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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第一章 モンスターパレード
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第八話 レベル10

 経験値を得るには魔物を倒す。

 それが唯一の方法なんだけど、正確にはもっと細かく分かれてるの。


 まず、自分で倒す。私がスライム相手にやってることだね。



 それともう一つ。誰かと一緒に倒す。

 これは経験値が分散しちゃうけど、最も一般的な方法。だいたいみんなパーティを組んでるしね。


 そしてその中でもみんながやってるのが、全員物理でも魔法でも何かしら攻撃を当てて最終的には誰かがトドメを刺して倒すという方法。方法というか、よくある戦闘だね。一番戦闘参加してるのがわかりやすい。


 ただまだ私には無理。短剣しか攻撃手段がないから相手に飛び込まなきゃいけないし、このステータスでそんなことをしたらすぐに死んじゃうよ。

 完全に押さえつけた魔物に一撃を入れて倒してもらう、なんてやり方もあるみたいだけど、残念ながら私にそんなことしてくれる人は今のところいないもんね。

 まぁ、まだ特にパーティを組もうとしてないんだけど。



 あとは攻撃する人を支援すること。

 回復でも支援魔法でもなんでもいい。ただし、支援をしてからだいたい30分以内くらいに倒さないとダメみたい。

 だから支援魔法だけ掛けて「行ってらっしゃい」っていうわけにはいかないの。まぁ、そんな人嫌われるだろうけどね。

 とにかくそれで攻撃しない回復役(ヒーラー)でも支援職でも、それこそ戦闘職業(ジョブ)じゃなくても魔道具とかの支援で一緒に成長することができるの。


 『魔物と相対したらまずは支援(バフ)』っていうのがパーティ戦闘の基本。

 『夕暮れの空』だとクレ姉さんの役目だね。


 そして私にはちょっと難しい。何しろ『大地の息吹』しかないからね。魔力も1だし使うたびに休憩するんじゃさすがに……ね。

 そもそも自然魔法を使えることは秘密にしてるんだし。



 そんなわけで、私はひたすらに一人でスライムを倒し続けた。

 薬草を採取してその往復の間にスライムを倒す日々。


 そうして今のレベルは9。さすがにもう倒したスライムの正確な数は数えてないけど、そろそろ……早ければ今日にも10に上がるよ。



 レベル10──それは職業(ジョブ)を得た人にとっての最初の壁。


 というのも、レベル10毎にレベルアップに必要な経験値が一気に増えるの。


 そして、そこに到達したときに職業(ジョブ)として次のステップに上がることができる。

 例えば魔法なら次のⅡ系の習得レベルに当たるし、他の職業(ジョブ)ならその職業(ジョブ)の最初の特有スキルを覚えるの。【薬師】の薬の知識とかがそう。


 そして、戦う相手やクエストも必要な経験値を稼ぐためにワンランク上げることになる。上手く行く人は順調に自分のランクも強さも合わせて上がっていく。


 逆にそこで躓いてしまうとずっとそれまでと同じことを続けて行くことになる。

 周りの評価が上がらないのもそうだけど、一歩を踏み出せなくなっちゃうんだって。


 だから最初の区切りのレベル10っていうのは重要な壁になる。



 ──って言っても、正直私にはあまり実感がないよね。

 たぶん何事もなく何も変化なくレベル10になっちゃうんだろうし。


 だから今日もいつも通りに昼まで過ごして街を出た。



 ピロリロリン♪


 まだ聞き慣れないレベルアップ音。やっぱりレベル10でも必要な経験値は変わらなかったね。

 そしてやっぱりステータスにも変化なし。


 それにちょっとだけ期待してた特有スキルもなし。

 うう、スキルくらいは、と思ったんだけどなぁ。


 少しだけ気落ちしつついつもの群生地に着いた。


「うん、くよくよしても仕方ない! 私にできることをやろう!」


 自分に言い聞かせるようにそう言って、薬草を採取。


 そして自然魔法。掛けたら休憩。いつも通りね。


 と思ったら──



(「魔力枯渇からの回復によりスキル『魔力再生』を習得しました」)


「えっ? なに? この声は?」


(「加護により『魔力急速再生』に進化します。また『体力回復』を習得しました」)


「も、もしかして女神様の声?」


 オババも自力で薬の知識を習得したときに聞いたって言ってた。

 綺麗だけど感情のない声。


(「加護により『体力回復』は『体力急速回復』に進化します。『魔力急速再生』と併合され『自己再生』に変化しました」)


「ふぇっ!? それって【勇者】の特有スキルじゃ……!」


 アカツキが持ってたスキルだよ! どんなに傷ついても治っちゃうし、どんなに動き続けても全然疲れないって言ってた。

 それに魔力枯渇には一度もなったことがないって。



「スライム相手なら……試してみていいよね?」


 何をかっていうと、王都まで走って帰る。もちろんスライムを倒しながら。

 さすがに我慢できなかったの!


 そして私は初めて習得した疲れないスキルに浮かれていて、戻ってきたときにオババにこっ酷く叱られた。



「アンタねぇ、まだ目立つのは避けろって言ったの忘れたのかい?」


「ご、ごめんオババ」


「【すっぴん】が走って帰ってくるなんて「私には特別な何かがあります」って言ってるようなもんだよ」


「う……確かに」


「フィルナはギルドで【すっぴん】だって言っちまったんだろ? そんな目立つ被り物してさ」


「あ、そうだった……」


「なんであたしが覚えててアンタが忘れてんのさ。調合ばっかりやってて薬のこと忘れてないだろうね?」


「だ、大丈夫! ……たぶん」


「よーし、それならあたしが言う薬の材料を答えてみな。ぜーんぶ教えたやつだからね」


 余計な一言のせいでそれから薬に関する質問攻めを浴びることになっちゃった……。



 だけど──



(「『薬の知識』を習得しました」)


「えっ? やった!」


「ん? どうしたんだい?」


(「加護により『鑑定』に派生しました」)


「ふぇっ!?」


「ちょっと! どうしたのさ」




「あ、終わり?」


「フィルナ!」


「は、はい!」


「何があったのか言いな。詳しくね」


「わかった。えっとね……」


 昼間のことから順に説明すると、オババは真剣な顔でその話を聞いてた。



「──より上位のスキルにねぇ。とんでもない加護だったね、全く」


「でも、昼間の時は進化って言ってたけど、『鑑定』は派生って言われたよ?」


「それは『薬の知識』が専門スキルだからだろうね」


「専門スキル?」


「そういやまだ教えてなかったね。生産系職業(ジョブ)の特有スキルはそう呼ばれるのさ。【鍛治師】の『鍛治の心』とかね」


「どういうスキルなの?」


「自分の専門の物の状態を知り、作り出すものの質が上がるのさ。そしてさっきの『鑑定』なんかは何にでも使える反面、専門スキルの前半の効果だけしかない」


「つまり鑑定だけじゃ調合しても質は良くならないってこと?」


「そういうことさ。だから薬の知識と鑑定は別物って扱いになってるんじゃないかい? ステータスを見てみな」


「【ステータス】……あ、ホントだ。両方ともある。『自己再生』はそれしか残ってないのに」


「これでフィルナの加護もだいたいわかってきたね。まだまだあるんだったらそれこそとんでもないがね」


 これまで他の人と比べたりしてわかってきてたんだけど、私の加護込みのステータスはそれぞれ10相当みたい。

 相当っていうのは、残念ながら消費魔力5の初級魔法が発動しなかったから。だから魔力だけは本当に10相当なのかわかってないんだけど。



 そして私が魔力枯渇で倒れなかったことで、新たな仮説がオババから生まれたの。

 魔力枯渇っていうのはステータスが低下してるんじゃないかっていうこと。

 だから元々1の私は影響がなくて、しかも加護で10相当になってるから倒れなかった、っていう仮説。


 オババから聞いた魔力枯渇の状態と私が【すっぴん】になって加護を受ける前の状態が似てたんだよね。


 これは私の見えてるステータスが上がったらわかるんじゃないかってオババは言ってた。

 10以上のステータスから下がったのなら倒れなくても脱力感はあるかもしれないって。

 でも、『自己再生』を覚えちゃったから自然魔法を使っても平気かもしれないけどね。



「まぁ、ともかく『薬の知識』を覚えたんなら調合はもう大丈夫だろうね」


「そうなの!?」


「質が上がるって言っただろう? よっぽど気を抜かなきゃもう低品質なんて出ないはずさ」


「やってみる!」



 そしてまた私はいつも通りの変化のない日常に戻った。


 私の行動で変化は誰にも気付かれずに始まっていたというのに。

お読みいただきありがとうございます。


次回二年ほど飛びます。

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