第七十四話 ラバロス帝国
故郷を離れてひと月と少し。次の国、ラバロス帝国との国境が見えてきた。
「なんかすごい……砦って言うんだっけ?」
国境の先には大きな砦があって、更に先にはもう街が見えてる。
だけど、ロザリィの目は砦に釘付けみたいだね。
「ああ向こう側? ほら、入るのも強くないとダメって言ったでしょ? あそこで入国審査というか実力審査があるんだよ。もちろん商人とかは別だけどね」
そうそう。私の知識のほとんどは元々冒険者だったオババに教わったものだよ。
だから一部は古かったりするけど、これは変わってないみたい。
商人とかが別枠なのはまぁ、当然だよね。できれば私達もこの枠で入りたいところ。
「なるほど。アタイらはどうなるんだ?」
「うーん、わかんない。使者といえば使者だけど、私は冒険者でもあるからね」
「まぁ、行ってみるか」
オルフェを出国して、砦の列に並ぶ。
この列自体はみんな一緒みたいだね。
私達の前の人たちはやたらと気合を入れてて、私の顔も見ずに前に集中してたよ。変な騒ぎにならずに済んでまずは一安心。
っていうか、パーティとか一グループごとに審査するみたい。
「よっしゃ! いくぞおめーら!」
「「おうっ!」」
しばらくして前のパーティの番になると、これまためちゃくちゃ気合い入れて砦に入っていった。
「うっわ、すっごい声」
「何しに来たんだあいつら」
「ん? アンタらも傭兵希望……じゃなさそうだな。陛下の妾にでもなりに来たのか?」
驚いてたら衛兵さんが次の私達に声を掛けて来た。
容姿を認めてくれてるんだろうけど、なんか嬉しくない。
「アレフ国の親書を預かってきたの。失礼なこと言うと怒られちゃうよ?」
「はっはっ。陛下はそれで戦争になることを喜んじまう方だからな。他国の王もその気質を知っているからこのくらいじゃ何も言わないさ」
「うわー、本格的に危ない人だね」
「それで、アタイらは入れるのか?」
「陛下は弱い奴と話すのを嫌う。だからアンタらにも審査を受けてもらうぞ。さっきのやつらが終わるのを待っててくれ。なに、すぐに終わる」
「まぁ、あんまり強そうじゃなかったもんね」
「だな」
「ほう。言うじゃないか。その通りだがな」
へぇ。この人もそれなりに見る目はあるんだね。
それから数分と待たずにさっきのパーティがボロボロになって戻ってきた。
「ち、ちくしょう。出直しだ!」
「「お、おう……」」
リーダーっぽい人以外は心が折れかけてるね。何されたんだろ。
「さぁ、次はアンタらだ。頑張れよ」
「あれ? ライセンスの確認とかはいいの?」
「ふっ、そんなもん関係ないのさ。入れるかどうかは審査担当が判断することだ」
本当に他の国とは違うね。
「目的が悪いことだったら?」
「それは俺が追い返してるよ」
「さっきのやり取りでしっかり審査されてたんだな」
ってことは、この人は衛兵じゃなくて【審査官】なのかな? 確か嘘が見抜けるんだっけ。
実力が足りないのも気付いてたみたいだけど、そこは役割が違うんだ。
商人に変なことを企んでる人とか紛れてたらこの人が見つけるんだろうね。
「そういうことだ。ほら、アンタらに実力審査を受ける資格あり、って書いてある書面だ。持っていけ。さっきのやつらが出てきた扉を入りな」
「わかった。ありがとう」
【審査官】っぽい衛兵さんにお礼を言って扉を開けると、広い部屋に大きな円が描かれて、その真ん中に人が立ってる。
「おや、次は女性ですか。手加減はしませんので怪我するのが嫌なら今のうちに……」
ん? なんか様子が変。
「どうしたの? 模擬戦か何かするんでしょ?」
「さぁ、早くやろう」
あれ?
「い、いえ、その必要はありません。ど、どうぞお通りください」
汗をダラダラと流し始めて、持ってきた紙にサラサラとサインをして通行を許可してくれたよ。
「え? いいの?」
「なんだ、残念」
「い、一体何者なんだ……いえ、なのですか?」
「私はただの冒険者だよ」
「アタイはその友達だな」
「そんなバカな……身の危険を感じたのは初めてですよ……」
この人も何かしら相手を見抜く力を持ってるんだね。
「まぁ、通っていいなら私はいいけど」
「そうだな。さっさと行こう」
「そうですか……では、この奥へ進みなさ……進んでください」
奥の扉を出ると、また別の人。サインしてもらった紙をその人に渡す。
「謁見を希望だな。お前達は運がいい。ちょうど陛下は手空きだ。そのまま帝宮に向かうならばすぐに可能だが、どうする?」
お、面倒な無茶振りされずに済みそう?
というか、それもどこで言われるのかまでは聞いてないんだよね。
まさか皇帝から……じゃないよね……?
「行くでしょ?」
「ああ」
「じゃあ、それで」
「わかった。早馬を走らせる。お前達が歩いて向かえば着く頃には話が通っているだろう。二人の名前を教えてくれ」
「私はフィルナ」
「アタイはロザリィだ」
「よし、帝宮はこの先の大通りを真っ直ぐ。迷うことはないはずだ」
「すぐそこがもう街なんだな」
「そうだよー。国境すぐに、っていうのはここくらいかな」
ラバロス帝国は帝都がオルフェに隣接してて、砦を抜けたらもう街になってる。
「オルフェだけは代々友好国としてやってきたからな。先の内乱でも好戦的な陛下が収めるのに協力したくらいだ」
そうだったんだ。それは初めて聞いたよ。
ラバロス帝国には大きな街がこの帝都しかないっていうのもあるみたいだけど、そもそもここから南と西は海で、東に『ダンジョン』と街を作れる環境じゃないんだよね。
それを説明すると、ロザリィも納得してくれた。
「海は危険なんだな」
「自然の力が一番強いからね。よっぽどのことがないと海には近付かないよ」
「フィルナ、そういうこと言うと行く羽目になるぞ」
「はは、まさか!」
ロザリィの指摘を鼻で笑いながら帝宮を目指して歩いて行った。
お読みいただきありがとうございます。
次回、皇帝陛下。




