第九十四話 お屋敷
傭兵さん達と待つこと三日。雪はもう止んでるけど、風景は全く別の国に来たみたいに真っ白になってる。
私達はさすがに吹雪が止んでからは『ダンジョン』の外に出てるよ。
外で大きめに火を熾して寒くないようにしてる。
そこに馬が雪をむぎゅっと踏みつける音が聞こえてきた。
「待たせたな、フィルナ」
ロザリィ達は予想通り慎重な足取りでやってきたみたい。ウルは平気みたいだったけど、馬が滑ったら大変だからね。
「ロザリィ! ウルも! みんな来たね」
「あっ! 味噌汁食ってるじゃないか! アタイにもくれよ」
「そろそろだと思って多めに作ってあるよー」
出発までの空いた時間にミソも買い足しておいたからね。
ロザリィに続いて第一部隊の隊員さん達も馬を降りて寄ってくる。
「あー寒かったっス! 火があったかいっス。生き返るっスよ」
ヒルマンは一直線に焚き火に向かった。食い気が先じゃないのは意外だったなぁ。
「フィルナさん、第二部隊の救助感謝します。彼らには監視を付けて帝都に戻ってもらいました」
そういえば人数が減ってるね。確か15人いたはずだけど、今は10人になってる。
よかった。気付いてくれると信じてたよ。
「寒かったでしょ? カインさんも味噌汁どうぞ」
「これが陛下の言っていたスープですか? いただきますね」
カインさんが食べ始めると他の人も集まってきたからよそってあげる。
それでみんなが味噌汁に夢中になってる間にカインさんのところへ近付く。
「カインさんにお願いがあるんだけど……」
「なんでしょう?」
「勝負しない? カイルさんの目の前で」
「! なるほど……。部下の手前、正直お断りしたいところなんですがね」
そう言いながら立ち上がって、簀巻き状態のカイルさんのところへ向かう。
「カイン……私を笑いに来たのですか?」
カイルさんも起きてたみたいで唯一動く口で力なく呟くようにそう言った。
それに対してカインさんは「はぁっ」と大きく溜息をつく。
「笑うはずがないでしょう。カイルはどう足掻いても勝てない相手に喧嘩を売ってしまったんですから」
「あの人は……すごかった……」
「その人とこれから勝負するのでしっかり見ておいてください」
「そ、そんな! いくらカインでも勝てるはずが……」
「まぁ……そうでしょうね。ですが、彼女は貴方のスタイルで戦う気ですよ」
「私の……? 何のために……?」
「何度も言っていますが、私たちの差は相性だけです。それも……覆せると見せる気なのでしょう」
「覆せるもなにも……彼女は強いでしょう?」
「カイルは彼女の職業、聞きましたか?」
「その様子だとカインは聞いたんですね。どんなすごい職業でしたか?」
「【すっぴん】ですよ。彼女は。間違いなく」
「!!」
「どれだけ苦労してきたんでしょうね? あの明るさと自信を得るまでに」
「…………」
「まぁ、見ていてください。私も全力で立ち向かって見せますから」
話、聞こえてるんだけど……。加護のおかげでそこまで苦労してないとか言えないよね。
まぁ、確かに最初はスライムしか倒せなくてなかなかレベル上がらなかったっていうのはあるし、間違ってはないかな。
「いろいろバレてるみたいだね。私は素手でやるよ」
「弟に立ち直るチャンスをくれて感謝しますよ。その代わり、私も剣を使って本気でいきます」
最初はカイルさんが断罪されればいいって思ってたんだけど、双子の兄弟なんて聞いちゃったらそういうわけにもいかないなって思ったの。
カイルさんから見える位置で、火から少し離れて向かい合う。
カインさんの剣は両手剣だね。大剣ほど大きくないけど、両手で振れる分片手剣より威力もスピードも出る。
「それじゃ……いくよ!」
もちろん全力じゃないけど……カイルさんに魅せる勝負を。
真正面からカインさんに突っ込む。
「さすがにそれは舐めすぎですよっ!」
避けにくい横薙ぎで払ってくる。
それを躱すのに一旦引いたところをカインさんがそのまま斬り上げで攻め込んできた。
「さすが!」
上半身を捻ってそれを躱すと、その捻りで左ボディ。
「ぐっ……まだまだ!」
振り上げた剣の柄尻を落としてくるのを右手で抑えてまた左ボディ。
たまらず引いたカインさんを追って今度は右拳を振りかぶると、慌てて剣で受けようとする。
それに合わせて右を止めて左ボディ。
「ぐふっ」
深く刺さって腕がオチた隙に右で顔を捉えた──ところで止める。
「ここまで、かな?」
「ええ、完敗です」
「拳だけで……カインの剣とここまで戦えるのか……」
「手甲があるなら弾いたりもっと戦い方の幅も広いと思うよ」
「フィルナさんなら最初から剣を押さえて封じることもできたんでしょうね」
「まぁ、それは意味がないからね」
「私のためにわざわざ……」
「私からも陛下に口添えするからさ。ちゃんと罪を償ったら帝国の……陛下のために働いてほしいな」
直接襲撃してきた人達ですら許しちゃう人だしね。改心さえしてくれればカイルさんも許される……かな。
「わかりました。私の拳は今後貴女の為に振るうと誓います」
……あれ?
「いや、陛下の為に……ね?」
「フィルナさん、残念ながらこうと決めたらそう簡単に折れませんよ。双子である私も、ね」
……え?
「まぁ、アタイらは陛下の御親兵なんだからある意味陛下の為なんじゃないか?」
「あ、ロザリィも見てたんだ」
「そりゃあ、見逃すはずないだろ? みんな見てたぞ」
よく見たらみんなこっちを見てた。話まで聞いてたのはロザリィくらいみたいだけど。
「フィルナさん。私はここの監視に残らねばなりませんから、弟のこと、よろしく頼みます」
「うん。それは任せておいて。出発は明日……でいいのかな?」
「ええ。部下の半分は一緒に残りますから、もう半分は……もう必要はないと思いますが弟の監視に連れて行ってください」
「わかった」
そして、翌日から雪のせいでかなりゆっくり、10日かけて帝都に戻った。
「なるほど。話はわかった。直接話を聞いて判断することになるが、降格で済むだろう」
帝都に着くと、カイルさんは牢に入れられた。
そして、陛下に恩赦をお願いしたよ。
「降格ってその隊で?」
「まぁ、移籍が妥当だろうな」
「じゃあ、第一部隊に入れてあげてくれない?」
「二人が和解したんならそれがいいだろうな。これから他の隊員の信頼を得るのは大変だろうがな。それが罰とも言える」
「そっか……」
「全ては話を聞いてからだが、フィルナの話通りなら心配ないだろう」
「うん。お願い」
「それと、向こうに行ってる間に二人の屋敷の手配ができたぞ」
「え? もう?」
「もう……って、結構離れてたろ? 空いてる屋敷に手伝いの手配をするだけだからな」
「そっか、半月以上経ったんだった。それと手伝い?」
「お前らは屋敷にいないことが多くなるだろう? その間屋敷の掃除とかするメイドを見繕っておいた」
「わっ、そこまで考えてなかったよ。メイドさんを雇うってことになるのかな?」
「給料は俺が出す。俺の御親兵の屋敷だからな」
「それはありがたいけど……いいの?」
「構わないさ。ここで働いてるやつをそっちに向かわせるだけだからな」
「わかった。もう住めるの?」
「使ってない割に綺麗だったらしいからな。もう整備は済んでるぞ」
「あ、そういえば帝都中に『浄化』使ったんだった」
それで《悪魔憑き》もだけど、街の汚れも綺麗になったんだろうね。
「そうだったな。もうあれからひと月か。早いものだな」
その日は帝宮で休んで、その間にメイドさんを呼びつけてくれて、翌日そのメイドさんの案内でお屋敷に向かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、メイドさん。




