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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第二章 帰郷
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第五十三話 入山に向けて

「よかね? パンチっちゆーたばってん、素手なら蹴りでも頭突きでもなんでもよか。おいの手足じゃなかとこに当てられたらよかよ」


 バハムル村に着いたと思ったらよくわかんない入村料を求められたよ。


 ていうか、殴られるのかと思ったら殴る方みたい。


「え? 魔法使いとかだったらどうするの?」


「威力は関係なか。そんくらいできんとバハムートさん行ったっちゃ死ぬだけばい」


「なるほど、動きを見るということだな?」


「そげん。ばってんおいも守るけんね。おいの手足に防がれとるようじゃダメばい」



「わかった。後で文句言わないで……ねっ!」


 私が言い終わるのと同時にロザリィと左右に分かれて飛び込む。


 そして()()()()()()()()私の左拳とロザリィの右拳が交差する瞬間。



「ぎゃっ!」



 隠れていたその人の姿が露わになる。

 私達の拳はその人の顔の両頬に直撃してたよ。

 さっきまで話していた同じ姿の人はそのまま立ってる。


「ちょっとロザリィ! 同じとこやったら危ないよ!」


「ん? 効率よくダメージを与えられる、こんびねーしょん? を見せるんじゃないのか?」


「違うよ、当てるだけ!」


 私はかなり軽くやったはずだったのに、ロザリィが殴ってきた力が強くて完全に間に挟まった男の人は泣いちゃってたよ。


「なんだ、それならそうと言え」


「いや、言ってたから」


「こいつの言葉はわかりにくい」


 確かにいきなり訛り強いのは難易度高かったね。


「ほ、ほろほろはなひてふれ」


 あ、挟んだままだった。


「ご、ごめん」


 慌てて離す。


 追加で『ヒール』。


「ふー! やるばい! ここん来るだけんこつはあるごたっね!」


「入っていいよね? ()()試験は合格?」


 たぶん、最初の突進は当たれば消えてたよね。

 咄嗟すぎてそこまでの判断はできなかったよ。

 そこまで見抜けてたらコレはなかったはず。


「よかよか。ちゃん『映像(ビジョン)』にも気付いとったし合格ばい。回復もできっとにこげん動けるとにゃ久々に会ったばい」


「もしかしてクレ姉さん?」


「お? 知っとっとね? クレナイさんやろ?」


「そうそう! 前に私も一緒に来たんだよ」


「あー! あん時一緒におった子ね? おいがクレナイさんばテストしたとはそいより前やけど」


「あ、やっぱり私が来た時は今のはやってないんだ」


「Sランクに上がったとにやったら失礼やろーもん。そいに来たとは山からやったろ?」


「なるほど。やっぱりね」


 クレ姉さん……っていうか、たぶんアカツキ達みんなBランクだった時にここに来たんだ。そして試験を受けた。


「そっちのネーチャンもすごかったばい。二人ともにおいの『不可視(インビジ)』が見抜かれっとは思わんかった」


 ってことは、この人は【暗殺者(アサシン)】だね。


「ふっ、見えない敵を相手にするのは慣れてる」


「私も『空間把握』あるしね」


 『探査(サーチ)』じゃ無理みたいだったけど、『空間把握』ならちゃんとこの人が見えてたよ。


「で、なにしにきたと?」


「んー、元々はただ山を越えたいだけだったんだけど、ここでAランクの昇格試験受けれるって言われたの」


「はー! まだAランクなっとらんかったと!」


 それ以上に見えたってことだよね。嬉しいな。


「だってまともにランク上がり始めたのここ一年半くらいだもん」


「そいはまたすごかね。そげん短期間に上がるもんじゃなかとに」


「ま、アタイに言わせりゃフィルナはまだまだ経験不足だけどな」


 そりゃ、何百年も生きてるロザリィには敵わないよ。悔しいから言わないけど。


「やけど試験かぁ、受けられるやかねぇ。とりあえずギルドんとこ案内するばい」


「ん? なにかあるの?」


「今日ここん来たとはお二人さんで二組目ばい。詳しかことは村長に聞いてー」


 そうだった。ここは村長がギルドマスターを兼ねてるんだったよ。

 それに私達の前にも誰か来てるみたい。


「あ、そうだ。私はフィルナ。そしてこっちがロザリィ」


「そーね。おいはシノっち呼ばれよる。監視と案内が役目やね。普段は村の草むしりばしよるよ」


「そっかー。でも、それ言っちゃっていいの?」


「よかよか。こん村に拒否されて恨んどるやつはおるかもしれんばってん、結局は山に行かせられん弱いやつやけんね」


「弱いくせに恨むのか?」


「むしろ自分のことちゃんとわかってる人の方が少ないよ。それで拒否されたらねぇ」


「そういうもんか」


「そういうもんばい。やけどおいたちは……」


「そういう人たちの為、だよね」


 タイクーンの王都でもゴッツさんが同じこと、してたよね。

 みんな元気かなぁ。



「わかってもらおうとはしとるとばってん……ね。そいつらはおいたちですらよう山には入られんっちわからんとよ」


「ふぅん。よっぽどあの山は危ないんだな」



 話しながら、ギルド兼村長の家で来訪者に提供する宿でもある、目立つ建物へ向かっていく。



「村長ー! もう一組来たばい!」


「わかっとっ! おらぶな!」


 シノさんが叫びながら戸を開けると、それより大きな声で叱責が返ってきた。

 ……叱責だよね? ロザリィじゃないけど、私もここの訛りは全部はわかんないんだよね。


 それにしても……久しぶりだけど、ここは落ち着くなぁ。

 全部木造で自然の匂いというか、リラックスできるんだよね。


「そ、村長の方がやかましかばい……」


「せからしか! こげんこつは偶にあろーが。いちいち騒ぐな」


 どうも冒険者が続けて来るのは珍しいみたい。

 あの言い方だと、先に来てるのも試験を受ける人たちってことだよね。


「そっちは二人かい?」


 ん? 横から男女四人が出てきたよ。


「まぁ、見ての通りだけど」


「俺たちは『風の竜』。Bランクパーティだ」


「ん? ジパン語?」


 竜ってドラゴンのことだったよね。


「お、初めて知ってるやつに会ったぜ。俺はリーダーのホール。そんでメンバーの左からスズ、ハリー、ソヨだ」


 女性二人スズとソヨは黒髪黒眼、ジパンの人なのかな?

 ホールとハリーは緑髪翠眼(すいがん)。あんまり見ない色だね。


「ホール、むしろあの胸当ての文字、ジパン語だから」

「愛っていう字は私も好きです」


 スズとソヨは最初から私がジパン語がわかることに気付いてたみたい。まぁ、目立つところに書いてあるからね。


「紹介どうも。私はフィルナ。Bランクだよ。こっちは親友のロザリィ。珍しいメンバーだね。人のことは言えないけど」


「確かにな。灰色の肌ってのは初めて見た。まだ知らねえことがあるんだなってわかるとワクワクしてくるぜ」


「あー、ホールの悪い癖が始まった……」

「こいつは置いといて話をしようぜ」

「フィルナさんたちも昇格試験を?」


 ホールは生粋の冒険者なんだね。その気持ち、わかるから何も言えないや。


 でも、その興奮したホールを奥に追いやって他のメンバーが話しかけてきた。

 たぶん、ああなったホールはしばらく落ち着かないんだろうね。


「フィルナでいいよ。そう。バルゥームじゃそういうクエストがないからってここを紹介されたんだ」


 そう言いながら、やりとりを静観してた村長さんにアカツキから──バルゥームのヒノ国王から──貰った紹介状を渡した。


「ほう。グランドマスター直々の紹介状たい。やけど、クエストは同時には受けられんとよ。どっちかはしばらく待っとってもらわんといけん」


「どういうクエストなの?」


「バハムートの鱗を獲ってこいって」


 先に聞いてたらしい『風の竜』のスズが教えてくれた。

 ホールはまだ追いやられてるよ。


「バハムート?」


 あ、ロザリィには教えてなかったっけ。


「山の名前にもなってるドラゴンがいるんだ。それこそずっと昔から」


「討伐はしないのか?」


「そういうのとはちょっと違うんだよ。そもそもバハムートは魔物じゃないしね」


 そう、こっちの世界のドラゴン。そういうこともロザリィと出会わなかったらわからなかったよ。



「そげんたい。バハムートは近付くもんば払おうとはするばってん、人を襲ったりはせんけんね。ただ、バハムートの素材は貴重たい。こっちも生きるもんとして素材ばとるこつだけさせてもらっとるとや」


「なるほどな」


 珍しくロザリィがすぐに納得してくれたよ。


「それで、同時じゃダメっていうのは?」


「一緒に行ったら試験にならんけん。それにさすがにバハムートも何枚も鱗を剥がさるっと怒るったい」


「あれ? じゃあ、私にロザリィがついてったらダメなのかな?」


「え? 二人はパーティじゃねーのか?」


 あ、ホールが復活した。


「うん。私はソロなの。ロザリィは登録もしてないよ」



「ええっ!?」

「ソロでBランクだと……」

「嘘っ!?」



「私は登録を勧めたんだけどね」


「さすがにランクが下に合わせられると聞いてするわけないだろう。せっかくフィルナがAランクに昇格しようってときにアタイのせいで下がっちまったら悪いよ」


 パーティじゃないとほとんどクエストを共有できないし、別々にやる意味もないってことで私がロザリィに説得されちゃったの。

 冒険者の仕組みも知ったばかりのロザリィにね。


「まぁ、そげんかこつなら同行はよかよ。こん中入れた時点で山さん入る資格は持っとるけん」


「ありがとう!」


 村長さんは気持ちよく同行を認めてくれたよ。



「で、どっちから行く?」


「私はどっちでも。行くなら今からすぐ出れるよ」


 ホールから聞かれて、素直に答えたよ。

 ロザリィとはここまでどこにも寄らずに来たからね。これから出るのもその続きみたいなものだし。



「私ら明日まで休もうって言ってたじゃん」

「正直まだ万全には程遠いからな」

「それじゃ、待つ?」


「あー……フィルナ、だっけか? どれくらいで戻れる?」


 話し合ってからホールが代表して聞いてくる。

 パーティって感じでいいね。羨ましい!


「んー、今から出れば明日のこの時間くらいには戻れるんじゃないかな」



「は!?」

「おいおいおい」

「もう先行ってもらいましょう」


「俺たちは時間かかりそうだからそっちが先でいいぜ」


「わかった。連続で行っても怒らないようにバハムートには回復かけておくからね」



「いやいや、そもそも私らじゃ辿り着くのに三日はかかるから!」

「そっから鱗取る前に休息もするしな」

「ていうか、回復もできるのにソロでBランクってどれだけすごいのかわかんないよ!」


「フィルナ、俺たちはそっちが戻ってから出発することにする。そんな焦らなくても大丈夫だからな」


「ん? 鱗獲るだけでしょ? すぐだよ」



「話は決まったとや? 先に行く方のライセンスば出さんね」


 村長にクエストの受注処理をしてもらってギルドを出たよ。



「先客がいなかったら通り抜けられたのになぁ」


「そうなのか?」


「完了報告は別のギルドでもいいからね。でも、今回は『風の竜』にも教えてあげなきゃだから」


「ああ、なるほどな」


 そのまま向こう側に行けたらよかったんだけど、まぁ、たまにはこういうのもいいかな。


 軽く話しながらロザリィと二人、霊峰バハムートに足を踏み入れた。

お読みいただきありがとうございます。


次回、バハムート。


※胸当ての文字のことが完全に抜けていたので、それに対する反応を追記しました。

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