第五十九話 ロザリィの装備
「今日はロザリィの装備を見に行くよ!」
「アタイに装備なんていらないと思うけどなぁ」
「そんなこと言わずに、ね」
「しょうがないなぁ」
翌日、渋るロザリィを宿から引っ張って防具屋へ。
まぁ、私もあんまり必要ないとは思ってるんだけどね。
もしかしたら掘り出し物とか何か気に入った物が見つかるかもしれないし!
そして、目的の防具屋の前に着いた。
「あれ? 看板は出てるけど、ここ、本当に防具屋なんだよな?」
「うん。実は昨日リルカにオススメの防具屋を聞いておいたんだ。その白いシャツだけでもシンプルでいいと思うけど、もうちょっと足せたらなって」
外から見ただけで普通の防具屋と違うことにロザリィも気付いたみたい。
ゴツゴツした盾とか鎧とかはないお店なんだって。
「へぇ。入ってみるか」
ロザリィも興味が湧いたみたい。
そして中に入って真っ先に浮かんだ感想。
「服屋さんみたい」
「だな」
「あ、いらっしゃいませー!」
「うわっ、リルカ! ……じゃないね、ごめんなさい」
よく似てたからちょっとびっくりしちゃった。リルカをそのまま成長させた感じの女の人。
「ん? 貴女達リルカのお知り合い?」
「昨日リルカの店で買い物してここを勧められたんだよ」
「あーなるほど。あたしミーア。リルカの姉よ」
「どおりで似てるわけだ」
「姉妹で店を持ってるなんてすごいね」
「あたしは【細工師】だからリルカ頼りなとこあるけどね」
「そうなの?」
「まぁ、内装はあたしがやってるし、二人で二つの店をやってるっていう方が正確かな?」
「一つの店じゃダメなのか?」
「需要が違うからね。それは最終目標」
「なるほどね。今は二人のことを知ってもらおうってことか」
「そ。だから寄ってくれたお客さんにはお互いの店を教えるようにしてるんだー」
「そういうことだったのか。それで、ここは防具屋でいいんだよな?」
「そうですよー。なるべく普通の服に近くてそれなりに防御性能もあるものを提供してます! あ、もちろん普通の防具もありますよ!」
「へぇ。じゃあさ、ロザリィのこのシャツに合う物ないかな?」
「あ! これリルカイチ押しのやつですね! これなら……こういう黒いベストとかどうでしょう?」
「いい感じ! ロザリィ着てみてよ」
今回は脱ぐ必要がないからその場で着る。
「どうだ? っていうか、これ結構丈夫そうだな」
「おお、お似合いです! いい素材使ってますから。魔物の爪とか牙とか通さないですよ!」
「それはすごいね。デザインもいいし、それにする?」
「ああ。アタイも気に入ったよ」
「ありがとうございますー! あとは……膝下ですかねぇ」
足首まではレギンスがあるけど、ロザリィは結構蹴りもするから確かに何かあった方がいいかな。
「何かいい物ある?」
「そうですねぇ……あえて普通の脛当てとか」
「脛当て? 見せてくれ」
奥の方にはちゃんと普通の防具もあったよ。
その中の脛当ての前に移動する。
「こういうの、ある意味武器にもなりそうだね」
「だけど、むしろ蹴りに耐えられなそうだな」
「そういうことなら耐久性重視のこれなんてどうですか?」
ミーアが取り出したのは革製の脛当て。
「うーん、デザインが合わないかなぁ」
「むむ、確かに……でもこれ以上の素材の物は……はっ!」
「ん?」
「お二人は冒険者ですよね!? 何かいい素材持ってませんか? そこから作りますよ!」
「まぁ、私は確かに冒険者だけど……素材……んー……」
「どういうのが脛当てに向いてるんだ?」
「そうですねー、さっきみたいなやつなら皮ならなんでも! 硬い皮、柔らかい皮それぞれ長所がありますからね」
「それなら……あ」
「ど、どうしました?」
「いや、オーガの皮でもいいのかなって思ったんだけど、さすがに大きすぎるなって」
「そ、それはそのままってことですか? 勘弁してくださいよ、ここが壊れちゃいます」
「だ、だよね。ちゃんとわかってるよ」
危ない、考えなしに出すところだった。
「フィルナ、アレはないのか?」
「アレ……? あー! あるよ!」
魔法鞄から黒い革を取り出す。
「こ、これは……一体何の革ですか!? 絶対ヤバいやつですよね!?」
「えーっと、サ、サンダードラゴン?」
タイクーンでのモンパレのとき、私の『裁きの雷』で開いた『特異点』で出てきた、あの黒いドラゴンだよ。
大量のお肉と一緒に持たされたんだけど、使い道がなかったんだよね。
「あわわ……まさかドラゴンの素材を扱える日が来るなんて……」
「どう? コレで作れる?」
「ももも、もちろんですぅ! 今のお姉さんに合わせて作らせていただきます!」
「あ、そっか。デザインもこれからなら調整きくもんね」
「ふふ、楽しみだな」
「それじゃあ、一晩待ってもらえますか? リルカとお店終わってから相談しながら作りますので」
「わかった。それじゃ、宿に戻って延泊できないか聞いてみよう」
「あ、それなら奥の客間を使ってください。こっちの都合で待ってもらうんですし、こんないい素材使わせてもらえるお礼です」
「おいおい、アタイらは作ってもらう側だぞ。いいのか?」
「一晩って、寝ないで作業するの? そこまでしてもらってちょっと申し訳ないんだけど」
「明日はお店閉めて、終わってからガッツリ寝ることにしますからお気になさらず! というか、こんなのテンション上がって寝られませんよ!」
「はは、いつかのロザリィみたい」
「う……否定できないな。わかった、世話になるよ」
「はい、ごゆっくりどうぞ!」
その日の夜、リルカもやってきて二人で熱く語り始めたよ。
お世話になるせめてものお返しに晩ご飯は私が振舞ってあげた。
その時ロザリィにも少しだけお肉を食べてみてもらったの。
あの嬉しそうな顔、忘れられそうにないよ。
「フィルナ、なんだかアタイ寝られそうにない。あっちに参加してきてもいいかな?」
「そう言うと思った。研究者の血が疼くって感じ?」
「そんなところだ。新しい物を生み出す瞬間。それが見たい」
「ふふっ、もちろんいいよ。というか私も同じ気持ち。だから一緒に見届けよう」
ミーアとリルカの話し合いに私達も参加して、希望を伝えたり、二人の提案を聞いたりして、最後は明け方にそれが出来上がる時を四人で迎えたよ。
お読みいただきありがとうございます。
次回、奇妙な依頼。




