第五十話 『ダンジョン』の正体
「そういえば、『ダンジョン』って言ったっけ。それって何? アタイがいたとこもそうなの?」
「そうだねー……私が聞いたのは──」
ロザリィの質問に知ってる限りの『ダンジョン』のこと、ロザリィと一緒に転送されてきた『ダンジョン』の様子を伝えた。
「おっかしいなぁ。アタイがいた時は中に魔物なんていなかったんだけど」
「そうなの?」
「だって、アタイそこに住んでたんだよ? 次元魔法を試すのに色々とかなり掘ったけど、さすがに魔物と同居は勘弁だよ」
「うーん……近くにいたとか?」
「それはあるかも。っていうか、アタイが魔法使った場所はもっと高い位置だったはずなんだが。それで登って来れるやつしか近くにいないから対処しやすかったんだよ」
「あ、それで一番上の階にオーガとかゴブリンがいたのかも」
「ん? 登れそうなやつらがいたってことかい? 何かわかりそうだ……ちょっと待ってくれ。いくつか確認する」
「う、うん」
「下の階はこう……高いところには上がれないようなやつがいたんだな?」
ロザリィが手で山みたいな形を空中に描きながら聞いてくる。
手を使って登るような険しい山のことみたいだね。
「そう。四足歩行の魔物がいたよ。よく考えたら、下の方に行くにつれて足が短いのが多かった気がする」
「なるほど。それじゃ次。『ダンジョン』は他にもあるらしいが、大きい……というか広いものはあるか?」
「昔、王都が丸々消えたっていうところとかめちゃくちゃ広いみたいよ。あ、王都っていうのは大きなお城があって、その周りに街があるの」
「うん、なんとなくわかるよ。たぶんそうだ」
「えっ? なにが?」
「魔王様がいた城さ。アタイは見えなくてわかんなかったけど、魔王様は俺の城って言ってたからね。それが消えた王都ってやつなんだろう」
「!! なんで……そう思うの?」
「その王都? に近付いてたらさ、近くにいた魔物が消えたんだよね。それが気になって、魔王様と会ったあと結構歩き回ったんだ」
「ど、どうだった……の?」
「その中は魔物が生まれることはないし、近付いた魔物はみんな消えてた。入ることができたのはアタイら魔族だけ。だから辿り着いた魔族はかなりの数がそこに残っていたよ」
「もしかして魔物はそれでこっちの『ダンジョン』に?」
「ああ。あの時はどこに行ってしまったのか結局答えは出なかったが、フィルナの話を聞いて確信したよ。『次元移動』はこっちの同じ大きさの場所と入れ替えてしまうもので、向こう側のその場所に入った魔物は一方通行でこっちに来てしまうんだ」
「なるほど……それに入れ替わって向こうに行っちゃった方には魔物を引き寄せる何かもあるのかも」
「確かにな。魔物は『特異点』が放つ光に集まるものだと思っていたが、こちらの何かに惹かれているのかもしれない」
意外な出会いで謎が解けていく。
『ダンジョン』って元々はなんでもない場所だったんだね。
「はー! 知りようがなかったことが色々わかっちゃったよ」
「ほんとだよ。ちなみにフィルナってこういう知識多い方?」
「んー、なんかよく情報もらえる気がする。『ダンジョン』が生まれることとかは知られてないことだし」
「そうかそうか。アタイも運がいい。出会えたのがフィルナでよかったよ」
「私もそう思う。だからこそ言っておくね」
「ん?」
「みんながみんなロザリィを受け入れてくれるとは限らないと思う。色んな人がいるからね。私達は相手が見えるのが当たり前で、『当たり前』だと思ってることと違うと拒絶したくなるの」
「なんだ、そんなの魔族だってそうさ。魔族にも嫌な奴はいるが、フィルナはそうじゃない。それだけで十分」
「ありがとう。でも、怒らないであげてね?」
「わかってるよ。大丈夫」
「だから私がキレたら止めてね」
「ぶっ! なんでそうなるのよ。そうなったら一緒に暴れてやるわ!」
「あはっ。楽しそう!」
「ふふふっ」
「あ、そうだ。ねぇ、次元魔法って契約してくれないかな?」
「契約?」
「あれ? そういえばロザリィの魔法ってどうやって覚えたの?」
「どうって……レベルが上がれば使えるものじゃないの?」
「ううん。こっちだと、レベルを上げないとっていうのは一緒だけど、契約してない魔法は使えないの」
「へぇ。魔族は『前世の記憶』があるからってことなのかな」
「階位も生まれた時からあるみたいだし……本当にそうなのかもね」
「職業も違うのかい?」
「うん。こっちだと『成人の儀』っていう儀式で授かるものだよ」
「なるほどねぇ。とにかく契約っていうのがわからないからフィルナがアタイにやってみせてよ」
「わかった。使えるかわかんないけど、似てる時空魔法の契約をやってみるね」
「お、楽しみだ」
ロザリィに私が今使える時空魔法を一通り契約してみた。
「残念だったね」
「まぁ、【次元魔導師】だからね。使えない気がしてたよ」
契約はできたけど、ロザリィには時空魔法は使えなかった。【マジックリスト】にも載ってなかったよ。
「『転移』が使えたらもしかしたら帰れたかもって思ったんだけどね」
「どういうことだい?」
「少し前に『ダンジョン』内で『転移』を使って行方不明になった人がいるの。たぶん……魔界に行っちゃったんだろうなって」
ロザリィの話を聞いて、確証はないけどそんな気がする。
仲間と『転移』しようとして一人だけっていうのがよくわからないけど。
「それは残念だけど、でも、そう思ってない自分もいるよ」
「こっちに来たかったから?」
「違うよ。フィルナと出会ったからさ」
「そう言われると照れるな」
「照れた顔、見せてみなよ。最初、ソレが顔なのかと思っちゃったわ。さっき殴ってようやくわかった」
「ああ、ごめん。いつも被ったままだからね。言われないと忘れちゃうんだ」
被り物を取って顔を見せる。
「…………これが美しい、ってことなのか。アタイの感覚がそう言ってる」
「そんなに?」
自分でペタペタと触ってみる。
んー……わかんないや。少なくとも形が変わってるわけじゃないね。
でも、他の人の顔を見たことがないロザリィにここまで言わせる程なんだ。【すっぴん】のレベル1000超えは伊達じゃないってことかな。
「ちなみにアタイの顔ってどう?」
「ロザリィも綺麗だよ。鏡、見てみて」
アキンドで手鏡買っておいたんだよね。
ついでに自分も見てみよ──って、これ……私?
いや、顔は変わってなくて、確かに、間違いなく私なんだけど、すっごい綺麗になってる。
ロザリィみたいな整った綺麗さとは違った……上手く言葉が見つからないや。
自分の今の顔を見てからロザリィに手鏡を渡した。
「これが『アタイ』なんだな……でもフィルナはなんでわざわざ隠してるんだ? さすがにアタイも顔を見られるくらいは平気なんだけどな」
「まぁ、色々あったんだよ。その辺は明日から歩きながら道々話すよ」
「わかった。それじゃ、今度はアタイが契約やってみる」
「うん、お願い」
「フィルナなら自由に魔界と行き来できるようになったりしてな」
「試したくなっちゃうからあんまり言わないで」
向こうに行けたとしても『次元移動』が次に使えるのは100年後だよね。帰ってくる前に死んじゃうよ。
でも、それがわかっててもやっちゃいそうで自分が怖い。
「ははっ、フィルナもか。わかった、気をつけるよ」
「あー、ロザリィなんて実行しちゃってるもんね」
私達、似た者同士? ちょっと嬉しい。
「そういうこと。じゃ、やるよ?」
「オッケー」
ロザリィが私の背中に手を当てて、契約を始める。
「まずは……『次元移動』から」
「ええっ、いきなり!?」
「一番消費が激しいんだ。魔力を回復できるなら終わったら頼みたい」
「うん、それは大丈夫」
「さすがね! いくよ!」
ドクン……!
「うっ……」
「フィルナ!?」
ロザリィが私に『次元移動』を契約した瞬間、心臓が跳ねるような感覚の後、私は意識を失った。
お読みいただきありがとうございます。
次回、記憶。




