第八十三話 町の変化
「お、おはようございます、こ、皇帝陛下!」
『浄化』をした翌朝。町長さんが宿の外に待ち構えてたけど、昨日と比べてやたらと緊張してる。
「おう。今日は昨日回れなかった店を見せてもらうぞ」
「は、はいっ! ごごご案内致しますぅ」
いくらなんでもこんなに変わる?
案内された店でもそう。昨日は抜き打ちで入ったお店でさえ丁寧な対応を自然にできてたのに、今日はどこも町長さんみたいに緊張でガチガチになってる。
その代わり、昨日のべっとりとした視線はなくなってたけどね。
「ちょっと昨日見た店も見ておくか」
そう言って陛下が急に向きを変えると、町長さんは付いていけない。柔軟な対応もできなくなってる。
陛下の判断で昨日も見た武器屋に入る。
昨日は気のいい感じの店主さんが自分で打った武器を紹介してくれたんだよね。
「いい、いらっしゃいませ、陛下様!」
この人も昨日はちゃんとできてたのに、呼び方すらおかしい。
「むう。一つ確認するが、お前がここで働いている理由はなんだ?」
「ひゃい! じゅ、10年ほど前に、た、立ち寄った際にこの町の【鍛治師】さんによくしていただきまひて!」
理由はちゃんとしてるっていうか、聞いてた通りみたいだね。
「お前は【鍛治師】なのか?」
「あ、いえ……あの……」
「どうした?」
「し、信じて頂けないと思いますが、昨日までどうやって武器を鍛えていたのか覚えていないのです……すみませんすみません!」
「なるほど。では、今から打てと言っても無理なんだな?」
「は、はい……」
「そうか。なら、これからどうする?」
「えっ? 信じて頂けるのですか?」
「ああ。だからどうするのかと聞いている」
「はっ、申し訳ございません! そ、そうですね……やはりお世話になったのは変わりませんから、もう一度鍛治を覚えようと思います」
おお。……すごい。元々は本当にこういう人が集まってる町なんだね。
「そうか。邪魔したな」
「いえ、ありがとうございました!」
武器屋を出て広場まで歩いてから陛下が口を開く。
「町長、少しの間外してくれ。三人で話がしたい」
「か、かしこまりました! で、では私はあちらの茶屋におりますので」
「ああわかった。終わったら声を掛ける」
町長さんはそう言って指差したお店へ慌てて走っていった。
「まずいな。これは『ダンジョン』に行ってる場合じゃなさそうだ」
「憑いてる亡霊が働かせてたってことだもんね」
このままじゃ、この町はガタガタになっちゃうよ。
みんなよっぽど長く憑かれたままだったんだ。
「さすがにそこまでは予想していなかった。この町への援助が必要になるだろう。俺は帝都に戻る。ここで一旦お別れだ」
「えっ? さすがにそれはまずいよ! 私達も一緒に行く」
一緒に来いって言われると思ってた。
「今の武器屋みたいなまともなやつだけじゃなさそうだしな」
そうなんだよね。
「いや、それがな……今月の間引きを俺たちでやってしまうつもりだったから、次の討伐隊に休みを出してしまったんだよ」
『ダンジョン』へは行かないとダメってことね。
「ならせめて私の『転移』で送らせて」
「それもダメだ。門から出てるところを見られてるからな。予定と違えばそれだけで余計な混乱を招く。ちゃんと帰還することにも意味があるんだ。それよりだ」
陛下が慌てて帰って来たら不安にさせちゃうってことなのかな? その辺は陛下とか王族にしかわからないことかも。
「なに?」
「ここから『ダンジョン』までは近い。ウルの足ならすぐだろう。間引きを終えて明日から戻ってくれば俺に追いつけるはずだ」
つまり最終的には出た時と同じように一緒に帰還するってことだよね。
「んー…………でも……」
「忘れたのか? 俺はこの国で一番強い男だぞ?」
「わかったよ。……でも、無理はしないでね」
「ははっ、そうそうそんな状況にはならんさ」
「それでも心配なの! そうだ!」
陛下が強いのはわかってる。だけど……。
「ん?」
これがいい……かな。
『魔法付与』『守護』
「この指輪が守ってくれるから。……大事な物だから絶対返してよ?」
アキンドで別れたルルとの再会の約束の指輪。
それに付与を掛けて陛下に預けた。
「わかった。ありがとな」
「それと……ここの人に魔法かけてもいい?」
さっきから警戒してる理由。
それは昨日の視線は感じないけど、この広場に来てから別の視線は感じてる。殺意を隠す気もない視線。
隠そうとして隠せてないのならここまで警戒しないんだけど……。
「そうだな、許可しよう。出てきてくれるとありがたいがその気はなさそうだ」
「まだ何もしてない相手に手を出しちゃうと面倒なんだよね?」
「ああ。おそらく次期皇帝狙いなんだろうが……タイミングが悪い」
「宰相の認可がないとダメなんじゃないのか?」
「他国の成り上がり狙いが紛れていたんだろう。帝都を出るとそういうルールを知らないやつも多い。それで負けるようなら弱い皇帝が悪いのさ」
「お願いだから怪我しないでよ」
「負けるなって言わないんだな」
「陛下が負けるなんて思ってないから」
「ふっ。ああそうだ。フィルナ、これを」
陛下から書簡を受け取った。
「これは?」
「『ダンジョン』に前回の討伐隊が残っているはずだから、そいつを渡してくれ。本来ならもう少し後のはずだったからな、帰還の許可証だ。俺が直接渡すつもりだったんだが」
「わかった」
「それと、隊長には交代を遣すから念の為それまで残るようにと言っておいてくれ」
「ん。許可証といえば、私達がいきなり行っても平気かな?」
結局陛下が一緒だからってことでロザリィの許可証を貰ってないんだよね。
「そうだな……町長に言って書くものを用意させよう」
即席の許可証を受け取って、ジャーニーを出た。
「それじゃ、待ってるからな」
「うん。ホントに待っててよ?」
「当たり前だ」
「それじゃ……町に魔法を使うよ」
「どうする気だ?」
「眠ってもらうのが一番安全だよね。『睡眠』!」
『浄化』を広げたのと同じ感覚で『睡眠』を町全体に掛けた。
「これで追っ手は来ないんだな?」
「そのはず。耐性持ちもいるかもしれないから油断はしないでね」
「ああ。助かる。じゃあ、後でな」
「うん。また後で」
そこから陛下と一時的に別れて行動することになったよ。
「フィルナ、急ごう。アタイらは間引きだけが目的じゃないしな」
「うん! ウル、お願い!」
《任せろ!》
ウルの全速力で一時間も走らないうちに『ダンジョン』の入り口に着いた。
お読みいただきありがとうございます。
次回こそ、帝国の『ダンジョン』。




