第四十九話 ロザリィの今後
「とりあえず方法だとか色々聞く前に、まず最初に確認しておきたいんだけど」
「ん? なにかな?」
「ロザリィの目的は何?」
正直もうあんまり警戒はしてないんだけど、聞いておかないとね。
「ああ、そういうこと。暴れたいとかじゃないから安心して。というか、目的はもうほぼ達成してるしね」
「じゃあ……」
「そう、アタイの目的はここに来ることと言ってもいい」
「微妙に違うんだ?」
「まぁね。さっき研究者って言っただろう。正確には私の魔法、『次元移動』の実験ってところかな」
「なるほど。成功して終わりってこと?」
「うーん、そこが"ほぼ"達成な理由だけど、帰れなくなっちゃって」
「うぇっ!?」
あんまり軽く言うもんだから変な声が出ちゃった。
「向こうからは『次元移動』で来れた……っていうか、地面ごと移動しちゃったんだけど、こっちでやってもダメだったんだよ」
「それってもしかして……あの『ダンジョン』?」
「それが何かはわからないが、アタイと一緒に転送されてきた地面はあっちの方に残ってるわ」
森の方を指差すロザリィ。
うん、間違いなさそう。
「ロザリィは研究してるってことだけど、今回の転送はどうしてこのタイミングだったの?」
「いや、過去に何度もやってる。ただ、成功しなかったんだ」
「魔法が成功しないなんてないはずなんだけど……」
「そうなのかい? とにかくアタイはどういう条件なら成功するのか色々試して研究してたってことさ」
「だとすると、その条件は時間だったのかも」
「!? フィルナは何か知ってるのかい!?」
「私たちは『ダンジョン』って呼んでるんだけど、それは100年ごとに生まれてたんだって。そしてそろそろ次の100年っていう話を聞いたところだったんだ」
「なるほど……それはいいことを聞いたわ」
「ついでに聞くんだけどさ、私、たぶん『ダンジョン』ができてすぐにここからまっすぐそこに向かったんだよ。でも、ロザリィとは会わなかったよね?」
「それね、光がないところから急にここに来ただろ? 眩しくて何も見えなくなっちゃってさ、ふらふら歩いちゃってたんだよ」
「あー、私は『ダンジョン』から出たら夜だったから平気だったけど、昼間だったらやられてたかも」
「ヨル? ここも暗くなるのか?」
「うん。昼はあの太陽っていうのがあるから明るいの」
「へぇ、魔界にも似たようなものがあるよ。もっとも上にあるのがわかる程度で明るくはならないんだけど」
「それで、さっきは何してたの?」
「ようやく目が慣れてきてね。そこで成功した喜びが湧き上がってきたところにフィルナがやってきたんだ」
「そこまで喜ぶことなんだ。帰れないのに」
「いやぁ、それを抜きにしても魔界に生きるヒトにとって光っていうのは目指す先なんだ」
「なるほどね」
「魔界じゃ光っていうと『特異点』でしか見られないからね」
「さっきも言ってたけど、『ゲート』って?」
「む。そしやそれも呼称が違うのか? 魔物の通る穴のことだ」
オババの言ってた『特異点』のことか。
「こっちじゃ今は特に名前を付けて呼んだりはしてないね。ていうか、それってもしかして……魔界の魔物がこっちに来てるの?」
「そうか、それすら知られていないか。てっきり同調魔法は魔界の魔物を喚んでいるものだと思っていた」
「ん? ということは同調魔法って、自然魔法のことかな?」
「ほう。第一、第二、第三の同調魔法が存在するが、その自然魔法もそうか?」
「呼び方は違うけど、確かに三つだよ」
「そうかそうか。つい最近この辺りで誰か第三を使わなかったか?」
「最近っていうか、一年前くらいに三番目の『裁きの雷』を使ったね。北の方で近くというわけじゃないけど」
「あんな規模の『特異点』が開くのはそれしかない。というか、その言い方、使ったのはフィルナか?」
「うん」
「それは興味深いね。いい研究対象……ごほん。なかなか面白そうなやつに出会えたらしいな」
「まぁ、別に私も自分を知ろうとしてるようなものだからいいけど。それよりさ、その研究、っていうか、研究者って言葉が魔界にあるようには思えないんだけど」
人と人の交流も少なそうだしね。
それに見えないんじゃ、結果を残すのも示すのも難しそう。
「鋭いね。説明が難しいというか、アタイもよくわかってないんだけどさ。魔族は生まれた時からある程度知識があるんだ」
「え? どういうこと?」
「例えば階位。【ステータス】で見ればいいわけだけど、どうすればいいかを最初から知ってるんだ。さっきも自分のことをどう説明しようかと思ったら研究者って言葉が思い浮かんだんだよ」
あ、だから疑問系だったのか。
「他には?」
「これは魔王様だけみたいなんだけど、『俺じゃない俺』の記憶があるって言ってたな。もしかしたらアタイ達のも自分じゃない誰かの記憶なのかもね」
「なるほど、『前世の記憶』ってやつだね。こっちじゃ御伽噺に出てくるくらいだけど」
「オトギバナシ?」
「空想というか想像で書かれた物語っていうのかな。事実を元に書かれることもあるけど、大抵誇張されてるね」
「モノガタリ……なんとなく意味はわかる。アタイの『前世』はこっちの人間なのかも」
「そうだったらすごいね。文字はわかる? あ、ステータスは読めるんだっけ」
「それも不思議なことにね。【ステータスオープン】。どうだい? こっちの文字と同じ?」
まさかステータスを見せてくれるとは思わなかったよ。
すごい……ほとんど同じ。少なくとも文字は一緒。
「同じなんだけど……階位? これが職業?」
「ん? そっちは違うのかい?」
「ええと、【ステータスオープン】。ほら、私のはこう」
「おおー。これが魔族と人族の違いか。それにしても……フィルナって弱い? レベルはすごいことになってるけど」
「ふふっ、生身ならロザリィと変わらないくらい」
魔力は無理。2000超えてたもん。
「ほう? ちょっと試してみていいかい?」
「武器なしね。いいよ」
詳細は省くけど、女同士とは思えない激しい格闘戦だったよ。
自分がここまで動けるようになったことに感動しちゃった。
「はぁっ、はぁっ、やるね。アタイは相手を見ながらやるのは初めてだけど、見えるのはやっぱり楽でいいね。それにしても、どういうカラクリだい?」
「私には女神様の加護っていうのがあるの。だから実際は見た目のステータスの十倍くらい。ロザリィは魔界ではどうやって戦ってたの?」
「んー、気配っていうと漠然としてるか。音と匂い、空気の流れとか感じるのは得意だね。あとは避ける、殴る、時々魔法ってね」
あの臭いさせててもわかるんだ……とは言えない。
「『魔導師』なのに物理メインなんだね……」
そう言いながらロザリィに治癒魔法を掛けてあげる。
『無詠唱』って便利。
「ふぅー。さすが【すっぴん】。回復までできるなんてね。まぁ、期待してたんだけど」
「さすが、なんて言われたの初めてだよ」
「それにあのスキルの数に加護って反則だろう」
「むしろ加護がなかったらここまでスキルは習得できなかったけどね。色々やってようやくここまで来たんだ」
「なるほど、それも努力の結果ってわけだ。気に入ったよ、フィルナ。よければこの後もフィルナについて行っていいかい?」
「もちろん! 魔界のこととかもっと聞きたいしね。私もこっちのこと教えるよ」
この見た目のロザリィを他の人たちが受け入れてくれるかどうか、っていう心配はあるけど、私もロザリィを気に入ってるんだよね。
「はは、アタイも色々と知りたいからね。お互い様だ。よろしくな、フィルナ」
「こちらこそ、よろしくロザリィ」
ロザリィに握手を教えてしっかりと右手を握り合った。
……全力でやるもんじゃないって教えておけばよかった。
っていうか、教えておかないと他の人にやらかしそうだね。
お読みいただきありがとうございます。
次回、『ダンジョン』の正体。




