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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第三章 真実への旅
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第八十一話 歓迎

「んんっ……あ、交代か……あれ?」


 なんか頭が高い。枕なんて使ってたっけ……。

 それにこの枕すごい気持ちいい。すりすり。


「んっ! ……起きたのか?」


 おかしいな、ロザリィの声が真上から聞こえるよ。


「ロザリィ? おはよー……って」


 これ枕じゃない、ロザリィの膝だ!

 気付いてすぐに飛び起きた。


「ああもう、逃げなくてもいいだろ?」


「いやいや、なんで私はロザリィに膝枕されてんの?」


「フィルナの寝顔を見てたら……我慢できなくてな……」


 可愛い……って、そうじゃなくて!


「もー、ビックリするから……次は先に言ってよねって、そうじゃなくて!」


 思わず口にも出ちゃってた!


「わかった。次からはそうするよ」


「ああ……違うの……寝心地よかったけど、違うの」


 ロザリィのレギンスの肌触りがさらさらで……じゃなくて!


「ほら、交代だ。アタイにも膝枕してくれよ」


「べ、別にいいけど……」


 ロザリィと入れ替わって膝枕する。

 太ももに当たる髪の毛の感触がムズムズする。


「これいいな。今度から野営はこれにしよう」


「いや、今はそんな警戒する場所じゃないだけだからね」


 帝国内には大きな街は帝都以外にはないから街道もあんまり整ってない。

 だから帝都から離れたら魔物も出るはずだよ。


「それもそうか。なら今はフィルナの膝枕を堪能するとしよう」


「もー。今だけだからね。陛下もこっそり聞いてないで寝ててよ?」


「うぐっ! わ、わかった」


 『空間把握』で見えてるからね!



 そして、予定通り出発から五日後、旅人の町ジャーニーに着いた。


「うわ、なんか待ち構えてない?」


「まぁ、予定を入れた時点で早馬を走らせたからな。俺が来ることは知ってるはずだ」


「それにしても多くないか? 住民全員集まってるんじゃないかってくらいいるぞ」


「元旅人だからな。遠見が得意なやつが見張ってたんだろう」


「ならウルはこのまま行っちゃって平気かな?」


「もう見られてるしな。下手に隠す方が面倒になる」


「わかった。ウル、いい子にしててね」


 そう言って頭を撫でる。


(あるじ)に害をなさなければ何もすまい》


「大丈夫。最悪自分でなんとかできるから。ウルは大人しい従魔! いい?」


《承知……》


「元気出して。また今度思いっきり走らせてあげるから」


「オオン!」


「よし、行くぞ」


 陛下が手綱を弾いて“愛“を進ませる。



「皇帝陛下、お待ちしておりました! 私が今町長をやっておりますベイクと申します!」


 近付くなりやんややんやの喝采。

 ちょっと迫力に圧されそうになったよ。

 そして町長さんが挨拶してきた。


「これはどういうことなんだ?」


「それはもう! 陛下を迎えるために準備をしておりましたので!」


 テンション高っ!

 ただ、《悪魔憑き》みたいな雰囲気のおかしさはないかな?


「ささ、町一番の宿をしっかりと整備させております! 護衛の方も一緒にどうぞ!」


「いや、視察が目的だからな。宿は後ででいい。それより食事の用意はあるか?」


 あ、お昼まだだったから気を遣ってくれたのかな?


「もちろんです! 室内でも屋外での立食も対応致します!」


 テンション落ちないなぁ。これが変と言えば変だけど。


「そうだな、ずっと外だったし室内でゆっくりもらおうか」


「かしこまりました! ではご案内致します! 他の者は例の準備を!」


「例の準備?」


「ええ! 今夜は宴を催すつもりです!」 


「大歓迎だな」


「うん。ちょっとビックリ」


「まぁ、これくらいは他の町でもよくあることだ」


 そうだよね。皇帝陛下が直々に視察に来るんだもん。町総出で対応するのもおかしくはない……のかな?

 サリィと出会った時も視察って話だったけど、あの時とは事情が違うのはわかる。



 町長さんに案内されて、町でも大きめの食堂に入った。

 まぁ、さすがに帝宮の食事みたいなのは無理だよね。


 とは思ったけど、並んだのは予想以上に豪華な料理。

 念のため『鑑定眼』で見てみたけど毒もなし。

 本気で皇帝陛下を歓迎しようとしてるんだ。


「そっか、ここはこういう対応が良くてみんな惹かれて戻って来るんだったね」


「ええそうです。私もその一人。受けた対応以上のものを返したくて戻ってきたんです」


「確かにここまでやってくれたら嬉しくなるな」


「陛下が一緒っていうのもあるんだろうけど」


「いえいえ、そちらはこの店の通常のメニューです。視察ということですし、いつもの姿をお見せできればと思いまして。ああ、宴はさすがに特別ですがね」


「へぇ。でもこれだけの料理……お高いんでしょ?」


「これで一食50ギルです。材料費は調味料だけですので、後は素材を採りに行く費用ということで」


 やっす! ……くはないんだけど、この料理の代金としたら安いよ。

 この人はこの店の店長さんかな? しっかりした体格だし、自分で狩りをしたり採取に行ったりできそう。


「あ、そうか。元冒険者ならそれもできるんだ」


「元の住民が離れるわけだ」


 材料費ほとんどなしでこれだけの料理を出されたら……ね。


「ああ、すみません、私どもがいては食事が進みませんね。御用がお有りでしたらこの鈴を鳴らしてお呼びください」


 思わず話し込んじゃってたね。気を利かせて町長さんが店長さんを連れて離れていったよ。


「とりあえず大丈夫そうだし、食べよっか」


「そうだな」


「味噌汁食いてえ」


「陛下ってば、そんなに好きなの?」


「ジパンにいたら食うのが当たり前、それが戻ってきた感覚だったんだぞ」


「帰りにも作ってあげるから。我慢して」


「ああ。頼むぜ」


 私がいなくなったら大丈夫かな、この人。帝宮の料理人さんにもミソシルの作り方教えておこうかな。

 でも、再現できなかったって言ってたから作ろうとはしたのかも。



「それにしても……《悪魔憑き》がいるようには見えなかったね」


 食べながら話すのは行儀が悪いとは思うけど、今しか話せない気がしたからそうしたよ。


「どうかな。お前たちは俺を見ても気付かなかっただろ? 見た目じゃわからんのかもしれない」


 確かに。初めて会った時の陛下には先代様が憑いてたけど、わからなかったもんね。


「何か違いがあるのかな?」


「アタイの仮説だけど、いいか?」


「何かわかるのか?」


「馴染む……っていうと変だけど、憑いてからの時間が長いと亡霊(ゴースト)との親和性が高くなるんじゃないか? 陛下と先代は元々知り合いでしかも10年経ってたんだろ?」


「なるほど……確かに帝宮にいた《悪魔憑き》はほとんどが最近だ」


 うんうん。なんだかそんな気がしてきたよ。さすがロザリィ。


「じゃあ、どうする? 『浄化』はいつでもできるよ」


 一度やったから広げるイメージはもうわかってる。


「泳がせよう。まだあいつらが《悪魔憑き》と決まったわけでもないしな」


「でももし陛下が危ないと思ったらすぐやるからね」


「お前たちがいればそんなことはないと思うがな。まぁ、その判断は任せる」


「わかった。この後は?」


「まずは店を回る。今日と明日で半分ずつな。それで視察は終わりだ。明後日には『ダンジョン』へ向かえるはずだ」


「なら何かあるなら今夜の宴か」


「何もないと思うが……な。一応俺から離れるなよ」


「じゃないと守ってあげられないもんね。離されないでよ?」


「せっかくカッコつけたのに台無しだよ」


「ふふ、守られ慣れてないんだな」


「そりゃ、俺より強いのは師匠くらいのはずだったからな」


「じゃあ私がお酒飲まされないように守ってよ」


「なるほど、それは俺の役目だな。任せろ」


「ふふっ」


「笑うな。お前らが強すぎるんだよ」


「ははは。それじゃ、食べ終わったし鈴鳴らすよ?」


「ああ。あんまり時間をかけすぎても……俺なら問題ないか」


「そういや皇帝だったな」


「おいっ!」


「あははは」


 話すことは話したし、鈴を鳴らして町長さんたちを呼んで町の視察を始めた。

お読みいただきありがとうございます。


次回、大宴会。

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