第六十二話 依頼主の正体
「それじゃ、私と……って、ロザリィやりたそうだね」
「はは、悪いね」
「別にいいよ。でも、手を出しちゃダメだからね」
「ああ、わかってる。動きを見るだけだからな」
「わかりましたわ。よろしくお願いします」
サリィの剣の腕を確かめる為に、ロザリィと模擬戦をしてもらうことにしたよ。
魔物と戦うと倒しちゃってテイムできないって話だからかなりのものだと思う。
少し私から離れると、ロザリィはいつものロッドを、サリィは片手剣を構える。
サリィの剣は鍔の部分に豪華な装飾がしてあって、どう見ても一般人や冒険者が持つそれとは趣が違った。
「サリィの方は遠慮なくやっちゃっていいからね。それじゃ、始め!」
「はっ!」
私の合図でサリィが飛び込む。
「おっ」
早い!
ロザリィも思わず声が出てるね。
みんな驚いたけど、サリィだけはあっさり受け止められたのが意外そうな顔をしてる。
でも、すぐに表情が締まって次に移ったあたり真剣なのが伝わってくるよ。
ロザリィのロッドも金属だから受け止めるたびに甲高い衝突音が響く。
「思った以上かも」
予想以上にサリィは素早くて、剣の威力も十分。
ロザリィはもっと上の次元にいるけど、これなら確かに並の魔物ならあっさり倒しちゃうのもわかる。
それ以上となると危なくなるし、身内に止められちゃうんだろうね。
実際街を出てから何人かついてきて離れて様子を伺ってるよ。
口には出してないけど、ロザリィも多分気付いてるよね。
それにこの型や太刀筋……もしかして……。
「はい、終了! もういいよ!」
実力はわかったからやめさせる。
「はぁっ、はぁっ……あ、ありがとうございました」
「いや、こちらこそだ。楽しかった」
あ、ロザリィ目的忘れてたね。
それはそうと、どう援護しようかな。
「とりあえず『ヒールⅠ』で回復して、と」
「へっ? あ、貴女、先程は私と模擬戦しようと……いえ、ありがとうございます」
気になったんだろうけど、聞かずに引いた。そういうところもしっかりしてるね。
「で、どうする? フィルナは何かいい方法思いついたか?」
「うーん、最初は私が魔物を回復すればいいかなって思ってたんだけど、あれだとそもそも魔物が一撃で倒せちゃうよね」
「そうですわ……かといって硬い部位を狙うようなやり方では認めてもらえませんし、そもそもそれではこちらがやられてしまいます」
「支援魔法も考えたんだけど、サリィに弱体化を掛けるのは……アレだよね、さすがに捕まりたくないしね」
そう言ってチラリと後方に視線を移す。
「あ……お気付きでしたのね……」
「サリィの剣術って、この大陸で主流の騎士剣術だよね?」
サリィのそれは私がアカツキに教わったような冒険者特有の急所を突くものじゃない、プロテアの兵士さん達の模擬戦で見た相手の隙を突く型とそっくりだったよ。
これは対人を想定した有効打を当てて相手を無力化する剣術だね。国ごとに多少の違いはあるだろうけど。
それをあのレベルで……となると、教えてるのは騎士団団長クラスで、そんな人から教われる立場ってかなり限られるよ。
「ええ。もうほとんどわかっていらっしゃるようですので隠しても仕方ありませんわね。私の本当の名前はサーリア・フォン・アレフ。この国の第二王女ですわ」
やっぱり。今のやりとりだけで私が察してることに気付くのも凄いけどね。
「なるほど、ギルドマスターにまで話がいくわけだよ」
「おそらく、お二人が私の顔を知らない他国の女性だから依頼したのだと思いますわ」
「そういうことか」
それとあの受付のお婆さんは相手の技量を見抜いてそうだったしね。
「やっぱり下手なことはできないね。無難に魔物に支援とかかな」
「! 今の話を聞いても手伝って……くださるのですか?」
「ん? そういう依頼だろ? あとはどうこなすかだけだ」
「ありがとう……ございます。それに言葉遣いも……」
「あ、やっぱり直した方がいいかな? 正体聞いちゃったし」
「いえ、是非そのままでお願いしますわ。こう見えて堅苦しいのは苦手ですの」
「あはは、王女様がこんなところにいるくらいだもんね」
「ここに来るのも視察の名目でやっと出られたんですのよ! ですが、付いてきてくれている護衛の皆様は理解して頂いておりますので安心してくださいまし」
「まぁ、護衛といってもこれだけ離れて気付かれる連中じゃ、手伝いもできないよな」
第二とはいえ王女様だし、もっと取り巻きがいてもおかしくないんだけど……その辺は触れない方がいいのかな?
「サリィの方が強そうだもんね」
「仰る通りですわ。ですのでここに滞在している間に頼れる方に出会えればと思っておりましたの」
「『テイム』した経験はないから強気に「任せて!」とは言えないけどやれるだけやってみるよ」
「ん? ならやってみればいいじゃないか」
「は?」
「あ、そっか。自分がテイムするって考えはなかったよ」
「はぁぁああ!?」
とても王女様とは思えない声を上げるサリィ。
「それじゃ、さっさと試してみようか」
「そうだね。森に入ろう」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ」
「ちょ?」
「ちょっとお待ちなさいな!!」
「ど、どうしたの? サリィ」
「どうしたじゃありませんわ! 貴女、先程『ヒール』を使っていたでしょう? テイムって……どういうことですの!?」
「さすがにもうスルーしてくれないか……まぁ別にこっちも隠してるわけじゃないんだけど。私は【すっぴん】なんだ。だから『ヒール』も『テイム』も使えるんだよ」
「なるほど、【すっぴん】なら確かに……って、ええ!? 貴女、体は辛くないんですの?」
おお。真っ先に体の心配してくれた人は初めてだよ。
「うん。この通り」
ピョンと飛び跳ねて見せる。
「……私の知る【すっぴん】とは違うんですのね」
「もしかして身内に【すっぴん】が……いるの?」
「私の弟が……つい先日授かったのが【すっぴん】でしたわ……」
「それって……今サリィが『テイム』にこだわってるのにも関係ある?」
「鋭いんですのね。……そうですわ。王族の職業は大々的に儀式が行われて公開されてしまうのはご存知でしょうか?」
「そういう国もあるね。ここもそうなんだ?」
「つまり……どういうことなんだ?」
「王族が職業を活かせない……って思われたら評価が下がっちゃうんじゃない?」
「まさにその通りです。私のせいで弟がより悪く言われるのは申し訳なくて……」
「なるほど。それに加えてさっき言ってた理由か。あれも嘘を言ってるようには見えなかったしな」
「ええ。この機会に、と思いましたら全然上手くいかず……これでは悪評を払うどころかますます……」
「いや、あれだけ動けて悪評なんてあるのか?」
「【ビーストテイマー】としたら関係ないからね。そこを評価しない人もいるんだよ。恥ずかしいことにね」
「特に王族を下ろしたい人間にとっては恰好の的になるんですわ。できればこの後……いえ……それはお門違いですわね」
「うーん……確かに私には関係ないことだけどさ、同じ【すっぴん】が困ってるんだったら力になるよ。いいよね? ロザリィ」
「ああ、アタイは構わないよ」
「ありがとうございます……!」
「まだお礼を言われるようなことはしてないけどね。さぁ、森に行くよ。まずは私も『テイム』を試して感覚を知ってみようと思う」
「わかりましたわ」
ちょっと意外な話もあったけど、ひとまず森に入ることにしたよ。
お読みいただきありがとうございます。
次回、初めてのテイム。




