第六十八話 【すっぴん】育成法
謁見の間の隣、会議室って言うのかな。長い机の両側に椅子が沢山ある部屋に移って、『ダンジョン』の話から始まってロザリィのことや魔界や魔族について話していく。
「サリィ、お前の判断は正しい。聞く人間次第では魔族は魔物の仲間だと言い出す者もいただろう。お前はそういう連中から友達を守ったのだ」
国王様はロザリィのことをサリィの友達だとハッキリと言い切った。
「お父様……信じて……くださるのですか?」
「当たり前だ。大切な娘の言葉を信じられんで王が務まるか!」
なんだ、やっぱり国王様も父親だね。
まぁ、さっきまでの態度を見てたら父親と王とそれぞれ別物として接してるみたいだったけど。
忙しすぎてサリィとはあんまり父親として会話できなかったのかも。
「サリィ、よかったね」
「ええ。それもこれもフィルナとロザリィのおかげですわ」
「お前が積極的に動き出したのはリディの儀式の後。きっかけは【すっぴん】だったな。そして【すっぴん】の友を見つけてくる、か。いや、何があるかわからんものだな」
「その……リディ──いえ、リーデンス王子はどうしてらっしゃいますか?」
「リディと呼んでやってくれ。そうだな……さすがにショックを受けたようだ。しかしあの子も本来前向きな子だ。君なら立ち直らせることができるかもしれん。息子を……頼む」
あわわ、国王様に頭を下げさせちゃったよ。
「頭を上げてください! そうですね……まずは指針を示します。そうしたら私だけじゃなく、みんなで協力しましょう!」
王子っていう立場なら私にはできなかった方法がある。
「皆で協力? どうするつもりだ?」
「どこか広い場所……訓練場とかありますか? そこにリディ王子を呼んでください」
「それなら私がいつも訓練を受けている庭がありますわ。そこならリディも来てくれるはずです」
「そうだな。呼びに行かせよう」
国王様が呼び鈴を鳴らしてメイドさんを呼んで指示を出してくれた。
そしてギルドマスターを含めた全員で、サリィが訓練してるっていう庭に移動したよ。
「さて、何を見せてくれるのだ?」
「その前に国王様、この場に魔物を出してもよろしいでしょうか?」
「なに? どうする気だ?」
「もちろん出すと言っても抑えつけますので危険はありません。その状態でリディ王子に一撃入れてもらいます」
「なるほど! そういうことか。よろしい、許可する」
「えっ? ど、どういうことですの?」
「リディ王子が何かしら攻撃を当てた魔物を倒せばリディ王子にも経験値が入る。そうすれば動けない【すっぴん】でもレベルを上げることができるよ」
「そ、それは本当ですか!?」
その声に振り返ると、まさにお坊ちゃんっていう感じの髪型の男の子が車輪のついた椅子でメイドさんに運ばれて来てたよ。
そっか、聞いてなかったけど、この国も15歳で成人なんだね。……って、そういえばリルカも職業を持ってたね。
「本当ですよ、リディ王子。【すっぴん】は常に魔力枯渇と同じ状態……辛いかと思いますが、頑張ってみませんか?」
「そうなのか? 君はどれだけの世界の疑問を解消してきたんだ?」
これもオババと色々確認してわかったことだね。
国王様でも知らないこと、確かにどれだけ見つけてきたんだろ。
「私は……やってみたいと思う! 父様、いいですよね!?」
「そうだな、フィルナ嬢、よろしく頼む」
「では、リディ王子、この短剣を。これには『麻痺』が付与されています。少しでも当たればダメージはなくとも効果は出ます」
そう言って私の短剣を手渡す。
「わ、わかった」
リディ王子は入らない力を目一杯込めてそれを握る。
「それでは……皆様少し離れていてくださいね。出すのは中位種の巨大鼠です」
私が告げるとロザリィ以外が離れていく。
「最悪アタイが捕まえてやる。失敗しても気にするな」
「はは、バレバレだね。もしもの時はよろしく」
魔物……っていうか、生き物を入れて取り出すのは初めてなんだよね。今思えば最初からこうするつもりだったんだから試しておけばよかったよ。
『次元空間』
球体の収納空間が現れて、そこに手を差し込む。
巨大鼠の首を上から掴むイメージで取り出すと、そのまま地面に叩きつけて抑え込む。
「リディ! 今です!」
「私は……立派な……王子に……なる……んだぁ!」
声を掛けると、立ち上がって待っていたリディ王子がふらつきながらも一歩ずつしっかりと踏み出して近付いて来て、最後は倒れ込むように短剣を魔物に突き立てた。
「ギャッ……ガ……」
しっかり麻痺が発動して動きが止まる。
「よし、いいですよ」
そこに剣でトドメを刺す。
ピロリロリン♪ ピロリロリン♪……
頭の中にレベルアップ音が鳴り響く。
私に聞こえてるということは同じ【すっぴん】のリディ王子も……。
「あわわわわ……なにこれぇ! ずっと音が鳴ってるよー!」
さっきまではしっかりとした言葉遣いだったけど、焦って素が出たのかな?
こっちの王子は年相応っぽいね。
「ふふふ、これはレベルアップの音だよ。【すっぴん】はだいたいの魔物で複数アップするからね。慣れておいた方がいいよ」
「そうなんだ。お姉さんも【すっぴん】なのか?」
あ、戻っちゃった。素の方が可愛いのに。って、相手は王族だった!
「そうだよ──あっ、そ、そうですよ、リディ王子」
「さっきの方がいい!」
「えっ?」
「さっき、リディって呼んでくれたでしょう?」
「そ、そうでしたっけ?」
「呼んでましたわよ。「リディ! 今だー!」って」
「なんか違くない?」
「そんな感じじゃなかったか?」
「はっはっは。いや、ありがとう、フィルナ、ロザリィ。俺の子供たちとそうやって話す者はいなかった。どうかそのままで頼む」
「お姉さん、どうかお願いします!」
「フィルナ、ロザリィお願いしますわ!」
「ああ、わかったよ。アタイもその方が楽だ」
「私も。さすがに国王様には無理ですけど」
「俺は一向に構わんぞ?」
「結構です。まさか、そのノリで側室になれとか言いませんよね?」
「なんだ、嫌なのか?」
「お断りします!」
「あら、フラれたわね、アナタ?」
「ク、クレア! こ、これはだな……」
ん? これまた金髪の美人は……もしかして王妃様?
すっごい笑顔が……怖い。
「フィルナさん……でしたか? 私はクレア。サリィたちの母ですわ。よければお顔を見せていただけないかしら?」
動揺する国王様を無視して私に話しかけてきた。自己紹介も王妃じゃなくて母親だなんて……国王様もしかして尻に敷かれてる?
「ええ、構いませんよ」
そう言って被り物を取る。
「あらあら。これは大魚を逃したわね、アナタ」
た、大魚って。ギルドマスターも固まっちゃったよ。
「い、いや、違うんだ。これは……」
「これは?」
国王様が問い詰められてる間に被り直してリディの方へ。
「リディ、今は大変だと思うけど、レベル100を超えたら普通に動けるようになるから。そこからはリディの目指すことをやるといいよ」
「うん、わかった!」
うんうん、こっちのリディの方が好きだなぁ。
「とにかく真剣に打ち込めばなんでもできるのが【すっぴん】だからね」
「な、なんでも?」
「そうですわ。フィルナはすごいんですのよ! 『テイム』だってしてしまうんですから」
「すごい!」
「そのテイムした従魔はどこに……?」
あ、王様。ようやく解放されたんだね。
「私の影の中に。ウル、出ておいで」
「「な、な、な、ななななんだこいつは!!」」
呼びかけに応じてウルが姿を見せると、知っていたロザリィとサリィ以外から悲鳴のような叫び声が上がった。
「陛下! どうされ──うわっ!」
あまりの声に騎士さんっぽい人がやってきちゃった。
「大丈夫だ、ロラン。大事ない」
「は、はい。それにしても見事な狼です」
国王様の一声で警戒を解いてくれた。
「団長、紹介しますわ。このフェンリルを従えている、友人のフィルナです。あちらが同じく友人のロザリィ」
このロランって金髪碧眼のイケメンさんがこの国の騎士団団長なんだ。
団長にはイケメンがなるってルールでもあるのかな。タイクーンのレオンさんも相当だったけど、この人も負けてないよ。
「初めまして、フィルナです」
「ロザリィだ。よろしく頼む」
「アレフ騎士団団長のロランです。こちらこそよろしく」
物腰の柔らかい人だね。そこはレオンさんとは違うね。あの人は最初の印象だけだったけど。
「団長さんにギルドマスターもいるならちょうどいいかな。リディのレベルアップについてお二人の協力が不可欠だと思いますので」
「ええ、もちろんギルドも協力しますよ」
「どういうことでしょう?」
さっきの様子を見てなかった団長さんに説明。
「レベル100まで上げられればかなり状況は変わります。まずはそこまで手助けをしてあげてください」
「なるほど。殿下、騎士団も協力を惜しみません。なんなりとお申し付けください」
「ありがとう団長」
「もちろん俺もだ。騎士団の魔物捕獲行動を許可する。安全には十分に注意し、リディのレベルを上げるのだ」
「はっ!」
おお、ここの敬礼もタイクーンと同じ拳で胸を突くポーズなんだね。これカッコいいから好きなんだよ。
「では、話の続きは食事をしながらにでもしよう」
国王様がそう言って、その場は一旦解散になった。
お読みいただきありがとうございます。
序盤にちょこっとだけ触れた方法ですね。
国王様はそれを知ってましたが、【すっぴん】については知らないので実践されていませんでした。
次回、故郷の国へ。




