第六十三話 初めてのテイム
まずは森に入って私が先に『テイム』を試すことにしたよ。
本職が目の前にいて先にやろうと思ったのは、まぁ、失敗する気がしなかったから。ロザリィに言われてなんとなくできると思ったの。
だからこそそれで感覚がわかればサリィの援護もしやすいかな、って。
それと、もしかしたら……テイムした魔物を譲渡できるかもしれないなって。
セシリー達をあのギルドマスターから救った時みたいに。
「サリィはモフッとした魔物をテイムしたいんだよね?」
「ええ! 城に犬はいるんですが、私には懐いてくれなくて……私のどこがダメなんでしょう?」
強すぎるところ……だろうなぁ。あんまり気にしてないけど、私も最近は動物が寄り付かないんだよね。
ロザリィと一緒っていうのもあるかも。
「うーん、私も動物は避けられる方だからわかんないなぁ」
濁しておこう。
「そうですか……」
「というか、魔物じゃないとダメなのか?」
「ああ、普通の動物には『テイム』って効かないんだよ」
「そうなのか? じゃあ、魔界から魔物が来なかったら【テイマー】って何を使役するんだ?」
「あれ? そういえば……」
あの記憶が本物の記憶だとしたら魔界ができたのはたぶんあの後……だよね。
「あの……魔界って……」
話についていけないサリィが考察モードに入りかけた私とロザリィを呼び戻してくれた。
「あ、ごめん。詳しくは後で話すよ。ロザリィもいい?」
「ああ、今は関係ない話だからな」
「わ、わかりましたわ」
「とりあえず、狼……フォレストウルフかな、いるからそっちへ行こう」
「私の護衛に気付いたのもそうですが、フィルナさんは探知能力も優れているのですね」
「そうだ、忘れてた。私も愛称で呼んでるんだし、フィルナでいいよ」
「アタイもだ」
「わかりました。フィルナにロザリィ。改めてよろしくお願いしますわ」
「うん、よろしく。あと、探知のことも後でまとめて話すね」
「はい。楽しみにしておきます」
一旦話を打ち切って狼の魔物の方へ向かう。
さすがに気配を絶っていかないと他の魔物を刺激したりして面倒だからね。
サリィもその辺はわかってるみたい。
「いた……あそこだよ」
小さく抑えた声で二人を止める。
「アタイらはここで見てるよ」
「うん。じゃ、行ってくる」
『無音歩法』だけ使って狼の目の前に飛び出して、相手が気付くと同時に右手で頭を上から抑え込む。
茶毛の狼。予想通りフォレストウルフだね。
「グルルルル……」
「いい子にしててね」
優しく声を掛けて、それに反応するように抵抗が一瞬弱くなった瞬間に『テイム』を発動。
ちゃんと魔法が発動したのを感じる。
「クゥーン」
甘えたような声。
「うん、成功だね。よしよし」
手の力を緩めて撫でてあげる。
「オン!」
「すごいな。これがテイムか」
「一瞬すぎて何が起こったのか全然わかりませんでしたわ……」
「この状態でサリィが『テイム』したら譲渡できないかな?」
そう提案した時。
「ワォンオン!」
「ん? 名前が欲しいの?」
「わかるのか?」
「なんとなくね。そうだなぁ……お前の名前は「ウル」! どう?」
そう告げた瞬間、「ウル」の体が輝き出した。
『命名』・「ウル」
「えっ?」
「なんだ?」
「な、なんですの?」
勝手に魔法が発動した……? そもそもそんな魔法知らない……。
ウルの放つ光は更に強まり、その中心にいるウルがどんどん大きくなっているのを『空間把握』で感じてた。
そして数秒後、光が収まると、全く違う姿のウルがそこにいた。
二回り以上大きくて、毛並みも銀色に輝く美しいものになったウル。
「神獣フェンリル……」
『鑑定眼』ではそう見えてる。
「な、なんですって!?」
「なんだその神獣って?」
「私も本でしか見たことないよ。それも実在するかも怪しいって伝説の生き物」
あのバハムートも存在がわかってるだけでそれと同じ扱い。だからこそ余計に他の神獣もいるんじゃないかって期待されてた。
「こ、こんな相手、私にテイムできるはずがありませんわ!」
そ、そうだった。私もこんなことになるとは思ってなかったよ。
それにさっきの『命名』、『テイム』以上の強制力を感じた。たぶんもう『解放』もできないはず。
《その通り。我が主はただ一人》
「わ、また喋った!」
「え? アタイには相変わらず聞こえないぞ」
「私もですわ。何か言っているのですか?」
【ビーストテイマー】のサリィでもダメなんだ。じゃあ私にだけ聞こえてるのは職業とは関係ないってことかな。
「正直、想定外だけどよろしくね、ウル。私はフィルナだよ」
なんだかそうしないといけない気がして被り物を取って話しかけた。
「う、美しいですわ……」
《名付け感謝する。それに主の魔力のおかげで我は顕現することができた》
ということはさっきのフォレストウルフとは別物になっちゃったってことなのかな。
「そういうことかぁ。たぶん加護のおかげだね。でも、どうしようか……フェンリルなんて連れ歩いてたら街に入れないんじゃないかな」
「それは……確かにそうかもしれませんわ」
《ならば我は主の影に潜もう。呼ばれればいつでも出てくるからな》
そんなことできるんだ。助かるよ。
「わかった。ところで……フェンリルって食事必要?」
《空腹になるということはないが貰えると嬉しい》
「なるほど。じゃあ、人目がないときは呼ぶことにするよ」
《ありがたい。では》
そう言ってウルは私の影の中に消えていった。
「き、消えた?」
「私の影に隠れてるって」
「全く……フィルナはとんでもないことをするな」
「今のは私の意思じゃないんだけどね」
そう言いながら被り物を被り直す。
「神獣を従えるなんて……とんでもない瞬間に立ち会ってしまいましたわ」
「はは。それよりサリィのテイムの方やってみようか。今の光で森の魔物が集まってきてるから、乱戦なら上手いこと生き残りが出るんじゃない?」
「なるほど。ならアタイらはサリィを守ればいいんだな」
「うーんと、そうしつつ相手に気付かれないようにサリィの剣を止める、ってできそう?」
「えっ? どうすればいいんですの?」
「サリィにはいつも通り全力で斬りかかってもらって、私とロザリィでそれが致命打にならないように魔物側で受け止めるの」
さっきの感覚だと、魔物に支援するのは意味が無さそうだったから、もう正攻法を無理矢理決めるしかない気がする。
サリィのほうが格上なのは間違いないから、なんとか魔物を生き残らせればテイムできるはず。
「なるほど……難しいがやってみよう。狼以外は仕留めていいんだよな?」
「うん。そんなにいっぱいテイムしないでしょ?」
「ええ、一匹でもテイムできれば十分ですわ」
「よーし、そろそろ来るよ。準備はいい?」
「ああ」「ええ」
周囲がガサガサと音を立て始める。
そして、狼のほかにも猪、猿、大兎、巨大鼠と森の魔物が大集合。
私達を囲むと一斉に飛びかかってきた。
私とロザリィはかなり手加減して狼以外の魔物の相手をして、サリィに狼だけに集中させないようにする。
その上で、サリィの剣の軌道を僅かに逸らす。魔物に気付かれない動きで。
そして、三体のフォレストウルフが動きを止めたところで一気に他の魔物を殲滅する。
「サリィ! 今のうちに!」
「はいっ!」
サリィが狼に駆け寄り『テイム』を発動する。
私の時とは違って怪我をしているからか甘えたような様子はなかったけど、三体中、二体のテイムに成功してた。
もう一体は残念ながら死んじゃってたみたい。
「やりました! 成功です!」
「よかったねー! それじゃ、この子達は回復、っと」
テイムした二体に魔法を掛けると、傷が治った途端にサリィに甘え出したよ。
「うふふ、くすぐったいですわ!」
うわ、王女様の顔がよだれでベロベロだ。
でも、サリィは嬉しそうだね。念願のモフモフだよ。
「さすがにそれで帰らせると怒られそうだから……『浄化』! ついでにその子達もね」
「神聖魔法まで……本当にすごいですわね」
「サリィも名前つけてあげなよ」
「むむ……名前……ですか……。オスとメスのようですわね……。ブラウニーとマロンにしましょう!」
「ワォン!」「クゥーン!」
「嬉しそうだな。それって何か由来とかあるのか? フィルナのフェンリルは安直だったからわかったが」
「むー! 私は気に入ってるの! サリィなんてどっちも食べ物だよ?」
「うぐっ! ご、ご存知でしたのね」
「ははは! なんだ、そうだったのか。はははは」
「わ、笑わないでくださいまし!」
「ぷっ。モフモフしたいって言ってテイムして付けた名前が食べ物……改めて考えたらおっかしーね」
「もうっ! フィルナまで! でも、なんだか嬉しいですわ」
「そうか? 笑われて喜ぶなんてサリィは変わってるな」
「こらっ、ロザリィ!」
「いえ、確かにそうですわね。うふふ。こんなに楽しく笑われたのは初めてかもしれませんわ」
「そ、そう? ならよかった……のかな?」
「ええ。改めて、感謝いたしますわ。フィルナ、ロザリィ。ありがとう」
「どういたしまして。それじゃ、戻ろっか」
「そうだな。暗くなる前にミーアの家に行こう」
「ミーア?」
「ああ、私達が昨日泊まった家の人だよ。今夜も泊まるなら来てって言われてるんだ」
「そこに私もお邪魔できませんでしょうか?」
「いやいや、市民の家に王女様が泊まるのはさすがに……」
「しかもブラウニーとマロンも連れてはな」
「「クゥーン……」」
あ、寂しそう。
「ですが……お二人ともっと仲良くなりたいんです」
「うーん……まぁ、聞いてみるだけなら」
「それって断れないんじゃないか?」
「でしたら……私のことはただのサリィとして……」
「無茶言うなあサリィは。ははっ、どうなってももう知らないからね!」
「腰を抜かすかもしれないな」
そんなことを話しながら森を出ると、護衛さん達が待ち構えてたからブラウニーとマロンをお披露目したよ。
なんか異様な喜びっぷりだったけど、実際深刻な問題だったんだろうな。
そんな状況にいたサリィが私達と仲良くなりたいって言ってくれたこと自体はとても嬉しかった。
問題はミーアたちがどうなるかだね。
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次回、招待。




