第七十二話 新たな目的の旅へ
アカツキ達『夕暮れの空』と別れてから一週間が経った。
王都での謁見を終えた私とロザリィはウルに乗ってオルフェの『ダンジョン』に向かってるよ。
「その顔、いいんだか悪いんだかわかんないな」
そう。私、完全に今までの被り物被ってる感覚で街に入っちゃって、謁見まではよかったんだけど、その後誰それの嫁にーだとか、街に出ても人が集まってきたりして、逃げるように出てきたの。
「ここの『ダンジョン』の話まで聞けたし、いい方じゃない?」
「聞けたって言っても、アレはなぁ。また顔隠した方がいいんじゃないか?」
「まぁね。何かいいの見つけるまではサリィみたいにフード被ってようか」
「あんまり目立つローブはやめろよ?」
「わかってるよ! サリィじゃあるまいし」
今はもう仕方ないからそのまま行くけどね。どうせ行くのは『ダンジョン』だし。
「あれはあれで目立ちすぎだったな」
ふふっと笑うロザリィ。
あれからここまで慌ただしかったのもあるけど、あの日のことは吹っ切れたみたい。
「よかった。ロザリィが笑ってくれて」
「あのことは忘れてくれ。フィルナだって忘れたいだろ?」
「そうだね。そうするよ」
まさかロザリィが泣くなんて思いもしなかったから、実はそっちの方がショックだったよ。
アカツキとはしばらく顔を合わせたくはないけど、必ず謝らせるからね!
しばらくウルを走らせてると、草原に唐突に岩山が見え始めてきた。
「あれがここの『ダンジョン』か」
「不思議だよね。ロザリィの家は高いところにあったのに地下だし、こっちは岩山が草原に出てるし」
そうそう。『ダンジョン』って元は魔族の住居なんだよね。だから私達は家って言うことにしたよ。
その方が説明する時に親しみを持ってくれるかもって。
「しかも魔物が出るのは中だけなんだろ?」
「それはロザリィの家でも一緒でしょ?」
「そうだけど、ここのは浅い横穴らしいじゃないか」
それが王城で聞いた特長。魔物がすぐ一杯になるから本来はスタンピードには気を使われてる『ダンジョン』らしい。
狭いからって言ってたけど、魔界に行ったのが平原だから魔物が寄り付きやすいっていうのもあるんだと思う。
国王様もその辺の話は興味深く聞いてくれたよ。
「確かに……山の『ダンジョン』もあるらしいし……何かその理由もわかるといいね」
岩山なんだけど、ここは『横穴ダンジョン』。岩山の方には魔物は出ないみたい。
「そうだな。色々見てみよう」
私達の今の目的、それは『ダンジョン』の調査。
大陸に10あるっていう全ての『ダンジョン』を回るつもり。そこで『ダンジョン』が生まれる前のことや魔界のことが何かわかればと思ってるよ。
そして、その後はジパンへ行く。なんでアカツキやクレ姉さんがああなったのか……調べてみたい。
それが一応の予定かな。
最初にオルフェの『ダンジョン』にしたのは近いからっていうのもあるし、私の過去の精算というか八つ当たり?
私のいたムーア村が滅んだスタンピードは国の内乱のせいで『ダンジョン』内の魔物の間引きが疎かになったのが原因だったらしい……。
でも、当時の国の王様が誰かとか内乱を仕掛けたのが誰かとか、調べようと思えば知ることはできるんだろうけど、それを知ったところで恨む気も起きないし、なんか違うと思ったんだよね。
「うわっ! 魔物! ……いや、従魔か?」
ダンジョンの側にはあの日の悲劇を繰り返さない為に兵士の詰所が置かれることになったらしい。
そこに詰めてる兵士さんがウルを見て声を上げた。
スピードは落としてたけど、私達の姿は見えなかったみたいだね。ウルの首に布を巻いておいてよかったよ。
「ご苦労様です。『ダンジョン』調査に来たフィルナです。これが許可証だよ」
ウルから降りて国王様に発行してもらった許可証を見せる。
『ダンジョン』はソロでの突入を禁止されてるし、念の為ね。
国王様もロザリィの実力を示すバハムル村の村長さんの証文を見せたら快く認めてくれたよ。ソロでAランク二人相当になるわけだしね。
「こ、これは確かに王家の……! ど、どうぞ!」
おお、効果は抜群だね。
「それじゃあまずは軽く一番奥を見に行こう」
「そうだね。そこから行こう」
「か、軽く……?」
私達の発言に引き気味の兵士さんをスルーして『ダンジョン』に歩いて向かう。
「やっぱりウルが入るには狭そうだね。ウルは影に入ってて」
『ダンジョン』の入り口は人が三人並んで歩けるくらい。
高さもちょっとジャンプしたら上に届きそう。
一人の住居って考えたらむしろ広いのかもね。
《暴れたかったが、仕方ない》
ウルも十分強いんだろうけど、なかなか活躍の場がないね。
あんまり人目のつくところだと戦わせたくないっていうのもあるけど。
「一人で隠れ住んでたって感じだな」
「でも、見えないのによくこんな穴開けられたよね。ロザリィはどうやったの?」
「ん? ああ、てっきりフィルナなら気付いてるかと思ってたんだけどな」
「え? てことは私も知ってる方法?」
「そう。『次元空間』を使うんだ」
「ええっ。どういうこと?」
「『次元空間』を出したまま壁に向かって動かせばいい」
「もしかして、当たったところだけ削れる?」
「正解。ついでに言うと、あれの形変えられるからな?」
「そうなの!? そんなの言ってくれないとわかんないよー」
「だから言ったろ? フィルナなら気付くと思ったって」
「じゃあさ、聞くけど、ロザリィがそのことに気付いたのって使い始めてどれくらい?」
「……あ」
「あ じゃないよ!」
「悪い悪い。今じゃ当たり前みたいに思ってたからな」
「ちなみに答えは?」
「20年くらい使ってからだったかな」
「あーソウデスカ」
「でもまぁ、削れるって言っても……これは言ったろ? アタイでもそんな長い時間出していられないって」
「そっか。この広さでも大変なんだね」
「魔力を切らすわけにはいかないしな。この入り口だけでも数日がかりさ」
ロザリィはあの竪穴住居に何百年かけたんだろ……。
「なるほど」
広さの差は性格の違いかな?
ロザリィはとことん突き詰める感じだもんね。
ここを作った人はただ身の安全を守れればいいって思ってたのかも。
魔物が侵入してくるのが一箇所ならロザリィみたいな身体能力がなかったとしても【次元魔導師】なら対処は簡単だろうし。
「とにかく奥へ行ってみようか」
「うん」
その意味を知ったせいか、他人の家に勝手に入っていくような変な感覚を覚えながら魔物を蹴散らしていった。
お読みいただきありがとうございます。
新章突入です。
といっても一話一話のノリはあまり変わりません。
次回、痕跡。




