第七十五話 皇帝陛下
言われた通りに真っ直ぐ帝宮を目指す。
迷うどころか大通りに出た時から突き当たりに見えてたよ。
寄り道せずに帝宮に着くと、もう私達のことは伝わってて、すぐに皇帝の間に案内された。
案内してくれた執事さんや働いてるメイドさんはパッと見他の国で見たお城の人達と同じだけど、纏ってる空気が明らかに普通の人のものじゃない。
まぁ、強い人が集まる国だから護衛も兼ねてるんだろうし、普通じゃやっていけないのかもね。
「フィルナ」
「うん。大人しくしとこうね」
ロザリィがちょっとテンション上がってるのが怖い。
他の国とは違って、執務室みたいな部屋で少し待ったら皇帝陛下が入ってくる。
「!?」
ビックリした。
アカツキを彷彿とさせる黒髪黒目。皇帝陛下ってジパンの人なの?
「ん? どうした? 俺が皇帝のトーヤ・ジンだ」
豪華な机に腰掛けながら軽い感じで向こうから自己紹介してくれる。
作法とかも違うのかな。普通はこっちから挨拶するものなんだけど。
「初めまして、フィルナです。まさかジパンの方だとは知らなかったもので、驚きました」
わからないものは仕方ないからサリィに教わった作法で頭を下げて挨拶する。
「ロザリィです。私も同じく」
「ほう、ジパンに知り合いでもいるのか? まぁ、ここは生まれなど関係ない。力が全てだからな。それより用件を聞こうか。親書を持ってきているんだろう?」
親書を渡すと皇帝陛下は私達を机の前にある席に座らせて、親書に目を通していく。
そして、これまで通り、ロザリィと一緒に説明していく。
「それで、もし可能であればこちらの国の『ダンジョン』の記録を見せて頂きたいのです」
「アタイの『ダンジョン』調査も許可頂けると幸いです」
ロザリィもまだ丁寧に話してる。一人称はいつも通りに戻ってるけど。
「なるほど。だがこの情報の対価というには軽いな。なんなら俺の嫁にしてやってもいいぞ? お前達はあの審査員が審査を避けたほどだと聞いている。実際見てそれは感じているからな」
「陛下!?」
皇帝陛下の隣に立ってる宰相って紹介された人が思わず声を上げた。
オルフェだとむしろ一緒になって推してきたんだけど、ここの宰相さんは違うみたい。
というか、ロザリィの情報自体は全く疑われてないね。友好国のオルフェでも認められたのも大きかったのかな。
「俺には妾は複数いるが、妃はいない。その意味がわかるか?」
あー、だから衛兵さんも妾希望か、って言ってたんだ。
「戦場で隣に立てる人を探している、ということですね」
「正解だ。とはいえ、お前達ほどの美と武を兼ね備えた者
はそうはいない。どうだ? その気はないか?」
「結構です。今は縛られるつもりはありませんので」
「そうか、残念だ。ならうちも白金貨でいいか。この先信用を得るのに役立つだろう?」
「それは助かりますが……それでは今度はこちらが貰いすぎでは?」
オルフェではなんやかんやあったのもあって白金貨までは貰ってないんだよね。
その代わりに『ダンジョン』調査の許可って考えてたから思わずそう言った。
「なら……そうだな、冒険者なら何か珍しい素材はないか? それを許可証の対価とするなら等価だろ?」
冒険者として評価できるもの、ってことだよね。うーん、何かあったかな?
「フィルナ、アタイのダンジョンのアレは?」
「あ、アレか! 陛下、先程お話ししたオーガエンペラーでいかがでしょう? 魔石は砕いてしまいましたが、それ以外はそのまま残っています」
「なるほど、Aランクの魔物なら十分だな。しかしそのままか……宰相、解体班を呼べ。それと俺もこの目で確認するぞ。庭へ出る」
「わかりました」
宰相さんはそう言って部屋を出て行った。
「お前達はこっちだ」
私達は陛下に連れられて帝宮の中庭へ。お供が誰も付いてこないのが凄いよね。
「お待たせしました」
少しだけ待つと宰相さんが解体する人を二人連れてやってきた。
「よし、出していいぞ」
許可を得て魔法鞄からオーガエンペラーを取り出す。
「おお、これは凄い。ほぼ完全な状態のオーガは初めて見ました」
宰相さんが驚く。まぁ、普通にオーガと戦ったらお互いボロボロになるからね。
私も『麻痺』の短剣がなかったらどうなってたか……。
「宰相、一応こいつの査定額を出しておけ」
「え? あ、はい。わかりました」
皇帝陛下の予想外の言葉に驚きつつも従って、解体班が運びやすく最低限の切り分けをして、宰相と一緒に別の場所に運んで行った。
「はぁ、最初からこれが狙いですか……」
「はっはっは、悪く思うな。やっと邪魔者を排除したんだ」
「なんだ? やっていいのか?」
ロザリィはトントンと軽くジャンプして乗り気だ。
「まぁ、ちゃんと説明してやろうか? 今のオーガでフィルナ、だったな、お前の実力は証明されたわけだ。なら、そっちのロザリィ? の力も見ておかないとな。俺は証文なんて他人の評価は信じないんだ」
「いや、色々とツッコミたいんだけど、要は魔族と手合わせしたいんでしょ?」
本性が見えて私も態度を変えちゃった。
「ふっ、なるほどな」
私の指摘を聞いたロザリィが更にヤル気になってる。
「ふふ……楽しみだ。どちらかが膝を突くまででいいな?」
「ああ、構わない」
「おーもうっ。せめて素手でやってよね! どうせ治療するのは私なんだから」
「なんだ、バレてたか。まあいい、素手でやろう」
皇帝陛下はそう言って腰に隠してた短剣を投げる。
「さぁ、先手は皇帝陛下に譲ろう」
「よし、いくぜ!」
皇帝陛下は女性であるロザリィにも遠慮なく顔面に殴りかかる。ううん、そんなことを気にしてる余裕がないってわかってるんだね。
実際、ロザリィはあっさり捌いて反撃してる。
って、ダメだ、ロザリィも余裕がなくて本気だ。圧倒してボコボコにしてる。
「ぐはっ!」
皇帝陛下が血を吐きながら膝から崩れて両手を地面に突く。
「はいっ! 終わりっ! そこまで!」
「ふうっ! 悪いけどフィルナ以外に負ける気はないんだ」
「くっくっ、ハハハハ! なるほどなるほど! そいつはお前より上か!」
「勝ったり負けたりだけどね。はい、『ヒールⅡ』」
「……ほう。いや、ここまで完敗なのは生まれて初めてだ。認めよう」
私の『ヒールⅡ』にも何か言いたそうだけど、まずはロザリィを褒めてくれた。
「あとは……それだけ汚れてたら宰相さんに何か言われるよね。『浄化』っと」
汚れてしまった皇帝陛下の立派な服も綺麗にする。
「なるほどな。決めたぞ。お前達……いや、フィルナに頼みがある」
まさかここで?
「な、なんでしょう?」
「ここじゃあな……さっきの部屋で話そう。そこなら誰も聞くことはできん」
立ち上がった皇帝陛下に言われて、拒否しようもなくてさっきまでいた皇帝の間に戻った。
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次回、皇帝の依頼。




