反撃の後攻
『先攻はグレイシア・ヴァン・グリフです』
戦争が始まった。戦争の火ぶたもまさかデュエリストの萌え声で切られるとは思いにもよらなかったのだろう、心なしか「ワイってそんな感動的に切られるもんだっけ?」とどこからか声が聞こえる気がする。
だがしかし、状況は刻一刻と進んでいた。
「我がターン、ドロー!そしてMPを1回復する」
グレイシアが自動山札に手をかざすと、不思議なことに手のひらサイズの四角く白く光るカードが出現した。それをなんの迷いもなくグレイシアは淡々と手札に加える。加えられたカードは一つの手札に収束されると新たに一列に並び直された。
その一連の流れに観客席から雄叫びが聞こえる。そしてよく見れば、グレイシアの頭上に表示されているMPのタグの数値が3に変化しているではないか。
「先攻後攻はターンの初めにカードを引き、MPを1回復します。手札が増えた時は手札が自動的にシャッフルされるので相手によるカードの把握が困難になります」
アオイの解説なんてお構いなしにグレイシアは宙に並ぶ手札の一枚を掲げて叫ぶ。
「我は手札の『宝石戦士 熱血のルビー』を魔力コスト1を払い召喚する!」
グレイシアが手札のカードを目の前の床に投げると、そのカードを中心に魔法陣が展開された。そのあまりにも格好の良い演出に観客がどよめく。その観客の歓声とグレイシアの命によって出でたるは全身赤色の鎧を纏った赤き騎士、『宝石戦士 熱血のルビー』だ。
とてもCGとは思えない、本当に生きている様に見えてしまうその姿はとても生々しく、そして主人のの敵前に立ちはだかるその姿は正に人々が夢見たヒーローそのものだった。
「MPはキャラクターカードやアイテムカード、魔法カードを使うための贄となるエネルギーだ。中には自身の生命を削ったり、手札を減らして使用するカードだってある。勿論全く贄を必要としないカードも存在するがな」
「私の解説取られた・・・・。今グレイシア選手が使ったカードはキャラクターカードです。キャラクターカードは相手のライフを削ったりするための駒みたいなものです」
アオイの説明の半分をグレイシアが説明する。彼もエトワールほどではないが中々のイケボだ。何処か渋い雰囲気のある声にオッサンマニアの血が騒ぐ。
そして此処でキャラクターカードのテキストを紹介しよう。
キャラクターカードには主に名前、コスト、種族、パワー、そして特殊効果が存在する。
コストはそのカードを使うために必要なエネルギーだ。分かりやすく言えば、給料である。そのカードを働かせるための給料を前払いするのだ。現実と違うのは出てきたキャラクターは前払いの給料で倒れるまで働いてくれるところだ。途中でおさぼり噛ましたり、「給料」寄こせとか言ってこない。従僕な社畜である。もしかしてTCGってブラック・・・?
次にパワーだ。現実のパワーはそれこそ根性やら筋肉やらだが、UWに置いてのパワーは相手キャラクターを破壊するための武力的な数値の事だ。パワーが同じ同士でバトルすると相打ちで破壊されるぞ。
そして最後に特殊効果だ。文字通り、そのキャラクターが独自に保持する能力である。特殊効果は全てのキャラについているわけではなく、中には全く能力を持っていない無能力キャラが居たりする。だが能力があるからと言って、その特殊効果が強いものとは限らない。
そして場に出された『宝石戦士 熱血のルビー』だが・・・、
Text――――――
『宝石戦士 熱血のルビー』
種族:戦士、人、土
コスト:MP1 パワー:5000
特殊効果:このカードが登場したターン中、自身の場の『宝石戦士』と名の付くキャラクターの打撃力+1する。
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「なんと!グレイシア選手の召喚した『宝石戦士 熱血のルビー』は登場したターンだけ全ての『宝石戦士』の打撃力が+1されます!!」
「打撃力は相手のライフポイントを減らす数値の事です。どんなキャラクター、アイテムでも基本は打撃力は1です。カードには記入されていないので気を付けてください」
分かりにくい実況に分かりやすい解説。一見凹凸に見える彼らもこうしてみるとお似合いコンビのように思えてくる。
そんな彼らの実況の真後ろではグレイシアの攻撃宣言が為されていた。
「我がメインステップは終了だ。これからアタック&ブロックフェイズに突入する!『宝石戦士 熱血のルビー』よ!デュエリストに攻撃!」
『我が拳は愛に燃えるのだッ!!』
熱血のルビーが随分と男勝りな声で雄たけびを上げ、無防備なエトワールに拳を振り抜く。
CGの鎧のはずなのに金属の擦れ合う音は現実的、動き方も普遍的なものではなく、鎧の中に生きた人でも入っているかのようだ。
そして熱血に燃える拳がエトワールの顔面を捉える。
『熱血!ルビーストレートッ!!』
「対抗魔法、『赫の焔刃』相手のカードの攻撃時に発動。その攻撃対象のパワーが5000以下であれば、そのキャラを破壊する」
「「「「「きゃあああああああああああ可愛いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!!!」」」」」
エトワールの口から紡ぎ出される萌え声、そして手札から飛び出たるは不意打ちの炎、あまりにもクールな攻撃の流し方に観客の目からハートが飛び出る。
一刀両断された熱血のルビーの断末魔は観客の奇声にかき消されてしまった・・・。
Text――――――
『赫の焔刃』
種族:火、破壊
特殊効果:『対抗』:相手のカードの攻撃時、攻撃するキャラのパワーが5000以下の時、そのキャラを破壊する。
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「ここでエトワール選手、対抗魔法だ!!先攻でライフが2減るのはまずかったか?」
「『対抗』は相手のターン中にでも使うことのできる特殊効果です。主に相手の攻撃を防いだり、キャラを破壊したりするために使われます。言わば”妨害”です」
一方的な攻撃にならないための”UW”の措置。それが対抗の存在だ。そしてその返された剣で自慢のキャラを破壊されたグレイシアは苦汁の表情を浮かべる。
「くっ、ターンエンドだ・・・」
「俺のターン、ドロー」
「先攻は一回しかカードによる攻撃が出来ませんがぁしかし!そのキャラクターが破壊されてしまったためダメージを与えることは叶わず!これでグレイシア選手のターンは終わり、次にエトワール選手のターンとなります!」
「先攻後攻の勝率は今までの対戦履歴から算出された数値でどちらも約50%です。ですが、基本的には後攻の方が勝率は高いため、多くの対戦では後攻を取ったプレイヤーが勝つことが多いです」
「その先攻の勝率を上げたのは他でもないエトワール選手。先攻で戦争に勝った確率が脅威の90%以上!全体的な目で見ると、先攻勝率の49%が彼によって成り立っていると言っても過言ではござぁせん!!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!!!!!!!」」」」」
此処で明かされるエトワールの真実に観衆がコレでもかとどよめく。外れ値の勝率、萌え声、そして男の子と言うこの世の業も裸足で逃げ出す属性の混沌模様。ぜひとも作者にも分けていただきたい。
それはさておき、エトワールのメインステップだ。
「・・・・・、俺はライフ1を支払い魔法『取捨選択』を発動。デッキトップから2枚見て、内1枚を手札に、残りを墓地に送る。・・・じゃぁ、こっちで」
Text――――――
『取捨選択』
種族:ドロー
コスト:LP1
特殊効果:自身のデッキの上から2枚を見て、1枚を手札に、残りを墓地に置く。このカードは1ターンに1度使える。
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手札から1枚の光るか―ドを見せる。華奢な指が取ったのは掌の上に浮く2枚の光るカードが描かれたカードだ。効果で自動山札から2枚のカードがエトワールに公開される。
そしてエトワールが1枚を手札に加えると、残りのカードはまるで崩壊するようにその場から消えた。
そして選んだカードは――――、
「俺のMPを全て支払って召喚、『暴走龍 ガギリガリオス』!」