第六話 フィルナの自然魔法
冒険者ギルドで薬草十束分の報酬500ギルを受け取った。
500ギル──銅貨で50枚。
「状態も良いですし、今後も期待させてもらいますね! フィルナさん」
「はは、今回は行ったことがある場所だったからですよ」
「いえいえ、今はただでさえ数が必要ですし、その上質も高いのは本当にありがたいんです」
「そうなんですね。わかりました。薬草採取は続けるつもりなんで頑張ります」
「はい、お願いします。ところで、フィルナさんはマチルダさんのところで教わってるんですよね?」
「マチルダ……あ、オババのことか。そうですよ」
めったに名前で呼ぶ人がいないからつい忘れちゃう。
「じゃあ……フィルナさんはポーション調合ってできます?」
「いえ、まだ練習中ってところです。安定したものはまだできません」
オババのスキル『薬の知識』で見てもらってるけど毎回品質が変わっちゃうんだよね。
「そうですか……」
「どうかしたんですか?」
「採取した薬草の調合もお願いできないかと思いまして。前回のモンパレまではマチルダさんにお願いしていたみたいなんですが、さすがに高齢でしょう? ギルドまで出向いて頂くのも大変かと……前回も割と無茶をさせてしまったみたいで」
「確かにオババが外に出てるの見たことないなぁ。調合は鮮度が命だし、持ち出してっていうのも難しいですよね?」
私の魔法鞄に入れて持って行けばその問題はクリアできるけど……。
「はい……それだとマチルダさんにギルドでの処理なく依頼したことになってしまうので……ギルド的には許可したいんですが、他の薬師さん達への体裁もあるので……」
「その他の薬師に依頼することはできないんですか?」
「ギルドにある設備はマチルダさんの私物なんですよ。だからフィルナさんなら、と思ったんですが」
「オババなら貸し出すのも許してくれると思うけど……そういうことなら私がやれるようになってみせます!」
「ふふっ、期待してますよ。でも、難しいようなら早めに言ってください。大事なのはポーションを用意することなので」
「わかりました」
受付のお姉さんに挨拶してオババのところに向かった。
「なるほどねぇ。確かにフィルナができるようになってくれるのがあたしも嬉しいけどね、貸し出すのは問題ない。今度ギルドに行ったらそう伝えておくれ」
「わかった」
今日の話を伝えると、オババはすぐに設備の貸し出しを認めた。
さすがだよね。私もこんな懐の大きな人になりたい。
……できれば見た目も。
それからオババに教わりながら調合の練習をしてた。
調合はスキルがあれば一瞬だけど、それはオババですら習得してない【薬師】のスキルだしね。それがない以上は手作業でやるしかないし、もしかしたらこれでいつか習得できるかもしれないもんね。
「まだ低品質のができてるね。取り出した薬草を入れる、煮込む、火を止める、全てタイミングが大事だよ。向こうの設備はポーション数十本分を一気に作れるんだ。一回の失敗も許されないからせめて中以上の品質を常に出せるようにならないと許可は出せないよ」
「う、頑張る」
五段階の品質で最低はもう出なくなったけど、まだまだ低品質出ちゃうなぁ。最高を出したこともまだないし……練習あるのみね。
「まだ練習中なんだ、緊張する必要はないよ。良いものができたときの感覚を掴むんだね」
「ん!」
「それと……まぁ、ちょっと休憩してお茶でも飲みながら話そうかね」
「何?」
オババは黙ってお茶を用意してくれた。
なんだろう? 薬草に『大地の息吹』を掛けたことかなぁ?
「フィルナ、お前は自然魔法が使えることは誰にも言うんじゃないよ」
「え? な、なんで?」
「アンタは貴族にとっ捕まってひたすら契約させられたいのかい?」
「あっ! それは嫌だなぁ」
「アンタみたいな【すっぴん】が自然魔法を使えるとわかると本来払うはずの高い金を払わずに契約しようとするやつが出てくるだろうよ」
「抵抗できないもんね」
「それがわかってるならいいさ。【すっぴん】がどうなるかはあたしにもわからない。フィルナが言ってた通りレベルが上げやすいのならもしかしたら強くなれるかもしれん。そうなるまで自然魔法のことは黙っておくんだ。いいね?」
「わかった。気をつけるよ」
「それにしても……薬草に自然魔法を掛けるなんてよく思いついたもんだよ」
「使えるのがそれだけだったしね。何に使うかしか考えてなかったよ」
「なるほど……効果はあたしも気になるから明日同じところに見に行ってくれないかい?」
「うん、いいよ」
「そんなにすぐに変化があるわけじゃないだろうけどね。少しでも変わったことがあったら教えておくれ」
「そう言われても……普通がどうなのか知らないよ?」
初めてでいきなり試しちゃったしね。
「なに、普通は一日じゃ何も変わらない。だから今日最後に見た状態と何か変わってるかどうかにだけ気をつけて見ればいい」
「わかった!」
その日の夜はオババに言われたこともあってソワソワしてなかなか寝付けなかった。
「私の初めての魔法……どんな効果が出るんだろ……」
オババが言うには薬草に自然魔法を掛けるなんて誰も試したことがないみたいだけど……。
翌日、同じ薬草の群生地に向かった私の前にあったのは信じられない光景だった。
「なにこれ…………昨日と同じ!?」
そこには昨日採取する前と同じだけの薬草が生えていたの。
「これ……ちゃんとポーションが作れるか確認した方がいいよね」
生えたばかりの薬草の質がどうかなんてオババに見てもらわないとわからないし。
私にも『薬の知識』があったらなぁ。
とりあえず昨日と同じだけ採取してまた『大地の息吹』を掛けた後、ギルドに寄らずにオババのところに持って行った。
「まさかもう生えてるなんてねぇ。それに質も良さそうだよ」
さすがのオババも驚いたみたい。私も信じられなかったもん。
スキルで見てもらったら薬草自体の質も良くなってたみたい。
「ホント!? じゃあギルドに持って行ってくる!」
「ああ。ただし、練習はうちに保管してある薬草でやりな。これだと薬草の質だけでいいポーションが出来ちまうから腕が上がったのかわからないからねぇ」
「わかった!」
薬草の報酬を貰うついでに昨日のオババの設備貸し出しの話も伝えてきた。
それでも私のことを優先で待ってくれるって!
持ち主の弟子だからってことだろうけど、気合い入るね!
そして毎日同じ群生地に通い続けて十日後、遂に私のレベルが上がった!
お読みいただきありがとうございます。
次回、レベルアップ。




