第六十四話 招待
「いらっしゃ──あ、お帰りなさい!」
「ただいまー! ホントに戻ってきちゃった」
ギルドへの報告は明日することにしてミーアのお店に帰ってきたよ。
護衛の人達も私達がサリィのテイムを成功させたことで信用してくれたみたいで、サリィの同行も是非にって感じだったよ。
「あれ? そちらの方は?」
「今日の依頼主のサリィって言うんだけど、一緒に泊まっちゃダメかな?」
「初めましてーミーアでーす。ベッドは空いてるんでどうぞ……え?」
「初めまして、今日フィルナ達に依頼させて貰いましたサリィと申します。一晩お世話になりますわ」
「フィルナさん?」
うう、ミーアの視線が痛い。
「な、なにかな?」
「いや、サーリア王女ですよね?」
「さ、サリィだよ」
「フィルナさん?」
「な、なにかな?」
「サーリア王女ですよね?」
「う、うん……」
「いや、うんじゃなくて」
「ミーア、顔、怖いよ?」
「当たり前です! なんでこんなところに王女様が! それになにをどうしたらうちに泊まることになるんですか!!」
「だ、だって、ミーアが滞在するなら泊まっていいって……」
「それはフィルナさん達の話ですよぉ!」
「ご、ごめんなさい! 私が無理を言ってついてきたんですわ! フィルナやロザリィともっと仲良くなりたくて……」
「あわわ……いや、サーリア王女は謝らないでください……! わかりました! ご、ごゆっくりしていかられてくださいます!」
「ミーアは何を言ってるんだ?」
「だだだ、だって、きき、緊張してきちゃって」
「大丈夫だって。サリィはモフモフしたいがために狼をテイムしに来たような人だよ?」
「ちょ、ちょっと! フィルナ! バラさないでくださいまし!」
「そしてテイムしたフォレストウルフに食べ物の名前を付けたんだ」
「ロザリィまで! ひどいですわ!」
「あははは、なにそれ! あはははは」
「ミーアさん! 貴女まで笑うんですの!?」
「ご、ごめんなさい! でも……無理! あははは」
「ふふっ、いい感じに打ち解けられたんじゃない?」
「もうっ、フィルナはいじわるですわ! ですが……ありがとう」
「三人が仲良しなのはわかりましたよぉ。なので! あたしも混ぜてください!」
「もちろん!」
「そうだな」
「ええ、喜んで」
「ところで、外にそのテイムしたフォレストウルフが二体いるんだけど、どこか休ませられるところないかな?」
「それでしたら、裏庭へどうぞー」
「ありがとう。助かりますわ」
「いえいえー」
「それじゃ、私は今のうちに晩ご飯の用意しますか」
「ならアタイはリルカを呼びに行くとしよう」
「そうでした! ロザリィさんお願いしますー!」
ミーアに手を挙げて応えてロザリィは一人で出ていったよ。
「リルカ?」
「あ、あたしの妹です。フィルナさんと先に会ったのはリルカの方なんですよ。それで昨日は一緒にフィルナさんの作ったご飯を食べたんですけど、めちゃくちゃおいしくて! 今日も一緒に食べるつもりだったんです」
「そんなに美味しいんですの? それが食べられるんですのね」
「王族の方が食べてる物がどんなものか知らないですけど、負けないと思いますよー」
「ちょっと、ミーア! プレッシャーかけないで!」
「ふふふ、期待してますわよ、フィルナ」
「む、こうなったら本気出すからね!」
「やった! 楽しみですー!」
そう言って、リルカはサリィを裏庭に案内していったよ。
あそこまで期待されたら全力で喜ばせて見せるよ。
調味料から下拵えまでガッツリ『調合』を使って、材料も手持ちの中でも特に良いものを。
普段は割と大雑把にやってる途中の作業も味見しながら真剣に。
(「『調理』スキルを習得しました。加護により『解体』スキルに派生しました」)
やっぱりスキル習得には集中力が関係してるんだね。って、そこまで集中しちゃってたんだ私。
それに『解体』は【狩人】のスキルだね。倒した魔物や動物とかの素材を細かくしたり綺麗に皮だけ剥いだりと思い通りに解体できるよ。
『調理』はその【料理人】専門スキル版って感じ。
『調合』みたいにスキルで一発っていうわけじゃなくて、包丁の使い方だったり火加減とかの知識と感覚が良くなる『薬の知識』の方のイメージ。
レシピがなくても組み合わせた結果の味がわかったりするよ。
「よーし、これならみんなを満足させられるね」
更に気合を入れて料理を作る。
「フィルナさーん! 来てくれるって信じてましたよー!」
ある程度出来上がったところでロザリィがリルカを連れて戻ってきたよ。
ていうか、この反応。
「ロザリィ、まさか……」
「どう伝えればいいんだよ……」
スッと視線を逸らすロザリィ。
まぁ、確かにね……。
「えっ? どうしたんですかぁ? あーいい匂い! はやく食べましょうよー!」
「ま、まぁ、ちょっと待って。ミーアが裏庭行ってるから」
「お、おいフィルナ……」
「お姉ちゃんなんてこの匂い嗅いだらすぐ来ますよーっと。んーおいひー!」
リルカはパクッと目の前のお肉を口に入れちゃった。
「確かにいい匂いだけど、ちゃんと待ってなさいよ! この食いしんぼ!」
「あ、お姉ひゃん……んぐっ!! んー!! んー!!」
ミーアの後ろに立ってるサリィを見た瞬間、口の中のお肉を飲み込んじゃって喉に詰まらせちゃったみたい。
「ほら、お水。つまみ食いなんてするからだよ」
「はーっ! はーっ! ちょっとフィルナさん!!」
「な、なにかな?」
「お姉ちゃんの後ろにとんでもない人が見えるんですけど!」
「き、今日の依頼主のサリィだよ」
「フィルナさん!」
「な、なにかな?」
「サーリア王女ですよね!?」
「フィルナ、そのくだりはもうよろしくてよ。サーリア・フォン・アレフですわ。よろしくリルカさん。今はサリィとして接してくださると嬉しいわ」
「は、はい!」
「緊張しなくていいわよリルカ。サリィってば可愛いの! さっきもね……」
「お姉ちゃん!?」
おお、裏庭行ってる間に物凄く打ち解けてる!
なんか遅いとは思ったけど、モフモフしてたのかな?
「ちょっとミーア! 内緒にって言ったでしょう?」
「えー! なになに? 気になる」
「ミーア、何があったんだ?」
「ああっ! フィルナにロザリィも! だ、ダメですわ!」
「あはは、みんな仲良しなんですねー! わたしも混ぜてください!」
「この反応はさすが姉妹だねー。よく似てる」
「うふふ、私も小さい頃はお姉様とこんな感じでしたわ」
「あっ、あたし達が子供っぽいってこと? サリィ?」
「どうかしらね?」
「もー!」
「はいはい、ご飯冷めちゃうよ。みんなで食べよう!」
「そうだった! すっごいよ! 昨日よりおいしーんだよコレ!」
「へぇ、それは楽しみだ」
「期待しますわ」
今回は人生最高の自信作だからね! 美味しい物食べ慣れてるサリィにも大絶賛されたよ。
まだガッツリとはお肉食べられないロザリィ用にも別で作ってたけど、そっちも味が上がってたから喜んでくれて私も満足。
そのサリィはミーアの店で扱ってる普通の服みたいな防具に興味を持ったみたいで食べ終わってからもしばらくはその話題で盛り上がってたよ。
お風呂がなくて湯浴み程度なのはサリィには特に残念だけど、いずれは! ってミーアたちも気合を入れてた。
お店が繁盛すれば二人のお店とお風呂付きの家にするんだ、って言ってたけど、サリィに気に入られたからそう遠くないかもね。なんたって王女様オススメの店になるんだから。
そして、夜も更けてきて客間のベッドに入る。
「フィルナ、明日ギルドへ行ってからですけど……」
「うん。一緒に王都に行くよ」
「アタイの行き先はフィルナに任せてるからな。当然アタイもついていくよ」
「まぁ、元々そっちの方に行くつもりだったしね。私はオルフェ国に向かってるんだ」
王都はここから南西。直接向かうこともできるけど、普通は南の町を中継して行くことになるよ。
「ありがとう。護衛を休ませないといけませんので南から向かうことになりますわ」
「なら予定通りだね。ふふっ」
「王家の馬車がありますから歩くより早く着けるでしょう」
「ん? なんだ、てっきりブラウニーかマロンに乗っていくものかと思ってたぞ」
「そ、そうでしたわ! ロザリィ素晴らしい提案です! 明日の朝話をしておきますわ!」
「え? それっていいの?」
「ええ、私の乗ってきた馬車には直接戻って頂いて、フィルナ達の招待を伝える手紙を持たせることにしますわ」
「ははっ、豪華な郵便だね」
「うふふ、そうですわね」
貴族様のお誘いは断ろうなんて考えてたはずなのに、王家に招待されてそれを受けることになるなんてね。しかも自ら進んで。
「ところでフィルナ」
「ん? なに?」
「あの魔物に囲まれたとき、『次元空間』を出してたよな?」
「あ、気付いた?」
「魔物を入れてたよな?」
「うん。中位種がいたからね。お土産」
「な、なんですの? それは」
「お楽しみ。まぁ、魔法に関しては明日から移動しながら他の事と合わせて話すよ。それとお願いもあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「その話を聞いて、それを公表すべきか判断して欲しいんだ。まだ私とロザリィしか知らない話で誰にも言ってないことなの」
「!! わかりましたわ。もしそれが公表すべきでない話だったとしたら他言しないことをお約束いたします」
「ありがとう」
サリィから正式に招待されることになってその日はそのまま眠ったよ。
翌朝、ギルドに行く前にミーアの店でサリィが色々買い漁ってたのはビックリしたけど。よっぽど気に入ったんだね。
お読みいただきありがとうございます。
次回、騎獣。




