『宣言』
「こぉんにっちわ―――ッ!!VRTCG”UW”の初見プレイヤーさん達ぃ―――ッ!!君たちは非常に運がいい!この『改訂記念の特別指導講演』に参加できるなんて、運が良いとかレベルじゃない!!神秘にして運命!!君らは選ばれし存在なのだぁ―――ッ!!」
やけに猛々しい声が大会会場を席捲する。
急に飛ばされてなんじゃらほいと言う初見さん達よりも騒がしい存在が主に二人。会場のど真ん中で叫んでいた。マイク片手に声を裏返らせるフリフリワンピのおねいさんとやけに清楚な見た目をしたおねいさんだ。
「私たちは、この『VRTCG”UW”改訂記念の特別指導講演』を担当するシズリとぉ―――ッ!」
「アオイです」
天真爛漫、元気溌剌。道行くところに敵は無し。人生全部がオールグリーン。見て癒される新しい癒し系キャラ(自称)のシズリ。そしてその真反対を行くようなさわやかな見た目の解説担当のアオイだ。
実年齢と比べものにならない程にはお二人方は綺麗だった。おっとこれは禁句だった。
「改訂版VRTCG”UW”。その完全なる完成を迎え、それを記念して”今日”のこの時間帯にログインしていただいた初見ユーザーさん達には本来の特別指導講演の他、素敵なプレゼントがありまぁーすッ!!是非最後まで見てってね!」
「ノリと気分でやって来た初見さんに分かりやすく説明すると、これは仮想現実空間でトレーディングカードゲーム”ユニオンウォーズ”をするゲームです。お互いがお互いのデッキで対戦し合う他、新たに新設された”ダンジョン”で、本物に限りなく近い感覚でキャラクターに触ったり、新たなる仲間を求めて旅に出ることが出来ます」
「まぁ?口で言っても、VRでTCG?キャラクターが三次元になっても画一的な行動しかしないんでしょ?と思ったそこの貴方達!その考えが節穴だってことを教えてあげるわッ!!」
ふわっふわの金髪を揺らしてフリフリワンピのシズリが威勢よく吠える。それに対してアオイは終始冷静だった。
「丁寧にルール説明よりも熱い戦争を通してのルール解説の方が簡単ですし、初見さんもそちらの方がのめりこみやすいと思います。なので早速、実演をしてもらいましょう」
アオイがそう言った瞬間だった。大理石のような四角い石で構成された床から数字の羅列が浮かび上がり、徐々に人の形を形成し始めた。
そして完全に転送が完了した二人の人物が姿を現した。
一人は黒いフードコートで完全に顔と体形を隠した人物だ。身体のあちこちにベルトや鎖が付いている。
もう一人は浄化の炎を想起してしまうような燃え盛る整った赤い髪に、黄金よりも眩い黄色の瞳を携えた好青年だ。服装は目の前の恥をも忍ばない闇の住人とは違い、まるで王様のような赤と黒を基調とする上品な服装にモコモコの襟が付いていた。
彼らが登場した効果と言うのは凄まじいもので、会場の観客席に居る一部の層から猛烈な拍手喝采が響き渡ったのだ。それほどの影響力を彼らは持っていると言う事だろうか。未だに正体のよく分からない二人に送られる賞賛は、まるでその二人を知っているかのような意味が含まれていた。
だがしかし、聖歌を含めほとんどの初見プレイヤーにとっては彼らの存在がどれほど凄いのかが分からなかったようだ。無理もない、まだ立体的なキャラクターもカードゲームも登場していないと言うのに、たった二人のアバターが現れただけで一部のアバターから拍手が送られるのだから。
ならばそんな彼らにはその二人の存在がどう凄いのかを認知させるには、どうすればいいか。
答えはすぐに出た。
「なんと!今回は特別なゲストが”二人も”来てくれましたぁッ!!」
「片方の黒い人は改訂前のVRTCG”UW”に置いて最年少にして最初の”UW”キングとなり、その後も不動の王位を貫き続けていた生きる伝説、”エトワール”さんです。もう片方のイケメン君は現在の”UW”の王位保持者で、様々な戦い方を発明してきた”戦場の策士”の異名を持つデュエリスト、グレイシア・ヴァン・グリフさんです」
登場してからずっとその正体が謎に包まれていた二人の素性が明かされる。
その刹那、会場全体の空気と音量が五段階ほど上がった。
”生きる伝説”、”最年少王位保持者”のエトワール。”現在王位保持者”で”称号持ち”というまるでアニメの裏ボスのような肩書に心を踊らされたのだろう。実際、観客席のアバターの中には興奮を抑えきれずに立ち上がって賛美を送る重症患者が何人か居たのだから。
ただし聖歌にとってはやはりは”凄い人”で収まってしまう。一定以上の凄い人を見てしまうと、其処らに居る”バケモノ”と大差ないように感じるのが人間と言う生物に備わった機能なのだから。
「今回はお互いがお互い同じデッキを使用します。本気のガチ勢戦争をしてしまうと初見さんも私たちもついて行けなくなってしまうからです!」
「変なコンボを組めないように、各国のゲーム会社の上層部が何日間にも渡り試行錯誤を繰り返して作り上げたデッキです。あくまでも初見さんが分かりやすく、そして沼にはまりやすくするための配慮です」
此処で新たに分かるデッキ内容。そしてアオイの口から遠回しに二人がどれほどのバケモノなのかを伝える言葉が漏れ出た。
その言葉の意味を理解した数名が更に興奮し、それが周囲に伝染病のように広まって行くのは最早時間の問題だった。
そしてシズリが二人の話を切り上げて、メインテーマに話を持っていく。
「ではでは、皆さんお待ちかねの”UW”の醍醐味を今から実演してもらいましょう!!―――では、早速ですが『宣言』をお願いしまぁっすッ!!!」
既に前々から打ち合わせがされていたのであろう、二人はコクリと頷いたかと思えば互いが互いの懐にしまわれているデッキケースを取り出した。
どちらもなんの変哲もない白いデッキケース。だがしかし、それを互いの目の前に出したとき世界が変わる―――――。
『――これから”エトワール”選手と『戦場の策士』”グレイシア・ヴァン・グリフ”選手の戦争を始めます。対象の座標を中心にバトルフィールドを展開、対象者の所有するデッキの自動山札化の申請―――、承諾されました。これより、デュエリストによる戦争を開始します』
機械的な音声と共に二人のデュエリストの頭の上にそれぞれ二つのタグが表示される。
ライフポイント(LP):10
魔力エネルギーポイント(MP):2
『ワールドカードの有無を確認。両者ワールドカード無し。――戦争の開始準備に変更はありません。各選手は『宣言』をしてください』
またまた機械的な音声が流れると同時にアオイの解説が追加される。
「ワールドカードは自身の戦争を有利に進めるためのルールを付属させるカードの事です。一枚一枚が非常に強力なため、デッキ一つに付き一枚しか付属できません」
初見の人が困惑しないように、機械音声の終了直後に解説をする。分からない人にとっては有難い事だ。
そして、アオイの解説が終わった直後だった。
先に動いたのは『戦場の策士』と呼ばれる王位保持者である、グレイシアだ。やけにクールなポーズを取っている。
「神の時代は終わった。天帝の時代は幕を下ろした。竜王の時代は終焉を迎えた。今の時代は我が時代!我が持つ全てを刹那に魅せ、そして刻む!我こそが時代の帝王となるにふさわしい闘争を!『宣言』、”覇道の再臨”!!」
正にアニメの世界に居るような、そんな恰好いい台詞を世界に拡散してグレイシアがデッキを真横に振り抜くと、デッキが光粒子となり6枚の白く光る手札と白い靄が凝縮された自動山札が顕現する。その圧倒的なデッキ捌きにまたもや彼らを取り囲む観衆が黄色い声を上げる。
それと同時にアオイもまた解説を入れる。
「基本デッキは55枚以上70枚以下で、初期手札は6枚からです。『宣言』は戦争を開始すると言う挨拶です。グレイシア選手のように決め台詞の口上を言っても良いですし、『宣言』だけを言っても構いません」
「実際、最初の頃はエトワール選手も『宣言』しか言ってなかったんだぞ?大丈夫!変に格好つける必要は無いから黒歴史を作る必要は無いのだ!!」
シズリが説明を付け加えると観衆の一部分から安心の溜息が出た。その中には聖歌も入っていたりもする。
そして、グレイシアの宣戦布告が終わり、次にエトワールの番となる。
「「「「・・・・・・・・」」」」
皆がジッと、エトワールがどんな口上を決めてくれるのかと期待しながら待つ。
そしてエトワールがその視線に呼応するかのように口を開く。
出た口上は――――――、
「『宣言』」
何の変哲もない普通の宣言だった。
流石のエトワール。例え模擬戦争だとしても要らぬ恥は搔きたくないのだろうか、文字通り宣言だけをした。
この初見さんに対しての塩対応っぷりには流石の観衆達も「期待外れ」と怒る―――ことは無かった。
むしろアオイとシズリまでもが口を押えていた。なんなら観客席に居た聖歌を含めたすべての初見さんも口を塞いで頬を紅潮させていた。
「「「「「(アニメ声だぁ・・・・・・・・・・・・・・・・(感動))」」」」」
全員の心の声が一致した瞬間だった。
まるで天からのお導きのような、明るくて尚且つ心を静められるような声。α波が出ていると言われても信じてしまう、そんな可愛すぎ格好良すぎの声は出何処がエトワールと言う最高のポジション。ホント喉元どうなってやがる。羨まし過ぎて転生したくなってしまう。
そして当の本人はまるで何事なのかも気づいていないご様子だ。いや、多分気づいた上で知らないふりをしているのだ。だとしたらこの男、とんでもない小悪魔なのではなかろうか。天使に小悪魔と属性だけで矛盾が起こっている。許せない。私にも少し分けてほしい・・・。そう願うばかりである。
そんなこんなで戦争の火ぶたを切ったのはエトワールの萌え声だった。