第八十二話 大宴会
陛下の視察にくっ付いて一緒に色んなお店を回っていく。
町長さんの案内に従ったり、時々陛下が抜き打ちで別のお店に入ったり。
どこに入っても丁寧な対応なのは当然なんだけど、それが自然で当たり前にできてる。
「すごいね。どの店も最高品質ばっかりなのに高品質くらいの値段で売ってたよ」
「そうだな。まぁ、見栄もあるんだろうがな」
確かに。タイクーンでもプロテアに騎士団の団長と副団長のレオンさんとクリムが視察に来てた時は普段は開いてる門を閉じてたり、いつも以上にちゃんとしてたみたいだもんね。
「さすがにこんないいものばかりじゃないだろうしな」
「え? 慣れたら大体安定して作れるよ?」
私の『調合』やそれを使った料理はもう最高品質しかできないくらい。
「お前は何を言っている? それは専門の者がずっと続けてようやく辿り着く境地だぞ。元旅人にそこまでを求めるのは難しい」
「ええ、さすがにそこまで熟練の腕を持つ者はいません。陛下の仰る通り、実際には中品質の物が出来ることもあります。今回は並べておりませんが、もちろんそれはお安く提供しています」
あ、あれ? そういえば『調合』に関してはポークさんとかベテランの【薬師】やオババしか知らないや。
「フィルナは異常なんだ」
「せめて特殊って言ってよー!」
“特別“はなんか嫌。
「ま、変なやつはほっといて次行くぞ」
「ぐぬぬ……」
「フィルナ……大丈夫か?」
「ロザリィのせいでしょ!」
「はは、次はどの店なんだ?」
「そうだな、そろそろ宿に行くか」
「かしこまりました。ご案内致します。こちらへどうぞ」
「どんな宿なの?」
「大浴場ではなく個別の風呂の付いた部屋をご用意しました」
「お、やった!」
帝宮の浴場は広いんだけど、煌びやかで落ち着かなかったもん。
それに五日ぶりだしね。
「そちらの護衛様はお二人一緒の部屋でよろしかったでしょうか? 一人部屋にすることも可能ですが」
「いや、一緒でいいぞ」
あっ、もうっ! 別にいいけどさ。
「そこってダブルベッドの部屋にできる?」
「フィルナ?」
ふふ、たまには私から言ってやるんだ。……って、何をしてるんだろ。
「もちろんです。そのように致します」
ああ、なんか話進んじゃった。
いや、ロザリィと一緒に寝るのが嫌なわけじゃないんだけどね。
「本当にお前ら仲良いよな」
「まぁな」
「まぁね」
ヤバ……照れる。
「お二人は単なる護衛ではなさそうですね」
「ああ、彼女たちは俺の友人だ。よろしく頼むぞ」
「かしこまりました!」
案内された宿はめちゃくちゃ綺麗に掃除されてた。この日に向けて頑張ったんだろうな。
部屋に入ってそのままお風呂へ。当たり前のようにロザリィも一緒。
そしていつものようにロザリィの長い髪は私が洗ってあげる。
初めて会ったときは地面に着くくらい長かったけど、さすがに今は腰くらいまでに切ってあるよ。
『自在魔法』を覚えてから、この髪がサラサラでツヤツヤになるようにイメージしながらやってるから、今じゃロザリィの銀髪は光を反射してキラキラ光って見えるくらい綺麗になった。
最初はあんなにボサボサで酷い状態だったのにね。
「あぁ、気持ちいい……。アタイにも『自在魔法』が使えたらフィルナの髪にもやってやるんだけどな」
「そういや『自在魔法』が何の職業のスキルなのか全然情報ないねー」
「意外と【すっぴん】専用スキルだったりしてな」
「それはあるかもね。前に言ってた「始まりの人」は使ってたのかな?」
私の前世かもしれない”あの人“は使ってたっぽいんだよね。
「うーん、そこまでは聞いてないな」
「そっかぁ」
「さっきの最高品質の話といい、【すっぴん】にはまだまだ秘密がありそうだな」
「うん。私ももっと自分の職業を知っていきたいよ」
お風呂から上がって冷たいジュースを飲みながら涼んでいたら、町長さんが呼びに来た。
「宴の準備が整いました。いつでもお越しください」
そういえば外が騒がしくなってる。
陛下を待って始めるのかと思ったけど、もう盛り上がってるみたい。
一応町長さんが離れて行くのを確認してから陛下の部屋に向かう。
「『浄化』はいつでもいけるから。ただ、お酒飲んじゃうと眠くなるからそれだけお願いね」
「ああわかった。それより気付いてるか?」
「当然。しかし、それだけだな」
「うん。監視? されてるのかな」
視察の時からずっと。もしかしたらこの町に着く直前からかもしれない。
ただ見られてるだけ。それも複数人から。
陛下が来てるからそれを見てるとかそういう視線じゃない。
タイクーンでのモンパレの後にも視線に晒されたことがあったけど、その時のものとも違う。
「宴会中、少しでもおかしいと感じたらすぐに『浄化』を使え。何もなければ寝静まった頃でいいだろう」
「わかった」
『浄化』を使うのは決まりってことだね。
この町をより知ってる陛下には何か感じるところがあるのかも。それでも確証を得るには至ってないみたい。
「それと、食い物はフィルナが確認して食べた物だけを食うことにする。大丈夫なものを渡してくれ」
「お昼の料理を見る限り大丈夫だと思うけどね」
「入念に準備してたんだろ? なら警戒はしておくべきだ」
「ロザリィの言う通りだ。頼んだぞ」
「任せて」
宿を出ると、そこら中で立食ができるように料理が置いてある。ほとんどがその場で調理されてて、出来立てが食べられるみたい。
「ウワー、オイシソー」
「フィルナ……」
「そこは本当に美味そうなんだから素直にそう言え」
いや、だってこれは……。
「これは苦そうだから陛下にはこっちがいいかな」
いくつかある料理から大丈夫な物を渡す。
といっても、毒が入ってたわけじゃなくて、ちょっと怪しい程度。興奮剤ってどういうことよ!
「お、おう。ありがとよ」
私が選んだことで、陛下たちも平静を装いながらも若干表情が歪んだ。
「あー今度は味薄そうだからロザリィには合わないかもね」
今度は媚薬入り。悪意というより、なんていうか余計なお世話。
「へぇ。ちょっと食べてみたいな」
ロザリィはなんでこういうときだけ興味を持つかなぁ。もしかしてわかって言ってる?
「安心して寝られなくなりそうだからやめておいて」
「ロザリィ、せっかく美味いもんが大量に並んでるんだ。好きなやつから食った方がいいぞ」
そうそう。陛下の言う通りだよ。
でも、このままにしといたら町の人が食べちゃうよね?
陛下だけ狙ってるとかじゃなさそうだし……ただ、今も見られてるんだよね。
私が食べ物を選びつつも『浄化』は使ってないから陛下もそこまでは警戒してないみたいだけど……。
「それもそうか。フィルナ、よさそうなやつあったら教えてくれ」
「オッケー!」
「味の濃いものがよろしければ、向こうに出てますよ」
そこで料理を出してた人が私達の話を聞いて勧めてきた。
「ありがとう、行ってみるよ」
教えてもらった先には本当に味の濃そうな食べ物。
あれ? こっちに何か入ってるかと思ったけど、普通の料理だ。
私が一口パクッと食べて見せる。
「ん! おいひー!」
それを聞いてからロザリィも摘む。
「どれどれ……いいな!」
「ほう……これは美味いな」
陛下も続いて賛辞を贈る。
この流れに陛下も警戒をだいぶ緩めたみたいだね。
実際、他にもあったけど、毒らしいものはなかったよ。本当に余計なお世話をしてくれてるだけ。
勧めてくれる料理は美味しいし、陛下がお酒を断るとそれ以上は勧めて来ない。
そのまま一通り料理を楽しんで宿に戻った。
「避けてた料理には何が入ってたんだ?」
「言わなきゃダメ?」
「毒じゃないっていうのはなんとなくわかったがな。教えてくれ」
「せ、性欲を高める的なアレだよ」
「はぁ、なるほどな」
あ、さすがの陛下も呆れ顔。
「この場合、ありがとう、って言うべきか」
「もうそれでいいよ」
陛下とが嫌かって聞かれると……うん、まぁ……ってこんな思考になってる時点でなんか嫌だ。
きっと匂いとかで少し効いちゃってるんだ。きっと。
「念の為、静まったら『浄化』しておけ」
「ん、わかった」
『インスニ』を使って屋根に上がってその時を待った。
結局町が静かになったのは日付けが変わる頃だったよ。
そして、住民に気付かれることなく『浄化』をして次の日の朝を迎えた。
お読みいただきありがとうございます。
次回、帝国の『ダンジョン』。
※『ダンジョン』まで行かなかったので次回は『町の変化』になります。




