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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第三章 真実への旅
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第八十七話 襲撃後

前半は趣向を変えてお送りします。

後半からいつものフィルナ視点に戻ります。

「ハァッ! ハァッ! ど、どうした? もう終わりか?」


 息も絶え絶えになりながらも両の足で立つ皇帝、トーヤの周りには百人を超える兵士らしき姿の男達が倒れ伏していた。


「ふっ、まさか全員倒されるとはな。だが、立っているのがやっとというところだろう」


 そこから少し離れた位置に立ちそう言ったのは、荒々しく波立つような茶髪を靡かせた男。

 その眉間には大きな裂傷の跡。更にあちこちに傷痕が残る筋骨隆々な上半身を隠すことなく晒している。

 そして大剣を地面に突き刺し、トーヤを伺っていた。


「はっ、もうすぐ冬だってのに服も着ねぇで風邪ひくぜ?」


 今そこにいる男とまともにぶつかったら危うい。それを悟りながらもおくびにも出さず軽口を叩くトーヤ。


「俺がそんなものに負けるわけがないだろう!」


 辛うじて立っているトーヤの挑発にも乗ってしまう男。


「バカは風邪ひかねーもんな。生きてたことより相変わらずバカだってことの方が驚いたぜ、キース」


 そう、この筋肉達磨こそ、先代皇帝の息子、キースである。

 残念ながら彼が父親から受け継いだのは闘争心のみであった。


「俺が生きていたことを知っていたとでも言うのか?」


 声に更に怒気が籠る。


「手加減したのに死ぬはずがないもんな。それがわからねーからバカなんだ」


 少しずつ息を整えながらも、尚も挑発する。


「手加減だと? あの時は俺がまだ加護を理解していなかっただけだ! 今の俺にそんな余裕はないことを教えてやる!」


「ああ、そういやお前、加護持ちだったっけな。そのくせ手加減した俺に負けたんだもんな。理解したところで何か変わったのか?」


 キースは成人の儀で職業(ジョブ)を得ると同時に女神の加護を授かっていた。

 そのことが彼を信奉する者がいる理由でもあった。


「お前の目は節穴か? 見てわかるだろう? この筋肉! これこそが加護に齎された力だ!」


 実は声を掛けられるまでトーヤは相手がキースだと気付いていなかった。

 トーヤのつけた顔の傷などの面影こそあるものの、その姿はトーヤの知るものと全く異なっていたからだ。


「ふっ、達磨になるのが加護だったってのか? 女神も残酷なことをするもんだ」


「ダルマ……? お前、この筋肉をバカにしたな!?」


 達磨とはジパンにしかない人形なのだが、それを知らないキースにも語感から真意は伝わったようだ。


「どうだかな? それすらもわからんか? まぁ、女神ごときの加護じゃ俺には勝てねぇ」


 トーヤもいよいよ飛びかかりそうなくらい鼻息を荒くしたキースにトドメとばかりに更なる挑発を飛ばす。


「女神“ごとき“だとぉー!!」


 キースは女神のことを自分を“選び“加護を授けてくれた存在だと盲信していた。

 そこを突かれたキースはもう我慢がならなかった。


 大剣を抜き、両手で脇に構えると、力任せに地面を蹴った。

 そして、その勢いそのままに大きく振りかぶる。



 対するトーヤの最も得意とするのは後の先。

 トーヤのステータスで最も高いのは瞬発力で、フィルナ達と出会うまで、自分より早く動ける者を見たことがなかった。

 それは自分の師である先代皇帝も例外ではない。

 相手の動きを限界まで見極め、致命の一打を叩き込む。それがトーヤの戦い方だった。


 そして、その戦法はフィルナ達と手合わせによって、こと対キースにおいて十分すぎる成長を果たしていた。

 フィルナ含む冒険者の急所を狙う一撃必殺の型は、今まさに迫ってくるキースのそれと同じで、それより遥か上の実力を持つフィルナを見ていたトーヤにとって、キースの動きなど隙を突くのも他愛のない攻撃となっていた。


 フィルナは「教えられない」と嘆いていたが、キースの迫るこの瞬間、トーヤは心の底からフィルナに感謝していた。


「はっ!」


 最後の力を振り絞り、キースの胴を横薙ぎに切り裂いたトーヤは、振り切った体勢で止まる。


「ぐあっ! な、なんだと……」


 空振りに終わった剣を突き刺し、辛うじて倒れず踏みとどまったキースが唯一動く首を捻ってトーヤを振り返る。


 キースの戦闘不能を認めてトーヤもそちらに向き直る。


「悪いな。俺には女神なんかよりよっぽど頼りになる女がついているんだ」


 そう言って、ネックレスを通して首にかけていたフィルナの指輪を取り出して見せる。


 実際、周りに倒れている兵達と戦っていた際、トーヤへの有効打は確かに入っていたが、その指輪に込められた“加護”によって何度も助けられていた。


 それはフィルナがトーヤの為、全力で魔力を込めた『守護(プロテクション)』を付与したおかげでとんでもない防御力になっていたからだったのだが、キースにそれを知る由もなかった。


「ば、バカな……」


「バカはお前だよ」


 トーヤがそう返すと、キースは遂に力尽きた。


 そこに一頭の馬が駆け寄って来る。


「おや、間に合いませんでしたか」


「宰相!?」


 その馬に乗っていたのはトーヤの側近の宰相だった──。




◇◇◇


「あっ、あれは!」


 ロザリィに状況を説明しながらウルを走らせてたら、さっき帝都に向かった討伐隊の人達が倒れてた。


「討伐隊か? ずいぶん人数が少ないが……」


「大丈夫!?」


 ウルから飛び降りて駆け寄る。

 この人は……『ダンジョン』の前で最初に話した人だ。


「うう……あいつら……急に……」


 よかった、まだ生きてる!

 他の人達も辛うじて動いてるね。


「話は後! 『ヒールⅢ』!」


 その場で倒れてる全員に範囲化した回復魔法を掛ける。


「あ、あんたはさっきの……助かったぜ」


「何があったの?」


 事情はたぶん思ってる通りなんだけど、念のためね。


「副隊長が何か合図をしたと思ったら、急に……」


「キース派閥って知ってる?」


「いや……」


「聞いたことあるぜ。先代の息子を女神の使徒みてーに崇めてるやつららしい」


 お、倒れてるのが傭兵さんばかりだったから誰も知らないかと思ったけど、知ってる人がいたよ。

 結構歳もいってそうだし、帝国で傭兵になって長いのかも。


「どうもあの隊長さんとかがその派閥だったみたいなんだよ」


「マジかよ……」


 その隊長さんは私達に正体を話した後、満足そうに気を失ったんだよね。


「それで、このまま帝都に戻るのも危ないと思うから、一度引き返してくれないかな?」


「『ダンジョン』にか?」


「うん。ついでに隊長さんも倒れてると思うから捕まえておいてほしいんだ。すぐに陛下に迎えを寄越させるからさ」


「だが、俺たちだけじゃもし中の魔物が増えたら対処できねぇぞ」


「それは大丈夫。さっき一通り倒してきたから」


「何!? あれから一時間くれーしか経ってねぇぞ!?」


「とにかく、大丈夫だからお願い! 私達は陛下のところに急がなきゃいけないの!」


「わ、わかった! 任せとけ!」


 傭兵さんは力強く応えてくれた。



「よし、ウル行くよ! 途中この人たちを怪我させた人達がいると思うけど、薙ぎ倒しちゃっていいからね!」


《任せろ!》


「本当にこいつらに任せていいのか?」


「大丈夫! たぶん! 信じるよ!」


「ああ、信じてくれ! 嬢ちゃん、アンタ名前は?」


「私はフィルナ! また会えたらいいね!」


「ははっ! そうだな!」


「行こう!」


 そう言うと同時にウルは駆け出した。


 そして数分後、副隊長率いるキース派閥をウルが蹴散らして、更に進むこと数分。



「ヒヒィーン!」


「愛!?」


 陛下の白馬だ!


「もしかしてアタイらを呼びに?」


「ヒヒン!」


「いい子だね。陛下のところまで案内してくれる?」


「ヒヒィーン!!」


「わっ、待って待って。『ヒールⅡ』! それと『加速(ヘイスト)』! これで急ぐよ!」


「ブルルン!」


 愛が合流したことでペースは少し落ちちゃったけど、それでも約一時間後、迷うことなく陛下の元に辿り着いた。


 そこにはもう一人……宰相さんがいた──。

お読みいただきありがとうございます。


三人称視点、いかがだったでしょうか?

今後の参考にご意見、感想など頂けると嬉しいです。


次回、役目。

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