第六十五話 騎獣
翌日、まずはギルドへ報告に向かった。
護衛さん達にブラウニーとマロンを任せて三人で入る。
二匹には従魔ってわかるようにミーアの店で買った赤と灰色のベルトがそれぞれ首に巻かれてるよ。私とロザリィの色。嬉しいな。
私もウルの為に買ってある。流石にあの大きさのベルトはなかったから長い布をスカーフみたいに巻くつもりだよ。
そして馬車で移動するはずだったサリィはブラウニーたちに乗って行くことになったから、今日もドレスじゃなくて動きやすい服装をしてるね。
「クエスト完了の手続きお願いします」
昨日と同じお婆さんの所で報告。
「はい。ギルドマスターがお待ちです。奥へ……」
昨日とは打って変わって丁寧な言葉に対応。そりゃそうだよね。
でも……。
「ううん、ここでいいよ。サリィからだいたい聞いてわかってるから」
「は?」
「フィルナとロザリィは私の依頼を見事こなしてみせましたわ。それ以外何も必要ありません」
私の意図に気付いたサリィも話を纏めてくれる。
「で、ですが……い、いえ。わかりました」
受付のお婆さんは反論することも許されないことに気付いて手続きに入ってくれた。
「では、フィルナ。これは今回の報酬、金貨二百枚のつもりでしたが、二体もテイムさせて頂きました。ですので倍の四百、お受け取りください」
「うん。ここで遠慮するのは野暮だよね」
「そうですわよ。それから……加えてフィルナに指名依頼をさせて頂きます」
「指名依頼?」
「これはサーリア・フォン・アレフからの依頼ですわ。ここからの道中、私とその客人、フィルナとロザリィの護衛をお願いします」
「私とロザリィも?」
「ええ、私の大事な客人に怪我を負わせることは許しませんよ?」
そう言ってふふっと笑って見せるサリィ。
「ははっ、それは気を抜けないね。もちろん受けるよ」
「では、手続きをお願い致しますわ」
「か、かしこまりました」
前回とは違って、正式に王族の依頼とあってお婆さんの緊張もさっき以上だね。
「でも、護衛さんがいるのに護衛依頼なんて受けちゃっていいの?」
「うふふ。実はですね、ブラウニーたちに乗って移動すると馬車より速すぎますから、それならばもう別行動で私達だけ先に直接王都へ向かった方がいいという結論になりましたわ」
「だから護衛はアタイらにってことか」
「ええ。フィルナにはウルがいますから、ロザリィにはマロンに乗って頂いて一気に王都を目指しますわよ」
「なるほど、わかったよ。期間はどれくらいだろ?」
「直接馬車で向かって10日ですから、半分くらいには短縮できると予想していますわ」
「クエストを発行致しました、サーリア様。フィルナさんはライセンスをお返しします」
依頼について聞いてる間に手続きが終わってお婆さんが声を掛けてきた。
完了手続きからそのまま受注処理までやってくれたみたい。
「よし、行こう」
「ああ」「ええ」
ギルドを出て護衛さんと別れ、そのまま西門から街を出る。
「ふふ、これで邪魔者はいなくなりましたわ」
「あ、昨日の話……気を遣わせちゃったかな」
「いえ、そうした方がいいと思いましたの。とはいえ移動中は話せないと思いますから、夜に聞かせてもらいますわ」
護衛さんと別行動をとるようにしたのは私が他言できないかもしれない話をするって言ってたからだったらしい。
私とロザリィを信用してもらえたのは嬉しいけど、王女様に危険のある選択をさせてしまったのは申し訳ないな。
絶対に無事に送り届けるからね!
「よし、これくらい離れればいいかな。ウル、出ておいで」
一応、人目に付かない場所でウルを呼び出す。
《状況は中で聞いている。我に乗るが良い》
「あー、待って待って。ウルにプレゼント。これも聞いてたでしょ? もしかして照れてる?」
布を首に巻いてあげる。私の髪と同じ色の布。
《ぬ……照れてなどいない》
「いいのいいの。カッコいいよ、ウル」
《感謝する、我が主》
「移動ペースはあっちのブラウニーとマロンに合わせてね。私だけ先に行っても意味ないから」
《承知した》
「従魔と会話できるのは羨ましいですわ。ブラウニー、よろしくお願いしますわね。マロンはロザリィを頼みましたわ」
「「オン!」」
「サリィも会話できてると思うぞ」
「そ、そうですか? ですが、確かにちゃんと伝わっているのは感じますわ」
「だろう? それじゃよろしくな、マロン」
「クゥーン」
「……ロザリィも会話できている気がしますわ」
「まぁまぁ。それよりお互い騎獣は初めてなんだし、まずはゆっくり行こうか。よ……っと」
ウルの背中に飛び乗る。ふかふかだぁ。これがサリィの言ってるモフモフ? 気持ちいい。
「あ……私も! えいっ! ふぁっ……も、モフモフですわぁ!」
ブラウニーに乗ったサリィが感激の声を上げてる。
可愛いなぁ。たぶんミーナが見たのはこの顔だろうね。
「そんなにいいのか? よっ! おお!」
ロザリィもマロンに乗った瞬間に声を上げる。
「とりあえず二時間くらい進んだら休憩しよう」
「わかりましたわ」
「ああ、楽しみだ」
始めは恐る恐る、それからだんだんとペースを上げていく。
「ブ、ブラウニー! も、もう少し上下動を少なく……きゃっ!」
「サリィ大丈夫? またペース落とそうか」
「そ、そうですわね」
「マロンは快適なんだけどなぁ」
「主人として負けられませんわ!」
サリィって意外と負けず嫌い?
「クゥーン……」
ブラウニーが申し訳なさそうに一鳴きする。
「ブラウニーは思いっきり走りたいんですのね。いいですわ、私が合わせられるようになってみせます!」
「ワォン!」
今度は嬉しそうな声。すごいね、私にはわかんなかったよ。
「ふっ、サリィにはわかるんだな。なら、ペースを上げようか。マロン、いけるか?」
「オン!」
「よーし。それじゃ、ここからは先頭はサリィとブラウニーで。もう少し行ったら休もう」
《ふ、やはり走るのは良い。楽しいぞ主!》
ウルもペースアップに乗り気だね。
さっきまでより更に速く走り出すとあっという間に王都へと向かうルートへの分かれ道に着いた。
その頃には最初は四苦八苦してたサリィにも余裕が出てきてたよ。
「まさか二時間でここまで来れるとは思ってなかったよ。ちょうどいいからここで休憩しよう」
お昼ご飯をみんなに振る舞う。
ウルやブラウニーとマロンにもお肉を焼いてあげたらめちゃくちゃ喜んでくれたよ。
「そういえばお二人はずっと一緒ですの?」
「ううん。私が旅に出てからは一番長いけど、最初は私一人だったよ」
「アタイはこっちに来て最初に出会ったのがフィルナだったな。それからはずっと一緒だ」
「こっち、とはどういうことですの? この国、というわけではなさそうですが……」
「アタイは魔界から来たんだ」
「一応聞くけど、サリィは魔界って聞いたことある?」
「いえ、ありませんわ」
「だよね。うん。じゃあ、続きは夜に。まだ進めるうちは進もう」
「わかりましたわ」
「あ、そうだ。ウルはブラウニーたちと意思疎通できたりする?」
《当然可能だ》
「なら二人が疲れる前に教えてくれる? ウルの方が体力あるのは間違いないだろうからさ、無理させないようにね」
《承知した。我は疲れることはない。気を付けるとしよう》
もしかして私の影響かな? 私もそうだし。
「フィルナ、私も気付いたら止まるようにしますわ」
「わかるの?」
「乗っていればなんとなく、ですが」
「さすがご主人様だな」
あ、これはロザリィもわかってるね。
え、私だけわかんない感じ? でも、私の場合はウルが疲れないからだし……うん、きっとそう。
「うふふ、そうですわよ」
サリィは気付いてないね。ならわざわざ言わなくていいか。イジられたサリィを見るのは楽しいんだけど。
移動を再開して、もう一度だけ休憩をとって、日が暮れ始めたところで野営に入った。
お読みいただきありがとうございます。
体調を崩してお休みを頂いてしまいました。
回復したのでまた更新をしていきます。
次回、サリィの提案。




