第七話 呼び出し
10日間、毎日何匹のスライムを倒したのか数えてた。
今日は一匹多く倒した!
今日はノルマぴったり!
って、まるで誕生日が待ち遠しい子供みたいに。
だから、その時をハッキリと意識してた。
──ピロリロリン♪
私が100匹目のスライムを倒した瞬間、ソレは頭の中に直接鳴り響いた。
「コレがレベルアップ音かぁ。ホントに頭に響くんだね」
話には聞いていても実際にどういう音が鳴るのかわからないから楽しみにしてたの。
誰がどうやって鳴らしてるのかなんてわからない。そういうもの、としてみんな納得してる。
だってこんな音、頭の中じゃなくても鳴らす方法ないんだもん。
この世界に存在しない音。それがレベルアップ音。
そして──
「【ステータス】……って、やっぱり変わらないよね」
わかってはいるつもりでも、期待しちゃう。加護があるからもしかしたら、なんて。
だけど、私のステータスは全部1のまま。
とはいえ別にガッカリはしてないよ。これが普通の職業の限界のレベル65だったりしたら違ったかもしれないけど、まだたったの1レベル上がっただけ。
そうして後はいつも通りに薬草を採取してギルドに報告。
……なんだけど、カウンターに着くとなんだか受付のお姉さんの表情が暗い。
「どうかしたんですか?」
「フィルナさん……すみませんがちょっと奥へ……」
なんだろう? と思いつつもお姉さんに連れられて奥の部屋に入ったら、男の人が部屋の奥の机に座っていた。
その人は私が来たのに合わせて立ち上がって、こっちに歩いてくる。
赤髪に白髪の混じった短髪のおじさんで、その歳くらいの人に言うのは失礼かもしれないけど、清潔感のある綺麗な顔をしてた。
それにリューさんを見てたからわかるけど、細身のようで、ガッチリした体つき。間違いなく私じゃ手も足も出ないっていうか、片手であしらわれるくらい強い。
「やあ、君がフィルナだね。急に呼び出してすまない。さ、そこに掛けてくれ」
緊張する私に優しい声音で話しかけてくれた。
言われた通りにテーブルを挟んだソファーのその人の向かい側に座った。
「まずは初めまして。私はここのギルドマスターのアルフレッドだ。気軽にアルさんと呼んでくれ」
「は、初めまして、フィルナです。よ、よろしくお願いします。あ、アルさん?」
「ぷぷっ」
ええっ!
私が言われた通りに呼んだら、私を連れてきたお姉さんが急に吹き出したんだけど。
「フィーア?」
フィーア? それがお姉さんの名前? そういえば聞いてなかった。
アルさんの冷ややかな視線にお姉さんは目を逸らしてまだ笑ってる。
「だって、本当にそう呼んだのフィルナさんが初めてじゃないですかぁ。あ、フィルナさん、言ってなかったけど、私はフィーア。実は名前が似てたから覚えてたんですよー」
なんだかお姉さんの雰囲気がいつもと違う。
それにニキビで覚えられてたんじゃなかったんだね。ちょっと嬉しい。
「てっきり顔の特徴で覚えていたのかと……すいません!」
「あはは、いいって。それもないわけじゃないからね。こっちこそゴメンね」
「なんだ、猫を被るのはやめたのか?」
「だって、フィルナさん可愛くて」
「か、可愛いだなんて……あっ、「フィルナ」でいいですよ」
「嬉しいけど、そこは職員と冒険者っていう私の中で線引きがあるの。表に出たらまたちゃんとした話し方に戻るから変な癖をつけないようにしてるのよ。職員が贔屓するのはあんまりよくないんだ」
「それだ」
「へっ?」
急にアルさんが割り込んできて変な声が出ちゃった。
「今回来てもらったのは、フィーアがフィルナを贔屓しているんじゃないか、ということなんだ」
「ええ?」
「フィルナさん、最近毎日たくさん薬草を提出してくれてるでしょ? この辺りの群生地の数から言って、少しおかしいな、って──この人は言うんだけど、私はフィルナさんが不正なんてしてないって信じてるからね!」
「おい、この人とはなんだ。それに別に私はフィルナが不正をしているなどと思っているわけじゃない」
「え? あれ? そうなんですか?」
「お前の早とちりだ。お前、フィルナのことで私に報告していないことがないか?」
アルさんがフィーアさんをじっと見つめると、フィーアさんはまた視線を逸らして、諦めたように戻す。
「実は……フィルナさんは『夕暮れの空』の秘蔵っ子なんです」
「はぁ……そんなことだろうと思ったよ。【すっぴん】を私に何も言わずに外に出すんだからな」
アルさんはこれでもかという溜息を吐いてた。
「あ、あの、私……」
「話せる範囲で構わない。それに我々にも守秘義務がある。話してくれたことを口外するような真似はしないから安心してくれ。君には何か特別なことがあるのか?」
この人は信用できる、そんな気がした。
「私は女神様から加護を頂いてます。それに、『夕暮れの空』のみんなからいろんな魔法を契約して貰っているんです」
「なるほど。どんな加護かはわかっているのか?」
「いえ。わかっているのはただ体を動かすのに不自由はないっていうくらいです」
「そうか……レベルは? さすがにまだ1だろうが……」
「いえ、それも今日2に上がりました」
「えっ!? たった10日で!?」
「信じられんが、普通に動けるというのならあり得なくもない、か?」
「過去の調査だと一日二匹のスライムを倒すのがやっとでしたよね」
「ああ。それと比較してもとんでもないスピードだ」
「私もそれは見ました。でも私は毎日十匹倒せていたので」
「知っていたのなら逆に聞きたい。何が君をそうさせた? レベルは上がってもステータスは変わらなかっただろう?」
これも言ってみよう。元々言うつもりだったしね。
「固有スキル『成長速度一定』の効果がわかった、って言ったら信じてくれますか?」
「え!?」「なに!?」
二人同時に激しく食いついて思わず面食らっちゃった。
「あ、ごめんごめん。聞かせてくれる?」
私は成人の儀の時のことを話した。
「なんてことだ……それが本当なら【すっぴん】の価値が上がるかもしれない。それはフィルナの今後次第だが。それと固有スキルの効果を見る方法……これは教会に伝えれば近いうちに確認が取れるだろう」
「あの……信じて……くれるんですか?」
「【すっぴん】の固有スキルに関してはまだ半信半疑だがな。固有スキルの詳細を見る方法なんてすぐにわかる嘘を君が吐くとは思えない」
「初めてアルさんって呼んでくれましたしね」
「茶化すな。だが、そういう素直なところも評価したのは事実だ」
「あ、ありがとうございます!」
「それと話が戻ってすまないが、薬草の件、改めて確認させて欲しい。どうやってあれだけの数を集めた? それも高品質だったと聞いている」
「それは……あの、これは本当に秘密にしてくださいね。オババにも止められていることなので」
「約束しよう。フィーア、いいな?」
「もちろんです」
二人が真剣な表情をしているのを見て、私は自然魔法のことも話した。
「わかった。フィーア、改めて言うが、他言無用だ。この方法についても私の責任で預からせてもらう。薬草に自然魔法を掛ける貴族などいないだろうがな」
「よろしくお願いします」
「私も、心の中に留めておきます」
「しかし……ルミネ嬢もよほど君を気に入ったと見える。まさか自然魔法まで契約させてしまうとは」
「ルミ姉さんを知ってるんですか!?」
「さすがにこの国で知らない人はいないわよ。旦那のリューさんもね」
二人が誇らしそうにしているのがなんだか自分のことみたいに嬉しかった。
「それでは、呼び出してすまなかったな。話は以上だ」
「あ、フィルナさんは今日でクエスト十回目だからあとは討伐クエストを達成したら昇格試験ですよー」
「はは、まだ討伐なんて無理ですよ。それより薬草を集めますね」
「【すっぴん】がこれほどありがたいと思う日が来るとはな。フィルナ、更なる成長を期待する」
「頑張ります!」
そこでようやく私はギルドから解放された。
よーし、また次のレベル目指してがんばろー!
お読みいただきありがとうございます。
次回、レベル10。
※別の話にするかもしれません。