第九十二話 昇格と役職
陛下が無事帰還した翌日、私達は新たな問題に直面していた。
皇帝の間にはいつもの四人ともう一人。陛下に呼び出された帝都の冒険者ギルドのギルドマスター。
この国でこの立場に立つだけあってかなり強そう。そして帝宮に呼び出されたっていうのに今まで見たギルドマスターの中で一番服装が雑。良く言えばワイルド。
髪は茶髪で猛々しく逆立ってるし……むしろそういう人じゃないと成り立たないのかもね。
「ったく、久々に呼ばれたと思ったら……厄介事持ってきやがって……」
「そう言うなベクター。俺とお前の仲だろ? なんとかしろ」
仲が良いのかと思ったら最後思いっきり無茶振りだったよ。ただ、冗談を言い合える気安い仲なんだね。
見た目でなんとなくだけど二人は同い年くらい? 色々あったんだろうなぁ。
「なんとかしろったってなぁ。Sランク級討伐をたった二人でなんて聞いたことねぇぞ。しかも片方は登録もしてないときたもんだ」
問題はそれだけじゃなくて、ほとんどロザリィの手柄ってこと。
私はロザリィを打ち上げただけだしね。
「どっちみちフィルナはSランクでいいと思うけどな」
「お前より強いんだろ? なら俺も文句はないし推薦自体はそう難しいことじゃない」
「じゃあ、問題はなんなんだ?」
「まず、サイクロプス? ランク判定されてない魔物で……しかも、喚び出したと言われかねない状況だ。自作自演を否定するのが難しいな」
自然魔法のことはちゃんと正直に伝えてあるよ。魔物が出てくるのを覚悟の上で使ったっていうことも。
だから自作自演と言えないこともないんだよね。
「私は別に今何がなんでもSランクになりたいわけじゃないよ?」
そりゃ、いつかは……とは思ってるけどさ。
「いや、これは俺のメンツの問題なんだよ。これだけの恩人に何もできずに終わったら、一国の王として威厳を失うからな。器の大きさを見せておくのも政治ってことだ」
「別に私は言い触らしたりしないけどなぁ」
「フィルナがそうでも、そういう噂ってのはどこからか漏れちまうもんなんだ」
「そっかぁ。じゃあ、ロザリィを高ランクでいきなり登録するとかは?」
「悪いがそれは無理だ。お前さんのライセンスを見たが、ちゃんと下積みを積んでたからな。そこにいきなり相方を高ランクで登録なんてしちまったらなんて言われると思う?」
相方……なんかいいな、その響き。
「あ……私に付いてたから……みたいな?」
「そうだな。正当な評価を受け辛くなるだろう」
それは困るなぁ。
「そもそも、高ランク与えても意味ないぞ? お前さんがSランクに昇格しようってのに、相方を登録したらパーティ登録もしねえわけにもいかんし、そうなったらお前さんの昇格もパァだ」
パーティは下のランクに合わせられるからね。
「それで俺がお前に何もしてないことになったら何の意味もないだろ?」
「むー、元に戻っちゃった」
「お前達にはもう白金貨は渡してしまってるからな。それ以上となるとなかなかないんだよ」
「というか、アタイが登録する気がないってことを忘れてないか?」
「そうだったな……何か希望はないのか?」
「希望か……フィルナ、何がいい?」
「ええっ、私に振るの?」
「いや、二人への報酬の話だからな?」
「そっかぁ……んー……」
「なんか役職とかじゃダメか?」
「役職?」
「ほら、宰相って、仲が良かった皇帝から与えられた役職だったんだろ? なら、アタイもなにか陛下からそういうの貰えばいいんじゃないか?」
「おい、その話は……」
「トーヤ、どういうことだ? 宰相って役職はずっと昔からあるだろう?」
あちゃあ、と顔を抑える陛下と、しまった、という表情のロザリィ。
「宰相、話してもいいか? こいつとは古い付き合いなのも知ってるだろ?」
「仕方ありませんね。他ならぬロザリィ様が言ってしまったことですし」
クリスさんは同族のロザリィに対しては良い印象を持ってくれてるみたいだね。というか、似たもの同士?
「悪いな。宰相もロザリィと同じ魔族なんだよ」
「なっ……! って、驚いてみたけどよ。むしろ納得だわ。そうかい……。しかし役職ねぇ。なにがいいんだ? そういうのは俺にはわかんねぇや」
「私もわかんないけど……何かあるの?」
「そうだな……俺付きの御親兵ってどうだ?」
「御親兵?」
「ジパンの王の直属護衛兵のことだな。もちろん二人にはここでの定住は求めないが、有事の際に協力してくれると助かるな」
「護衛なのに離れちゃっていいの?」
「まぁ、肩書きだけってことだな。それでも役職を与えるわけだし屋敷でも用意させようか。どちらにせよしばらくは帝都にいるわけだしな。いつでも戻れる家があるというのもいいものだ」
「私とロザリィの家……」
「アタイはそれで構わないぞ」
「うん。いつまでも帝宮でお世話になるのも悪いしね」
「わかった。それで進めよう。ベクターはフィルナのランクアップを頼むぜ」
「なんだ、結局それはやんのかよ」
「お前、何しに来たの?」
「はぁ?」
「そのまま帰るんだったら来た意味ねーだろうが」
「自分で呼んでおいて……はぁ、口喧嘩じゃお前には勝てねぇしもういいわ」
「普通に喧嘩でも負けてねぇけどな」
「あーまた始まったよ、面倒臭いのが。わかったわかった。つっても、俺ができんのは推薦までだ。それは知ってるよな?」
「ああ。Sランクは推薦の後行われるギルドマスター会議で決まるんだろ?」
「そういうこった。『夕暮れの空』以来だからな、荒れるぜ?」
「そうなの?」
「あの時はバランスのいいパーティだったからすんなり通ったんだ。それが今回はソロ。それにお前さん【すっぴん】なんだろ?」
「そっかー」
「ま、実績は十分だけどな。フィルナを見たことがないギルドマスターが支持してくれるかが争点だろう」
「あのグランドマスターの白金貨を持ってるってのは有利に働くだろうがな。どうなるかは俺には読めん」
「ま、その辺は結果待ちだな」
「ん? 何言ってんだ。嬢ちゃんも出るんだぞ」
「へっ?」
私も陛下と同じようにただ結果を待つだけかと思って油断してたよ。
「ライセンスを提示して経歴や偉業を見てもらわんと評価のしようがないだろ?」
「あ、そっか」
全部ライセンスに記録されてるんだったね。
逆にそれが無いとその人の実績を示す手段がない。文書だといくらでも盛れちゃうからね。
「その会議って、どこでやるの?」
「本来ならバルゥームなんだが……今は『ダンジョン』でそれどころじゃないからな。おそらく迷宮都市になるだろう」
「だいぶ予定が狂っちゃうなぁ」
それに……もしかしたらアカツキに会っちゃうかも……。
「ん? そういや次がどうこう言ってたな」
「次はクレセント王国にある『フォーグの塔』って『ダンジョン』に向かうつもりだったんだけど……途中にも別の『ダンジョン』があるみたいだしね」
「『荒地のダンジョン』か……あそこはやめとけ。行くなら真っ直ぐクレセント王国に向かった方がいい」
「何か知ってるの?」
まさか陛下からそんなことを言われるとは思わなかったよ。
「あそこは今荒くれ者の巣窟で無法地帯になってる。やつらも度胸試しだとかで間引きをやってるみたいでな、国家も下手に手を出せない状態だ」
「ええっ? そうなの?」
「荒くれ者掃討の戦力と『ダンジョン』突入の戦力が同時に必要になるからな。割に合わねえってんで、周囲の国は完全に見限ってるんだ」
ギルドマスターも知ってるんだ。周辺の冒険者なら常識みたいになってたりするのかな?
「フィルナ達なら両方可能かもしれないけどな、手を出すなよ? その後のこと、責任持てないだろ?」
「そっか……その後に『ダンジョン』を見る国が出てこないと逆に危険が増えちゃうんだね」
「そういうことだ。うちも『ダンジョン』を一つ抱えてる。その余裕はないからな」
「あっ、忘れてた!」
「ん? どうした?」
「ここの『ダンジョン』にカイルさんとキース派閥じゃなかった傭兵さんが迎えを待ってるんだった!」
『ダンジョン』の話は出てたのにすっかり忘れてたよ。
「『ダンジョン』にいるのか?」
「うん。カイルさんの捕縛をお願いしたの」
「そうか。別の隊の隊長だけ向かわせるつもりだったが、それなら人員がいるな」
「アタイらが行こうか?」
「いいのか? なら、御親兵初仕事ってことで頼む。討伐隊からも何人か付けるから、ウルで飛ばすってわけにはいかないぞ」
「うん。それは大丈夫。お役目果たしてくるよ」
陛下はその日のうちに手配を済ませて、二日後に討伐隊数人と帝国の『ダンジョン』へもう一度向かうことになった。
そして、肝心の私のSランク昇格に関しては私が東側のギルドに推薦状を持参するってことになったよ。私を知らないギルドマスターへアピールしとけって。
西側は大体回ってるからギルドマスターが配達依頼を出すみたい。
そして、ギルドマスター会議は来年の夏。それまでに東側の国を回って、私自身も迷宮都市に向かう。それが今後の予定だね。
お読みいただきありがとうございます。
この後の導入のつもりが長くなりました。
次回こそ雪が降ります。




