第九十七話 屋敷での生活初日 夜
ベッドの搬入が終わって、また食堂に戻ってきた。
カティは今日は私達の案内役ってことで本当は家事はお休みの予定だったみたい。
なおのことお昼は私が作って正解だったね。
少し話した後、メアリーとアリシアはお風呂の準備に向かって、食堂には私とロザリィ、そしてカティの三人だけになった。
「カティは結婚してないのか?」
そこでロザリィが前置きも何もなしで聞きたいことの核心ど真ん中を突いた。
ロザリィにはわかんないだろうけど、結構繊細なところだからね? まぁ、だからこそ任せたんだけど、ここまで直球で聞くとは思わなかったよ。
「ごめんね。今後の為に聞いておきたかったんだ」
思ってたより驚いた顔をしてたカティに一応のフォローを入れた。
「いえ、こちらからお話せねばと思っておりましたので。まさか先に聞かれるとは思っておらず驚いてしまいました」
「ん? てことはやっぱり旦那さんがいるの?」
ならお休みの日のこともちゃんと考えないと。
「いいえ。結婚はしていないのですが……実は息子が一人おります」
「えっ?」
ちょっとビックリ。ううん、結構驚いた。
「今年12歳になった子で、10歳の時からはこの国の養育施設に入っています」
「言えなかったらいいんだけど、お父さんは?」
「場所は伏せますが、他国の貴族の方です。仕えていた身で結婚など許されるはずもなく……そもそもその方には奥様がいらっしゃったので……」
なるほど……これは掘り下げない方がいいね。
「じゃあ、その子を育てる為に帝宮で?」
「はい。子持ちのメイドなど普通は雇ってもらえませんが、ここなら“特技“も活かせますし、陛下もすんなりと受け入れてくださいました」
うわぁ、その特技……気になるなぁ。
「それで、息子さんとは帝宮にいた頃はどれくらい会えてたの?」
「ふた月に一度外出の許可を得て会いに行っておりました」
「え? さすがに12歳だったら寂しがるんじゃない?」
私だとタイクーンに着いた頃だよね……あの時アカツキ達がいなかったらどうなってたか……。
それでなくてもしょっちゅう両親を思い出して泣いてたよ。
「聞き分けのいい子で私が忙しいのも理解していましたから……」
そう言いたいんだね。カティも会いたいに決まってるよ。
「よし、決めた。うちのメイドは週休二日! いつでも外出オッケー!」
「は?」
「あの二人の希望も聞きながら、三人が揃って休むことがないように……スケジュール組み、できる?」
仲の良い二人だから一緒に休みたい日もあるよね。
「い、いいんでしょうか……?」
「もちろん! もし息子さんが体調を崩してたりしたらもっと休んでいいからね。その時はちゃんと付いててあげて」
「ありがとうございます……」
あわわ、カティさん泣き出しちゃった。
「私がいるときなら屋敷の掃除は魔法で一発だからね! うんと楽していいよ」
「えっ?」
「見てて。『浄化』っ!」
指をパチンと鳴らして屋敷の『浄化』を実演して見せる。
「これは……すごいです!」
元々綺麗になってたから変化は少ないけど、僅かな汚れなんかも消えていく。
「今の何!?」
「急にお風呂場が輝きだしたのですが……!」
お風呂で『浄化』を見たメアリーとアリシアが駆け込んできた。
「ね? 一日そこら家を空けても平気でしょ?」
「「?」」
「ふふふっ。そうですね。ではお言葉に甘えさせて頂きます」
『浄化』が本当に食堂だけじゃないことを知って、カティも受け入れてくれた。
「そういや、みんな帝宮じゃ給料いくらくらい貰ってたんだ?」
そこでもまたロザリィが私の気になってたことを切り出した。言わなくても伝わってたのは正直嬉しいよ。
「私は息子のこともあって月に金貨5枚、食事は帝宮で頂いていました」
「「息子!?」」
今初めて知った二人はさっき聞いた私みたいに驚いてる。
「養護施設に息子さんがいるんだって」
「そうなの!? なら、もっと休んでください!」
「そうです! その分私達が働きますから!」
「ぷっ……ふふっ。ありがとう二人とも。フィルナさんにもそう言ってもらえたところよ」
私と同じ反応をする二人にカティさんも笑い出した。
この子達は本当にいい子だね。私も嬉しくなっちゃうよ。
「週に二日休んでもらうから、そのつもりでね」
「はいっ! 任せてください!」
「大丈夫です!」
「二人も同じだからね?」
「「へっ?」」
「みんな週休二日。二人一緒に休んで出かけてもいいよ」
「い、いいんですか!?」
「それは……魅力的ですが……」
「いいのよ。私だけじゃなく、二人にも休んでもらわないと気まずいわ。私達は仲間でしょう?」
「は、はい!」
「ありがとうございます!」
うんうん、最初よりずっといい感じ。
「それで、二人は給料はどうだったの?」
「あたしは月に金貨3枚ですねー」
「私もです」
独り身ならそれで貯金できるくらいあるね。というか、使い道あったのかな?
「なるほど。なら、同じでいっか」
十分払えるだけの蓄えはあるしね。
「そうだな」
「「「えっ?」」」
「カティが月金貨5枚、メアリーとアリシアが3枚でしょ? とりあえずもう少ししたら離れちゃうから先に払っておこうか」
カティに金貨600枚、メアリーとアリシアに360枚。十年分先払い。
「ちょっ……え?」
「ええええ?」
「あの……フィルナさん?」
「受け取ったら10年はここを離れられないからね?」
そう言ってニヤリと笑って見せた。
「も、もしですよ? その途中であたしが結婚する……なんて言ったらどうしましょう?」
「その時は結婚祝いを贈って送り出そうかなぁ」
「へっ? いや、このお金は……?」
「持ってっちゃえ」
「あ、あの!」
「アリシアどうしたの?」
「私、ここにいます! もし……その……け、結婚をしたとしても! ここで働かせて頂きます!」
「いいよいいよ。その時は旦那さんと一緒にいなよ」
「いえ、今決めました!」
「フィルナさん。私も同じ気持ちです。どうか、よろしくお願いします」
「あ、あたしもっ!」
出られないなんて冗談のつもりだったんだけど、かえって火がついちゃったみたい。
「ふふっ。わかった。よろしくね。でも、気が変わったらいつでも言っていいからね」
「一応な。頭には入れておいてくれよ?」
ロザリィもこの三人と一緒にいられるのが嬉しそう。
「「「はいっ!」」」
三人揃っていい返事。
「それじゃ、お風呂準備できたんだよね? 一緒に入ろう」
「はい、ご一緒させて頂きます」
うわー! カティの表情がめちゃくちゃ柔らかくなった!
ちょっとドキッとしちゃったよ。
「あー気持ちいい……」
まずはロザリィの髪から。いつものように魔力を込めて洗ってあげる。
「そ、そんなにいいんだ……」
「ドキドキするね……」
「次はカティかな。おんなじようにここに座って背中を私の膝の上に預けて楽にしてて」
小さな椅子に座った私の横で同じ椅子に座らせて仰向けになるようにする。
「こ、こうですか?」
「うん、そうそう……って……やっぱりスゴいなぁ」
「? 何がでしょうか?」
「コレだよ、コレ!」
「ひゃっ! ちょ……あっ、ダ、ダメですよ」
目の前にある二つの山を弄ると、カティは可愛い反応を見せてくれる。
「確かに……これはスゴい」
「私達なんて……仰向けになったら……」
それをしっかり見つめるメアリーとアリシア。二人も私やロザリィと変わらないくらい。メアリーが少しあるかな?
「一緒にお風呂入ってたんじゃないの?」
「いや、さすがに見るのは遠慮してたというか……」
「悔しくて」
「なるほど。まぁ、とにかく始めるよー」
「は、はい」
カティの髪も魔力を込めて洗っていく。
「はぁ……」
「どう?」
「気持ちいいです……。もし可能なら今の染めている色を戻してもらえませんか?」
カティは陛下の髪の色に倣って黒く染めてるんだったね。
「いいの?」
「はい。これからはフィルナさんに仕えるわけですし……フィルナさんは素の私を受け入れてくださいましたから。髪も本来の色に戻したいです」
「わかった。やってみるよ」
髪を癒しつつ、元に戻るイメージをしながら洗っていく。
すると、黒色が落ちて赤みがかった茶色に変わっていった。
「これです。これが以前までの私の髪の色……」
自分で髪を掬い上げながら感慨深そうに見つめるカティ。
「よーし、次は……メアリー。おいでー」
「はーい。お願いしまーす」
メアリーは緑のふわっとした髪だから……サラサラじゃなくてふわふわの軽くなるイメージ。
「あはっ、くすぐったいですー!」
「ほら、動かないの。メアリーは一番短いからね。頭に当たってる時間が長くなっちゃうんだよ」
「はわー。気持ちよくなってきましたぁ」
「よし、オッケー。最後はアリシアだね」
「お、お願いします」
「はは、楽にしてー。目を閉じてるといいよ」
「はい……」
アリシアは紫の長くて艶々な髪だからロザリィと同じイメージで。慣れてるからやりやすい。
「んっ。……ふっ」
「こら、変な声出さないの」
「ひゃっ。ご、ごめんなさい。で、でも勝手に……あっ」
ああ……なんだかイタズラしたくなっちゃうよ。って、違う違う。
「はいっ、終わりっ!」
「はぅ……凄かったです……」
「それじゃあ最後にみんなでフィルナを洗おうか」
「へっ?」
ろ、ロザリィ?
「私は右腕をやります!」
「ならあたしは左!」
「では、私は前を……」
「じゃあアタイは背中だな」
「ちょ、ちょちょ! 同時はダメだってばー!」
私の叫びは虚しくお風呂場に響いて、全身まとめて洗われちゃった。
「くぅ……ひどいよみんな……」
「はっはっ、たまにはいいじゃないか。王様気分ってやつだろ?」
「ええ、陛下はいつもこうです」
「私は一般人だってば」
「そんなことよりフィルナさん!」
「ん?」
「見てくださいアレ」
「アレ? むっ」
メアリーが指差したのは湯船に浮かぶ二つの山。
「う、浮いてる……」
アリシアもそれに気付いて愕然としてる。
「アレって浮くんだな」
「どーしたらあんなになるんですかね?」
「知ってたら苦労しないよ……」
「カティ、何をしたらそうなるんですか?」
「ちょ、ちょっと何を言っているのよ。と、特に何もしていないわ」
なんですと?
「カティ、子供を産んだからそうなったんだよね?」
そうだと言ってよカティ。
「い、いえこれは……その……元々……」
「ぐはっ……」
「か、完敗ですぅ……」
「羨ましいです……」
「人間って大変だな」
ロザリィは気にしないからいいね。私も気にするのはやめよう。きっとまだ成長……するかもしれないし!
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