第六十話 奇妙な依頼
「「できたー!」」
ミーアとリルカの姉妹が声を上げる。
ロザリィの脛当てを夜通し二人がかりで作ってくれてたの。
私達もテンション上がってずっと一緒にそれを見てたよ。
【細工師】のミーアと【裁縫士】のリルカの組み合わせはこの防具作りにおいては凄い相乗効果を生んでるみたい。
みるみるうちにサンダードラゴンの革が加工されていくのが見ていて楽しくて仕方なかった。
「二人ともお疲れ様。ロザリィ、さっそく付けてみてよ」
「ああ、素晴らしい出来だな」
「いえいえー。素材に負けないように頑張りました!」
ロザリィが可愛い服を着てるのがわかってるから、それに合わせても違和感がないようにデザインも凝ってる。
主にリルカのアイデアが活かされてるよ。
「あ、そうそう。お姉ちゃんから話を聞いてそれに合いそうな靴も持って来たんですよ。さすがにその靴じゃあ……」
ロザリィが履いてた靴は私の予備。サイズが微妙に合ってないはずなんだよね。
この後買いに行くつもりだったけど、リルカはそれも用意してくれてた。
リルカの店には靴は置いてなかった気がするんだけど……。
「よく見てるなぁ」
リルカが取り出したのは柔らかい革のロングブーツ。
それを履いた上から脛当てが覆って綺麗に固定された。
「すごいな。ピッタリだ。足を動かすのにも違和感がない」
膝を上げて、足先をクイクイと動かすロザリィ。
「試着してるときに見えたんですけど、お姉さんの足は靴擦れもしなそうな感じだったんで、激しく動いても大丈夫なはずです」
「リルカの見る目は間違いないですよ。ちなみにその靴、踵がめちゃくちゃ硬いんで、そこで人は蹴らないでくださいねー」
確かにちょっと踵が高めな感じだけど、そこ、そんなに硬いんだ。
というか、これも二人で作ったんだね。
「わかった。気をつけるよ」
ニヤリと笑うロザリィ。フリじゃないからね!
「それで、代金はいくらくらい?」
「とんでもない素材を使わせてもらったので、タダでいいですよー……って、言いたいところですけど、納得してくれませんよね?」
「そうだな。さすがにそれは気持ちが悪い」
買い物を知らなかったロザリィでもそういう感覚あるんだね。実はちょっと意外だったよ。
「それじゃ、普段の特注料金の一万ギルでどうですか?」
「うん。それならこっちも気持ちよく払えるよ。それと、リルカにも靴代ね」
「ええっ!? いや、こっちにも金貨は貰いすぎですって!」
「嘘はダメだよ。あの靴、かなりいい素材使ってるよね?」
踵もだけど、革もね。相場は合わせて一万ギル。
加工代も合わせたらもっといってもおかしくないはず。
「参りました。さすが私の見込んだ人。見る目も一流ってことですね」
ロザリィの服を選ぶやりとりで何を見込まれたのかよくわかんないけど。
「あたし達も職人ですからね。作った物に価値を見出してもらえるのは素直に嬉しいです」
『交渉術』のおかげかちゃんと代金を受け取ってもらえたよ。
「それじゃあ……」
「「「「寝ますか」」」」
「「「「あははは!」」」」
笑い声が響いた後、私達は客間、ミーアたちは寝室に飛び込んで昼過ぎまで眠ってた。
「いやー一仕事終えた後の睡眠は最高ですね」
「こんな気持ちいい目覚めは久しぶりです」
ミーアもリルカもすっきりした顔をしてるよ。
「私もだよ。なんか達成感があるよね」
「アタイの為にありがとうな。アタイも楽しかったよ」
「どういたしまして。あ、整備は普通の防具屋でできますから、まぁ、そうそう傷まない素材ですけど、何かおかしいと感じたら整備してください」
「ああ、わかった」
「服の方はさすがに買い直してくださいね」
「そんなこと言って、そっちもかなり丈夫そうだけど?」
私の王都で買った服も全然傷まないけど、それ以上に保ちそうだもん。
「10年、20年着れる服を目指してますからね。服屋としてはどうなのって話ですけど」
「どういうことだ?」
まぁ、ロザリィにはわかんないよね。
「そんな何年も着れたら次を買ってもらえないからね」
「なるほど、それが商売ってことか。リルカの作る服には新しい物が欲しくなる魅力があると思うけどな」
「えへへ。そう言って頂けると今後の自信になります」
「それで、お二人はこの後どうされる予定ですか?」
「とりあえずギルドかな。依頼見てからどうするか決めようと思ってるよ」
「もし今夜も泊まられるようならうちに来てください」
「そうだね。その時はまたお邪魔するよ」
「その時はわたしもフィルナさんの料理食べに来るんで、呼んでくださいね!」
「もう、リルカったら。ごめんなさいね。かくいうあたしもあの料理はまた食べたいところですけど」
「おいおい、まだどうするか決めてないんだぞ」
「まぁ、泊まることになったら料理くらいはするよ。でも、来ないかもしれないからね?」
「わかってますよ。では、お気をつけて行ってらっしゃい!」
「行ってらっしゃいです!」
はは、見送り方に願望が込められてるね。
「それじゃ、ありがとね!」
「行ってくる!」
新しい装備も増えたロザリィと次なる一歩を踏み出したよ。
この街はギルドも北側、霊峰寄りにある。
何かあったらすぐ動員できるように、だね。
でも、私達はここから南の方に進むつもり。南に物流の中継拠点になる町があって、そこから西にオルフェ国を目指すの。
「護衛依頼あるかなぁ」
「物流はあるんだろ?」
国境の説明をしたときに物流についても話すことになったんだよね。
他人のものを別の他人が運ぶっていうことをなかなか理解してくれなかったから大変だったよ。
食事するようになってからは早かったけどね。
「うん。あとはタイミングだね」
「まぁ、とにかく入って見てみようか」
なんだか久しぶりの普通のギルドの雰囲気。
冒険者や依頼人がいて、入ると視線が一瞬こちらを向く感覚。
バルゥーム以降全然なかったから懐かしさすら覚えたよ。
まぁ、今回はロザリィがいるから少しだけその時間が長かったかな。
「さーて、クエストは……」
「……見事に討伐ばかりだな」
「……だね。カウンターでも聞いてみようか」
時期外したかな。
そう思いながらカウンターの空いてる職員さんの前に向かう。
「いらっしゃい。御用件は何かな?」
珍しく年配の女性が受付をしてる。
「これから南の方に行くんだけど、ついでに受けられるような護衛クエストとか入ってないかな?」
「あいにく荷物は先日出たばかりでね。ついでにっていうのはないねぇ」
「やっぱりそうかぁ」
「ん? ついでじゃないならあるのか?」
「まぁね。ちょっとよくわからない依頼があるんだよ」
「よくわからない? どんな依頼?」
「興味あるのかい? なんでも魔物の護衛らしいんだけどね、詳細を話してくれないんだよ」
「魔物の護衛? そんなことして何になるんだ?」
「それがさっぱりでね。ボードに出すべきか判断に困っててね」
「もしかして【テイマー】さんかな?」
「それならそうと言ってくれればこっちも受けやすいんだけど……依頼主は冒険者でもないから職業を聞くわけにもいかなくてね」
「なんだか妙な依頼だな。気にはなるが……フィルナ、どうする?」
「依頼を受けてくれた相手には話すと言ってるから、受けてくれるなら助かるよ。一応この件はギルドマスターにも報告はしてあるから、依頼に問題があった場合なら違約金はないけど、どうするね?」
「うん、私も気になってきたし、受けるよ」
「そうかい? それじゃあライセンスを出してくれ」
「はい。よろしく」
「ん? なんだい、Aランクだったのか。なら本格的に頼らせてもらうよ。できればこのギルドに報告してくれるとありがたい」
「うん、わかった。依頼が遠出じゃなければここに来るよ」
「ああ、それで構わないよ。依頼主は中央広場で待つと言っていた。赤いローブの女で名前はサリィ。この街じゃ目立つ方だからすぐわかると思うよ」
「よし、行ってみよう」
「ああ、どんなやつなのか楽しみだ」
「ん? そっちのお嬢さんはいいのかい?」
「あ、ロザリィは冒険者登録してないんだ」
「あれま、もったいない」
ん? もしかしてロザリィの実力を見抜いてる?
何気にすごいお婆さんなのかも。
私の受付だけしてロザリィと二人、中央広場に向かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、赤いローブの依頼主。




