覡アクアリウス
その日、人々は遭遇した。
自らを【覡】と名乗る、この世の美を集約した一人の麗人が現れたのだ。
そこは国から離れた辺境の地である村。
お世辞にも平和な暮らしが出来る訳もなく、恐ろしく強いモンスターが存在しており、人々はそれに対抗するのに精一杯。食料も強いモンスターと遭遇しない様に探索をしたりはしているものの、日々食い繋ぐ事がギリギリであった。
しかし、ある時この村の北にある人は立ち寄らぬ【最果ての聖域】と大昔から語り継がれる巨大な森林に探索へ乗り出したのだ。
若者達は賛成するが、年寄などからは『そこは神が住まう場所。決して入ってはならぬ。無謀者には裁きが下される』と反対していたのだ。だが、食料の関係上我慢が出来ない―――――行かざる負えない者達は、優秀な狩り人を三名で【最果ての聖域】へ探索することとなった。
【最果ての聖域】。
一言で言うならば、食物の宝庫。
しかし、食物が豊富ならばそれを餌とするモンスターもいる。しかし、そのモンスターの餌にするにも豊富過ぎるが故に彼等はここを希望と感じたのだ。
普段狩ることも少ない鹿や兎のモンスターに、見たこともない宝石の様な果実などを狩り、採取して村へ持ち帰ったのだ。
それが駄目だったのだと、彼等はそう感じただろう。
『我が主の領域に侵入した人共よ。警告だ。狩る・採取するのは良いが、もし……だ。この領域を穢す・壊す様な事をすれば貴様等の命は無いと思え』
突如、現れたのは一人の神。
自ら名乗った訳ではないのだが、その存在一つが自分達人間を遥か超越する存在だと理解していた。声を発することすら忘れてしまう程の完成された美の化身。
美し過ぎるが故に、人々は畏怖してしまうのだ。
『我は【超越神ロゴスの覡】である。【超越神ロゴス】様のお言葉、しかと告げた。夢々この警告を忘れるな』
そう言い残し、その存在は霧が晴れる様に消え去ってしまった。
彼等は恐れた。
しかし、同時に感謝をする。
その存在が覡と名乗り、それを奉る存在が我々を許したのだ。食料を採取・狩猟を許すことは、即ち自分達はこれから生活を続けられるということ。
それから彼等は【覡】の言葉を忘れず、無闇に採取や狩猟をせず、必要最低限。自分達が生活するのに必要な分だけ採取・狩猟する様にし、自分達の行いを許してくれた【超越神ロゴス】とその【覡】に日々感謝をする。
それはやがて、【超越神ロゴス】を奉る一つの小さな社が建てられ、人々が集っていくのだ。その中で宗教となるのだが、階級などは存在しないもの。教徒達は皆平等であり、その上にいるのは【超越神ロゴスの覡】のみ。そういう風習が生まれた為、人による宗教の私物化は行われることはなかったのである。
それはさておき、そんな事になるとはロゴスもアクアリウスも知る由もない。
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「警告してきました、主様っ」
“ほんとにしてきよったわっ!”
あわわーっと動揺を隠せないロゴス。そしてアクアリウスのドヤ顔に若干イラつきを隠しつつも、やってしまったことは仕方がないと開き直るしかない。
“まあ、文句言ってこんことを祈るかのぅ。あぁ、やじゃやじゃ、こんなヤなこと考えるの止めてものづくりじゃ、ものづくりっ!”
現実逃避をするロゴスはプルートやアクアリウスにちょこちょこ頼んだ様々な形や色の鉱物が山盛りに置かれている場所へ向かう。
ロゴスは暇潰しにモノづくりにハマっている。
時には剣や刀、メイスや槍等の武器や綺麗に削った鉱物に様々な属性を馴染ませて宝石の様にカットしなりなど…………本当に様々なもの作った。
その結果、今ではロゴス専用の住処には莫大な財宝の鉱物や武器が数えられない程放置されているのだ。無論、失敗作やロゴス自身納得しないものも多くある。
「あ、主様。怒って……ます?」
“…………アクアリウス、次からわしの話最後まで聞いてね”
「も、申し訳ございませんでしたっ!」
“まあ警告しても良かったかもしれん。それに、何れ早いが遅いかの話じゃからな。別に怒ってはおらん。じゃが…………そうさな。これから人と接触することも増えるかもしれん。その時はアクアリウス、お主が対応するんじゃ。こんなデカい図体じゃとアレじゃからな”
「むしろロゴス様の神々しいお姿を見れば、あの人共は皆平伏してしまいますからねっ!」
“うん、全然違うんじゃがね?……………ところで、プルートは何処に”
「さぁ?」
アクアリウスが帰宅する直前から姿を見せないプルートをキョロキョロと探すロゴス。しかし、プルートが何処にいるかは大凡特定した為、ロゴスは黙々とモノづくりに励むのであった。
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ロゴスとアクアリウスは、八柱の神とは役割が異なる。
ロゴスは世界の監視を。アクアリウスはその補佐のみ。
しかし、八柱の神はそれぞれ役目はあるものの共通するものがアルケーによって初めから組み込まれているもの。それが顕著に出ているのは怪鳥【ウェヌス】であった。
怪鳥【ウェヌス】。
金粉を振り撒く、一体の鳥。
空を覆う程の翼をはためかせ、尾はその身体と同等の長かを誇る。その身体は、普段白く雪の様に真白な羽毛だ。
しかし、今は違う。
『この余が、統べるこの空から侵略者とは……ッ!!!相手にとって、不足なし、なのだっ!!!』
ウェヌスの標的は、雲の上より更に、更に上から火球と化した“何か”である。その“何か”は透明な大きな真珠だ。しかし、大気圏から落下している為かその熱で火球と化し、紅く発光していた。
それはウェヌスにとって、排除すべき侵略者。
故に、撃退を開始する。
―――――――いや、もう既に終わっていた。
『ふん――――――ぬっ!!!』
音を超え、光を超えたその速度。更には己の身体に纏う炎は紅から黄金へ、そして蒼い炎へ化して、そのまま侵入者である白い球体を貫いたのだ。
爆発は大きく、後から遅れて爆音が鳴り響く。
ウェヌスが撃破した様子を、他の七柱は目視で確認する者。深海や火山の中にて気配を確認する者、多種多様ではあったが、それぞれ確認はしていた。
撃破し、墜落する侵入者を確認したウェヌスはそのまま遠い空の彼方へ飛び去ってしまう。
しかし、ここで誤算があった。
彼等は既に撃破した“何か”は墜落する。しかし、あくまで撃破したのは“何か”が入っていた器のみ。肝心の中身は、奇跡的にも無事であった。いや、その器があったお陰で中身が無事だったのだ。
その器は徐々に削れ、崩壊していき、器としての形は無くなる。しかし、器の機能の一つに中身を守るものがあった。それが発動し、その中身のみは地上へ堕ちていく。
そして器の機能が、墜ちる最善の場所を導いたのだ。
堕ちた場所――――――墜落した場所は。
ロゴス達が住まう【最果ての聖域】である。
しかも、今モノづくりに夢中になっているロゴスの頭上に丁度落ちてきたのだ。
そして――――――――。
“なぁっ、なんじゃぁぁぁぁあっ!?!?”
『ろ、ロゴス様!?』
反応に遅れたプルートは、即座にロゴスの元へ向かおうとするのだが、一先早くロゴスの悲鳴が響き渡るのであった。