩架は元気よく進みだした。







 二人がたどり着いた先は城下町に建てられたやけに大きい建物『UWカードショップ』だった。名前から分かる通り、カードやパックを売っているお店だと言うことが分かる。


 「さぁさ、入った入った!」

 

 彩架の半ば強引な入店に寄り、二人が足を踏み入れた先に見えたのは沢山のアバターとショートケースに入れられて陳列している大量のカードたちだった。店の内装は異世界系の話でよく見かける”ギルド”というものに近く、土壁と木製板の作りなのに対して天井につるされた電球からは想像もつかない程の明るさがあった。

 彩架は桜星と聖歌を連れて店内の奥の方へと連れて行く。その最中で店内に居たアバターの数名が彩架を見て何かを言い合う。

 

 「なぁあれってさぁ、―――だよなぁ?」

 

 「あー、そうじゃね?本物見るの初めてなんだよな」


 「むっちゃ美人じゃん。褐色金髪ギャルとか可愛すぎるんだが?」

 

 「やめとけ。あの人に戦争(ウォーズ)申し込んでみろ。3ターンキルされるぞ」


 その話し合いの一部が気になったのか聖歌が彩架に問う。


 「今の人達先輩見て何か言ってましたけど・・・・」

 

 「気にしない気にしない。私一途だから其処らの一級ナンパ師の有象無象には靡かないわよ」


 「サラッとすげぇ事言うな先輩・・・、其処ら辺のアバターを有象無象て・・・」


 軽く桜星がドン引きして彩架を見る。彩架はそんな桜星の目の前で何故か得意げな表情を作る。褒めてないっすよ先輩。


 そんなこんなで引きずられて来た先に居たのはやけにガタイの良い店主と思われる人物だった。こげ茶色の筋肉質な身体に明らかに合ってないピチピチの店服を着ている。明らかにVRシステムで創られたアバターではないと言うことが見て分かる。生きた筋肉に張り巡らされた血管がピクピクと唸っているのだから。

 そんな筋肉質な店長は彩架を見た瞬間、「ファーッ!?」とその場にいた誰しもが振り返るソプラノ声を発して絶叫した。


 「「ッッ!!!???」」


 これには桜星も聖歌もビックリだ。だがしかし、その他大勢には筋肉店長が高い声をしていることはもう既に知れ渡っているようで、一瞬瞳孔を開くだけすぐに元の動きに戻って行った。

 筋肉店長はそんな公然の秘密なんていざ知らず、彩架を見て驚愕していた。


 「えぇッ!?噓でしょセツラちゃん!新しく新設された”ダンジョンクエスト”に古天四皇(フォースターズ)で行ってるんじゃなかったの!?なんでいるの!?」


 「あーそれね。冥々(メイメイ)がテスト週間入っちゃったらしいから一時的に解散したの」


 「あぁ納得。あの子確か来年受験生だって聞いたよ。中学生は大変だねぇ・・・・」


 「私は推薦取るし、家業引き継ぐから受験しなくてもいいんだけどね」


 「まっ!いけないですよセツラちゃん!大学くらい出ておかないと意中の男子から「高卒の人はちょっと・・・」とか言われますよ!?」


 「ええぇ・・・・。でも私の好きな人”そういう偏見っぽい事”あまり気にしなさそうな人だからなぁ・・・。やっぱ大学って出といた方が良いかな???」


 「何故私に聞くんですか先輩・・・・」


 「っていうか先輩の学力なら選り取り見取りだし、現実の顔面偏差値もバカ高いし表っ面の教養もあるんだから高卒でも喜んで娶ってくれる人いると思いますよ?知らんけど」


 涙目で訴える彩架に二人の反応はイマイチだ。特に桜星なんて先輩に対する態度とは思えないほどに辛辣な言葉を投げかける。全く目が死んでると思ったら、根性も腐っておったか・・・。

 だがしかし、こんな言葉のキャッチボールも日常茶飯事なのだろう、彩架はあまり気にも留めずに店長に二人を紹介する。


 「この二人、前に言ってた学校の後輩の子達。アバター名はまだ決まってない初心者さん。『改訂記念の特別指導講演(チュートリアル)』見てきた子よ。もしかしたら第二世代になるかも・・・?」


 「ア――――ッ!!この子らがかい!?はぁはぁ、聞いているよ。――うんうんなるほど。こりゃぁ良いね良いね!!女の子の方は正義感とも違うまっすぐ感。男の子の方は穿ったような矛のような鋭い感じ」


 「分かりますか!この二人の素晴らしさが!!」


 「分かるとも!!こりゃぁ良い新人さんだ。きっと”UW”で類を見ない凄いことをしそうな気がするよ!!」

 

 筋肉店長はまじまじと桜星と聖歌を見ながら彩架の考えをほめたたえる。当の二人にとっては「なんのこっちゃ!?」状態だと言うのに詳細が説明されずに話が進んでいく。正に詐欺の被害に遭ったような、そんな感覚が彼らの中で芽生えた。

 と、粗方話を終えた彩架が二人に向き直り、さも当然のようにのたまった。


 「という訳で、部の為にも”UW”の未来の為にも君たち後輩には頑張ってもらいます」

 

 「「は?」」


 この発言には流石の聖歌も桜星も口を開けて固まった。


 

 「「は?」」


 

 カードショップ内で二人の声が木霊した。

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