第九十三話 初めての雪
私とロザリィに御親兵って役職が与えられてすぐに初仕事。
討伐隊で隊長だったカイルさんの確保をお願いした傭兵さん達を迎えに行くの。
そして『ダンジョン』監視役として行く別の隊長さんとその部下の人達と東門で合流。
「初めまして、第一部隊隊長のカインと言います。今回はよろしくお願いしますね」
えっ? この顔にこの話し方……。
「あれっ、カイルさん? ……なわけないか。私がフィルナで、こっちがロザリィです」
あまりにもそっくりでビックリしたけど、カイルさんがここにいるわけなかったね。
「よく間違われますよ。カイルは双子の弟です。今回は愚弟がご迷惑をお掛けしたようで」
すごい……双子自体会ったのは初めてだけど、どっちも隊長になるなんて。
「そうだったんだ。双子で第一と第二の部隊長ってとんでもないことなんじゃ……」
「そうなんですが……カイルは私に一度も勝てませんでした。その負い目があの力の権化とも言えるキース様に盲信してしまった理由なのかもしれません」
「なるほど……」
「単に【剣士】と【拳士】という職業の相性だけの差なんですがね」
「もしかして、『ダンジョン』の入り口塞いだのって、拳で潰したのか?」
「そういえば特に武器は持ってなかったね」
「カイルの武器は拳とそれを覆う手甲ですからね。岩を砕くことも可能でしょう」
あ、持ってなかったように見えただけで装備してたんだ。
「隊長! 準備できたっス!」
「ヒルマンですか。ご苦労さま」
「あっ、この人たちが御親兵ってやつですか!?」
ヒルマンっていう若くて元気な子……っていうと失礼かな。丸刈り頭の男の人が呼びに来た。
「ほら、失礼ですよ。ちゃんと挨拶しなさい」
あれ? 本当に若いのかな? 扱いが子供をあやしてるみたい。
「はいっス! 自分、ヒルマンっス! 去年この第一部隊に配属されたっス!」
「よろしくヒルマン。私はフィルナ。Sランクに推薦されたところ、かな。冒険者だよ」
「え、Sランクっスか!? すげぇ! 初めて見たっス!」
「まだAランクだがな。アタイはロザリィ。フィルナの親友だ。よろしくな」
「ロザリィさんもAランクっスか!?」
「いや、アタイは登録してないんだ。フィルナと会った時点でフィルナはもうかなり先を行ってたからな」
「な、なるほどっス?」
「すみません、彼はそれで理解できる程頭が良くないんですよ」
「ははっ、まぁいいや。準備できたんだよね? 出発しよっか」
「そうですね。ところでお二人は馬は……?」
「それは大丈夫。ウル、出ておいで」
影の中からウルが飛び出してくる。
「うわっ! 魔物っス!」
「従魔だから安心して。ウル、今回はゆっくりでいいからね」
《話は聞こえている。任せてくれ》
「これは驚きました。Sランクに推薦されるのも頷けますね」
ウルの登場に二人はそれぞれに反応してくれた。……陛下の反応が一番良かったなぁ。
私じゃなくてウルを褒めてくれたもんね。
「それじゃ、『ダンジョン』へゴー!」
「おー! っス!」
ヒルマンはノリいいね。ゆっくりだし、一週間くらいかかるけど、退屈しないで済みそうだよ。
その予想通り、合間合間に手合わせしたりしながら進んで、ヒルマンや他の人たちとも打ち解けられた。
そして出発して五日目。
「まずいですね。あれは雪雲だ」
カインさんが前方の雲を指差す。
「ユキグモ?」
「雪を降らせる冬の雲だよ。って、言ってもわかんないか」
「降らせるって雨とは違うのか?」
「うーん、雪の説明が難しいな……雨粒よりもっと小さい水が凍って降ってくるんだよ」
「凍って……? それがフユが危険っていう理由なのか?」
「寒くなってきてるでしょ? それに雪が積もると歩くのも大変になるんだ」
「確かに夜にこれを脱ぐと結構……あれが寒いって感覚だよな? 今はそうでもないけど」
初めて冬を迎えるロザリィが寒がりだったら、と思ってローブ用意してあるけど、今のところは平気みたい。
これもあのリルカが選んでくれた白いシャツとレギンスの素材がいいおかげなんだろうね。全然寒そうにしてないよ。
ちなみに私は既にローブを羽織ってる。隊長さん他、隊員さんもみんな冬装備。ロザリィが浮いて見えるくらい。
「そんなにいいものなら私も買えばよかったかな。正直リルカ達のこと甘く見てたよ」
腕がいいのは実際この目で見たんだけど、ロザリィの靴のことといい、あの二人が作ったものにここにきて驚いてばっかりだよ。
「ウルがふかふかであったかいってのもあるけどな。それに、フィルナも」
そう言って後ろからしがみ付いてる腕に力を入れる。
「も、もうっ! 人前じゃやめてって言ったでしょ!」
小声でロザリィに怒ると、逆にその力が強くなる。
「大丈夫、わかりゃしないって」
「もー! ダメだってば」
そこまで言ってようやく力が緩む。あの「遠慮しない」宣言から本当に大胆になってちょっと戸惑ってるよ。
そして、しばらく進むと、雪が降り始めた。
「これがユキか……」
「あー、降ってきちゃったね」
「視界が悪くなる前に進めるだけ進みましょう。少しペースを上げますよ」
「こっちは平気。合わせるから無理しない程度にね」
「そうでした。では、行きます」
カインさんが手綱を弾いてスピードを上げると、隊員さん達もそれに続く。
「ウル、念の為私達は一番後ろに付くよ」
《承知した》
万が一逸れちゃったりする馬が出たらすぐフォローできるようにね。
結局、昼過ぎには雪で視界が塞がれて、馬を走らせるのが厳しくなったところでちょうどいい岩陰を見つけて野営をすることにしたよ。
三、四人で組になって食事を用意する。
私はロザリィとカインさんの三人で火を囲んでる。
「こんなに見えなくなるんだな」
明るいのに前が見えないっていう、暗闇とは違う視界になった初めての雪にロザリィも驚いてる。
まぁ、雪どころか吹雪だしね。
「寒い上にどっちに向かえばいいかわからなくなるからね。積もったら滑るし歩くのも大変だよ」
「『ダンジョン』側の傭兵は大丈夫ですかね。冬の備えは時期的にしているはずですが……」
「荷物はキース派閥の連中が持っていた気がするな」
「食料とかは渡しておいたんだけど……そこまでは頭が回らなかったなぁ」
というか、あれも運べたかな……ちょっと不安になってきたよ。
「フィルナさん、貴方ならこの視界の中でも通常通りの移動は可能ですか?」
「え? うん。いけるけど……」
「ならば、彼ら用の荷物を先に届けてもらえませんか?」
「その方が良さそうだね。ロザリィはこっちをお願い」
食事を片付けて、立ち上がる。
やっぱり、私がお願いしたことだから責任を感じてたんだよね。ここは私一人で先行するよ。
「わかった」
「ウルも残って。ロザリィを私のところに連れてきてね」
《我がこの程度の雪で走れないと言うのか?》
「そうじゃないよ。何かあった時にちゃんとした連絡手段がないと困るでしょ? ウルなら間違いなく私を見つけられるよね?」
《ああ。主の居場所はニオイでわかる》
「だから、こっちで問題が起きたら私に知らせに来て。何もなければみんなと来てくれればいいから」
《そういうことか。我にしか出来ぬこと、承った》
「大丈夫だフィルナ。アタイがいるんだぞ?」
「ロザリィは雪の怖さを知らないでしょ? でも、みんなをよろしくね」
「任せろ」
「助かります。といっても、我々もそれなりに鍛えられた人間ですから、心配はいりませんよ」
「はは、それもそうか。それじゃ、行ってくる。向こうで待ってるよ」
『加速』をかけて走り出した。
──その日の夜。
「あれ? いないや」
『ダンジョン』の外には誰もいない。少し前までキャンプをしてた跡は残ってるから……中?
周囲にもいないことを確認して、『ダンジョン』へ入ると、そこにあの時別れた傭兵さん達がいた。
「お、こないだの嬢ちゃん! もしかして迎えか?」
あ、最初に会った傭兵さん。
「本隊はもうちょっとかかるけどね。荷物、預かってきたよ。それと、逃げてた人が持ってたやつも」
途中でウルに蹴散らされた人達も生きてるのを見つけたから一応助けておいた。そして傭兵さん達の冬装備も貰ってきたよ。
彼らは移動は難しそうだったけど、自業自得だよね?
荷物はまだあったし、今耐えてればカインさん達が来てどうにかすると思ってそのまま置いてきた。
「そうか、嬢ちゃんは魔法鞄を持ってたな。吹雪いてきて困ってたんだ」
「そうだと思って急いできたんだよ。『ダンジョン』に隠れるなんて大丈夫だった?」
「おうよ、って言いたいがさすがに手前にいるのも少し怖いぜ。今のところ魔物は出てないが、来てくれて助かった」
「カイルさんは?」
「そこだ」
傭兵さんがクイっと親指で指すと、集団の一番奥にロープでぐるぐる巻きのカイルさんがいた。
【拳士】で力があるのがわかってるからなのか、完全に動けないように縛ってある。
「生きてるよね?」
動けないというか、動く気配もない。
「ああ。ただ食事は一日一回しか与えてねぇ。念の為な」
暴れられることをかなり警戒してるみたいだね。第二部隊隊長だから実際暴れさせたら手に負えないんだろう。
「本隊は吹雪次第だけど多分あと三日はかかるよ。それまではここで凌ごう。薪とかは私が持ってるから」
「こないだも肉を貰ったってのに、何から何まですまねぇな」
「私がお願いしたからね。こうなるとは思ってなかったよ、ごめん」
「気にすんな。そのまま戻ってたら帰りつけたか怪しいしな。それに……」
「それに?」
「こうなった原因に“お礼“もできたしな」
あ、なるほど。
それでも申し訳ないから、本隊到着まで私の料理を振る舞って待つことにしたよ。
もちろん、魔物を察知したらすぐに処理するのも忘れずにね。
お読みいただきありがとうございます。
次回、お屋敷。




