女神の土下座
おひさー
下ネタ注意
“ふんふんふ〜んっ♪”
【最果ての聖域】。
その奥地にて、ロゴスは鼻歌を歌いながら湯船に浸かっていた。
石造りの温泉。
しかも緑豊かな木々が生い茂る中でだ。本来ならこんな場所に湯の源泉は存在していない。そもそも、その石造りも自然のものでもないのだ。
“ちと時間を費やしたが、念願の温泉完成じゃぁっ!石造り?わし作じゃっ!どうやって沸かす?この下にわし作の熱源装置、【熱導珠】じゃっ!力を流せば自動で温めてくれる優れ物……まって、わし天才じゃないか?”
自分で勝手に説明し、自画自賛をするロゴス。暇潰しに作った温泉は、ロゴスの娯楽だ。娯楽を作る為に、岩を用意し温泉の器を作り、水を引っ張ってきた。湯気さえ出ていなければ、泉である。大き過ぎず、小さ過ぎず。
もうこれは温泉ではなく、露天風呂なのだがその湯は澄むほどに透明感のあるもの。
温泉の魅力を理解しているのか、他のモンスター二種と共に湯船に浸かっていた。
白い狼達と四脚の竜だ。
白い狼は人々から【幻霧狼】と呼ばれる目撃例が極めて低い幻の白狼である。彼等は身の回りに霧を発生させ、相手を夢幻を見せてるのだ。獲物を仕留める時は、霧で惑わしている最中に奇襲するもの。元々の戦闘力の高さはドラゴンと同等とされており、その霧を生み出して戦う故に遭遇した相手の命は無い。故に目撃例が極めて低いのだ。
そして、四脚の竜【エアグラン】という大きさは馬ほど。翼は鳥の様に畳んでおり遠目から見れば馬と間違うかもしれない。【エアグラン】は【幻霧狼】同様希少なモンスター。小型の竜ではありながら目撃例はあるものの信憑性もない想像上のモンスターとされている。目撃した者によれば、“悪魔の翼を生やした馬“という言い方をされるのだ。身体全身が漆黒が故、あまりよくないイメージがつけられている。逆に身体が白ければ【天翔馬】だと考えられていた。しかし、何故色で判別しているかは結局の所近くで目撃した事例が無い為。もし、馬ではなく竜だったと知られればある意味歴史的大発見だ。
“まあ……温泉じゃしな。よいとするかの”
温泉ではなく露天風呂なのたが、ロゴスはそこは一切譲らずまったりと湯船に浸かりながら静かに微睡む。ミストウルフとエアグランも同様にじっと、そして滅多に味わえない娯楽に入り浸っていた。
既に女神マナに世界の管理・監視を任せて数ヶ月。アクアリウスは女神マナの補佐として任せてあるので、何かしらの危険は問題ないだろうと考えていた。
…………のだが。
“……………………………のぅ、さっきからお主は何やっとるんじゃ女神よ”
ロゴスが漸く現実逃避を諦め、近くに土下座をする女神が一柱いたのだ。一応温泉?なので常に湯は器から溢れていくのだが、彼女はそれに濡れても動じずに土下座をしていた。
何故、女神マナが土下座しているのか。意味不明であり、それと同時に嫌な予感をしていた為敢えて暫く気づかぬプリをしていたのだ。
が、漸く気付いた事に女神マナはガバッ!と顔を上げると――――それはそれは、涙や鼻水を垂れ流していたみっともない顔がそこにあったのである。
「お゛ひざじぶりでずぅぅぅう!!!ロゴスざまぁぁぁぁぁあ!!!」
“ぬわっ!?そんなベタベタな顔でひっつくなぁっ!!!折角の毛並みが汚れてしまうじゃろっ!”
「そんな冷たいこと言わないでくださいよぉっ!かわいいかわいい後輩なんですからぁっ!後輩を大切にしないとぉっ!孤立しちゃうんですよぉっ!今だってほら――――――」
そう必死に女神マナは辺りを見渡すが、ロゴスと共に温泉に浸かる【幻霧狼】に【エアグラン】という彼女でも一目でヤバい存在だと理解する。ヤバい、とは具体的に簡単に自分の命を狩られるということ。そしてあまりにも醜態を晒す女神に憐れみを籠もった目であったが、静かに目を逸らしたのだ。
彼等も「あの女神、ヤバい」と感じたのだ。簡単に説明すると、面倒事に巻き込まれそうな気がしたのである。が、女神マナの想像通り彼等はロゴスの戯れとしてじゃれ合い―――――彼らからすれば死闘を繰り広げつつも、この神域で生き残る猛者達。ロゴス本人は知らないが、この神域での頂点はロゴスである。そして直属の部下が彼ら【幻霧狼】に【エアグラン】であった。
「――――――あれ?」
いや、孤独じゃなくて仲睦まじい様子。むしろ仲良くやっているので、女神マナからすれば理想的な関係だ。
“や、孤独にはなっておらんぞ”
「………………ん゛ん゛なあ、ことよりぃっ!!!ロゴス先輩っ!助けてくださいっ!もうヤバいんですっ!私一人じゃ、こんなの管理どころか監視もできませんよぉぉおっ!」
“マナよ。女神に二言はない、と言い切ったじゃろ”
「こんなでしゃばる女神の言葉なんて信じないでくださいよっ!もうっ!!!」
“え、あれ?これわしが怒られてるの?”
「ですが、私の力不足なのは確かなのです。もう、こんな星にあんなバケモノ共が蔓延ってるなんて…………だから他の女神達は避けていたんですね」
“で、わしになにようじゃ”
「あれ?アルケー様から聞かされてませんか?一応相談した結果、ロゴス様と共にこの世界の監視をすることになったんですよ」
“……………………え、むり”
「無理じゃないんですよぉっ!この星にバケモノ八体いるじゃないですか!その内のプルートさんを除いて、スライムの【サトゥルノ】と雲龍の【ウラーノ】以外は殺されるかと思ったんですからっ!」
大蛇【メルクリウス】の場合。
「我は女神マナっ!感謝しなさいっ!この私がこの世界の管理を――――――」
―――――――グォォォォォォォオ!!!
「え、あの、聞いてます?ちょっ、何大口を開けて――――――やっ、まって!?寝てますよね!?寝ぼけて私を餌とか―――――――」
―――――――イタダキマス。
「ゔびゃぁぁぁあっ!?!?やめてやめてっ!食べないで!や、やめっ!この深海だから動きづらくて―――――――んぴゃぁぁぁあっ!?!?」
怪鳥【ウェヌス】の場合。
「我は女神マナ!喜びなさいっ!この私が、この世界の監視――――――」
――――――侵入者、発見。敵と認識……排除する。
「あ、あの、私この世界の監視することになったことは」
――――――知ってはいるが、余に対して頭が高い。不敬だ、故に死ね。
「まって、何しようとしてるの……?」
――――――安心するがきい、貴様の様な、神如きに遅れは取らん。精々貴様が惨たらしく殺して―――。
「い゛ゃ゛ぁぁぁぁぁあ゛っ!!!やめてぇぇぇえっ!!!」
大狗【マルテ】の場合。
「我は女神マナっ!敬いなさいっ!この私がこの世界の――――――」
――――――あ゛ぁ?誰に向かって口きいてんだぁ?監視なんざ不要だ。テメェは侵入者らしく、ここで死ねよ。あぁ、神を喰らえばオレ――――強くなれるかなぁ?
「私を食べても美味しくありませんからぁぁあ!!!」
―――――何事も挑戦だよなぁ!
「そんな挑戦いらな――――――って、いやぁぁぁあ!!!髪が、私の髪が燃えて―――――」
―――――女神を焼いたら美味そうだな。
「や゛め゛て゛ぇぇぇぇえっ!!!」
巨人【ユッピテル】と大鯱【ネプトゥーン】の場合。
「あ、あの、わ、私、女神マナって、言います。そ、そのっ、この世界の監視を――――――」
『お゛ぉ゛、そごの女神!おんどりゃぁ、海か大地か、どっちがエエか言え゛や』
「ぇ、えぇ?」
―――――無論海の方が良いに決まってますよね、女神サマ。
「ま、まぁ……?」
『なんじゃワレ?おい女神、お前ざんはワイの敵っでごどになるんやが、それでいいんやな?』
「ヒッ!?や、大地も捨てがたいなーって」
『お゛ぉ、ぞうかいそうかいっ!なら゛ぁ、お前さんはワイの味方やなぁ!残念やなぁ、海の』
――――――あら女神サマ。ワタクシと敵対なさるおつもり?あらそう…………そこの陸の者と同種、いいえそれ以下ということですか。残念です――――ねぇ?
「あっ、あっ、いや、海も、陸もいいなぁ〜って、思ったり―――――」
『どっちかにせぇや、こ゛のあほんだらぁっ!』
―――――どちらか、と聞いているのにその返答。無礼極まり無いですわねっ!
「なんでよぉぉぉぉぉおっ!?!?」
と、いった具合に悉く痛い目――――――というより、酷い目に合ってきた女神マナ。髪も大狗【マルテ】によって後ろ髪が焦げた為、少しアンバランスな髪型となっていた。
“災難じゃったのぅ”
「あ、アイツ……アクアリウスって奴も、ただ後ろから笑うだけでっ、だすげでぐれなぐでぇぇえ゛」
“……ま、まぁ、【サトゥルノ】と【ウラーノ】とは話しできたんじゃろ?”
「【サトゥルノ】と【ウラーノ】…………御二方共、礼儀正しくて安心しましたけど、【サトゥルノ】は、少し怖かったです。いえ、すごく怖かったです」
“何か、あったのかの”
「………………………………苗床にならないかって」
“うん、どんまい”
「もうヤられるならロゴス先輩でいいや…………あ、その為にこの場でお風呂を?中々えっちいですねぇ」
“や、いらん誤解。勘弁じゃ”
「は、はは……もう女神って、何なんでしょうね。ぶっちゃけ、今の私って無能じゃないですか。いる意味、あります?どうせなら監視とかお役目全て捨てて―――――」
“多分じゃが、何もやらん女神に容赦はせんじゃろうな。アルケーは”
「このままどーせ、女神の同窓会で下っ端として働く私は笑われるんですよぅだっ。ただ、死にたくないだけだから働いてるんですし」
“そんなにぶっちゃけて大丈夫かの”
「あぁ、ロゴス様。女神なんて単なる名前負けした存在なんです。まあこんな私見てたらわかりますよねぇ」
“……ま、まあ、風呂に入って少しは休め。別に変なことする気ないからの”
「私、そんなに魅力ありません?」
“幼女体型に欲情するのは……その、のう?”
ロゴスの言葉にうんうん、と頷く仲良く温泉に入る仲間達。やはりモンスターでもそういうのはあるらしい。そういうのは、そういうことである。モンスターの中には「ロリっ娘は……」や「ロリはなぁ」、「流石にキッツ」などなどのお言葉が女神マナに送られたのだが、当の本人は目を曇らせていた。
「ふ、えへへ…………ろ、ロリっ娘……だもんねぇ」
ケタケタと静かに失笑する女神マナだが、そんな壊れた玩具みたいにはなりつつ服を脱いでどこも隠す気もなく、むしろ堂々とした様で湯船に浸かった。
いや、流石に恥じらい…………を小声で言うモンスターもいたのだが、女神マナは「だって、ロリ体型ですから。見ても欲情とか発情したいでしょう」と涙をちょちょ切れながらカラカラと笑う彼女にストン、と納得する彼等だが、妙に可哀相に感じつつ共に温泉を楽しむ―――――。
「背、高くならないかな……170くらい。今、おチビな145〜……あと、胸、大きくならないかな……Gカップ……GODのGカップくらい…………ぁ、今断崖絶壁のAAカップで〜す〜…………アンダーとトップの差が、差ががががががが」
“ほんと、めんどくさいのぅ!?!?”
女神マナが己の体型がよりコンプレックスになってしまい、暫くの間は彼女に励ましの言葉を投げかけるモンスター達が苦労するのは言うまでもない。
「これでも、成人はとっくに過ぎてるんですよぉ……ね。あ、成長の見込み無い………身体的にも、女神としても……」
“しつこいっ!!!”
「慰めてくださいよぉっ!こんなチビでも使える穴はあるんたから、襲うなら襲えぇっ!」
「……………もう色々と捨て過ぎじゃろ。とりま、これ飲んで落ち着け」
「お乳付け?あ、どうぞ」
「いやんもう」
心底ダルそうにしながらロゴスは女神マナに新鮮な果実ジュースを飲ませて、何やら仕事終わりの居酒屋で愚痴をボロボロ溢す彼女の話をロゴス達は傾聴するのであった。