第四十八話 魔族
何やら盛大に喜んでる全裸の……人……だよね?
細々とした灰色の肌に一度も手入れしたことがない様なボサボサの長い銀髪の……お姉さん。
見た目は私と同い年くらいなんだけど、なんとなくそう思った。
この場には私とそのお姉さんの二人だけ。
どうしよう。声掛けた方がいいかな?
私の思考が好奇心と警戒心の狭間で揺れ動いてるうちに向こうがこっちに気付いた。
「あ! アンタこっちの人族だね!」
よくわからないことを大声で言いながらこっちに向かってくる。
あ、眼も灰色だ。
って、くっさ!!
なに!? 生まれて一度もお風呂入ってないの!? っていうくらいの異臭! 目にしみる!
「モ、『モガ(浄化)』っ!!」
思わず鼻と口を押さえたまま魔法使っちゃった。
「ん?」
お姉さんが神聖魔法特有の青白い光に包まれて綺麗になる。異臭も消えた。
ちなみにお風呂に入れない日は私もこれを使ってるよ。
こういう風にも使えるっていうだけで、本来の使い方とは違うんだけど。
「ふー! やっと息できるよ!」
(「『無詠唱魔法』スキルを習得しました。加護により『自在魔法』に進化しました」)
ぶっ! 無我夢中だったからかスキル習得しちゃったよ!
まぁ、命の危険を感じたのは確かだけど。
ていうか『自在魔法』ってなんだろ? 聞いたこともないスキル。
「お、体のベタつきがなくなった! それに髪もサラッサラだ! 今の、アンタの魔法かい?」
「そうなんだけど、どうして服を着てないの?」
「服? そういやアンタは……おおお……体が見えるのはなんだか照れ臭いっていうか……あ、あんまり見るな!」
「えぇ……そんな理不尽な……」
でも強いて言うなら私と変わらない大きさだから許したくなるね。
何が、とか聞いたら怒るよ?
「あ、アンタ! その服っていうのはその体を隠してるやつだろ? 他に持ってないのか?」
ん? 服を知らない? なのに恥ずかしがってるし……変な人(?)に会っちゃったなぁ。
「一応あるけど……まぁ、女の人が素っ裸なのを放置するわけにもいかないね。はい、コレを着て。あと下着も」
「すまないね。……って、これどうやって着るんだ?」
ブラをあっちこっち向けたりして頭を捻ってる。本当に知らないんだ。
「やってあげるよ。こうやって……で、ここでこう……すると、少しは大きく見えるよ」
「? 大きく見せてどうするんだ?」
「男の人に女らしく見てもらう為だよ」
おおぅ……自分で口にするのは辛い。そして悲しい。
「へぇ……見えると大変なんだな」
「一体どんなとこにいたの?」
自分の姿が見えないところ? 昨日のダンジョンみたいな?
「アタイは魔界から来たんだ」
「魔界?」
髪ごと着ちゃってたから出してあげながら聞き返す。
そういやオババが『特異点』の向こう側の仮説の一つに挙げてたっけ。
その魔界……なわけないって思いたいところなんだけど、お姉さんの見た目がそもそも初めて見る人種なんだよね。
「ん? こっちじゃ知られてないのかい? たまに同調魔法で魔界と『特異点』を繋げたりしてるだろう?」
「???」
え? 同調魔法って何?
「んー……どうも噛み合わないねぇ。呼称が違うか? うん、ありうる……」
お姉さんは私の反応を見てブツブツと独り言を呟き出した。
「あ、あの……」
「ん? ああ、悪いね。考え込んじゃうのは癖なんだ。そうだ、アタイはロザリィ。階位は【次元魔導師】で研究者? っていうのをしている」
なんで疑問系?
「え、ええっと、色々聞きたいことが増えたんだけど、とりあえず私はフィルナ。職業は【すっぴん】で冒険者をしてるよ」
【次元魔導師】なんて初めて聞いた。それになんとなく職業の語感に違和感があったよ。
「【すっぴん】……始まりの人の階位だね? といっても詳しいことは知らないから聞かないでおくれ」
なにそれ! 更に聞きたいことが増えた上にそれが一番知りたいんだけど!
「それって誰が言ったの?」
「魔王様だよ。一度会ったきり何百年も会ってないけど、その時にチラッとそんなことを言ってたってだけ」
「な、何百年!?」
「ん? 古い魔族なら千年は生きてるけど、魔王様と会う機会なんてそうそうないさ」
「魔族……?」
「魔界で生きるヒトのことさ。ま、誰もお互いの姿すら知らないがね」
「それって……」
「魔界には光がないんだよ。だから生まれた場所から少しずつ行動範囲を広げるしかないんだ。アタイが魔王様の居城に辿り着いたのはただの偶然さ」
「光がない……? え……生まれた場所からって、両親はいるんでしょ?」
「リョウシン? アタイら魔族は生まれた時に誰かが近くにいることは稀さ。少しずつ動いてようやく誰かと出会えるんだ」
「え、ちょ、ちょっと待って、魔族ってどうやって生まれるの?」
こ、子作りとかじゃないってこと?
母親もいないっておかしいよね?
「それがねぇ、誰もその瞬間を見ることができないからわかんないんだよね。アタイや知ってるやつの話だと、気付いたらそこにいた」
「ええっ。それじゃ、どうやって生きて行くの? 食べるのも大変そうだし、それこそ知識とかどうやって得るの?」
「あー待て待て、答えるからちょっと休んでいいか? なんだか力が抜けてきた」
「ちょっ! 大丈夫?」
フラつくロザリィを抱き止める。
グゥー
「あ、お腹空いてるの?」
「お腹が空く? この感覚のことかい?」
ああもう驚くのに疲れてきたよ。
「わかった。とりあえずご飯にしよ──って、もしかしてだけど、食事ってわかる?」
「いや?」
「なら薬湯がいいかな」
魔法鞄から道具を取り出して、火を──あ、そうだ。
「おお! フィルナも【次元魔導師】だったのか!」
「へ?」
「今のは次元魔法『次元空間』だろう?」
「え、いや、【すっぴん】だってば。それにこれは魔道具だし、付与されてるのは時空魔法の『マジックボックス』だけど……」
あ、よくよく考えたらもう自分でこれも使えるね。
まぁ、みんなからもらった鞄を使うけど。
「ほう。道具に付与か。見えるとそんな発想も生まれるんだな」
「他人の魔法まで付与出来る人はほとんどいないけどね」
私はその必要はほぼないけど、私には出来ない技術。
だから魔法鞄はめちゃくちゃ貴重なんだけどね。
「なるほど、魔界じゃ実現は難しそうだ。ちなみにフィルナはその『マジックボックス』は使えるのか?」
「うん。使ったことないけど」
「作業を止めて悪いんだけど、ちょっとだけ。『マジックボックス』を使ってるところを見せてくれないか?」
探究心が止められない、そんな感じみたい。
「まぁ、いいけど。はい『マジックボックス』」
翳した手の先の空間に暗い四角の穴が出来る。
そこに今出したばかりの道具を入れて、出して見せる。
「ほうほうほう。似ている様で違うな。呼称が違うだけでは無さそうだ。手を入れてみてもいいかい?」
「え? 大丈夫?」
他人には使えないはずだけど。
「ほう。その反応、気になるね」
ロザリィがその穴に触れた瞬間、バチッと何かに遮られるように弾かれる。
「だから言ったのに……」
「いたたたた。完全に専用の空間とは素晴らしい。それに生体は入れないようだな」
「そっちの『次元空間』だっけ? それは違うの?」
「ああ、誰でも触れられるし、人も入る」
「え、怖っ」
「その通りだ。取り出すとき、そのモノを思い浮かべるだろう?」
「え、まさか」
「そのまさか。入ったやつの姿がわからない魔界じゃ助け出すこともできやしない」
「うっかり触れるわけにもいかないね」
「ま、こっちならそんなこともないだろうけど。向こうでもほとんど自分で作ったモノを入れるのにしか使ってない。それならなんとなくの形くらいはわかるからね」
「なるほど。ほとんどってことはそれ以外にもあるにはあるんだ?」
「魔物に襲われたときなんかはこれに入れちゃえばいいからね」
「あ、そうか。そういう使い方もあるね。って、やっぱり魔物は魔界にもいるんだ?」
「ああいるよ。って、すまん、止めといてなんだけど、ショクジっていうのを頼む」
そうだった。ええっと、そう。
火をつけるのに『自在魔法』っていうのを試してみようと思ったんだ。
私の予想が正しければ……できた!
指先にロウソクよりちょっと大きめの火が灯る。
って、あっつっつ。
指には『アイス』と『ウインド』を応用して……よし熱くない。
あ、そもそも離して出せばよかったね。うん、ある程度は離しても出せるっぽい。
やっぱりこれは私のイメージ通りに魔法が出せるスキルみたい。
『魔法吸収』と同じく何の職業のスキルなのかはわからないけど。
あ、『魔法吸収』は試した結果、私の魔法だけは吸収されないみたい。
ただそれ以外は仲間の魔法でも吸収しちゃうみたいだけど。
だから私がロザリィの『次元空間』に触れたら消えちゃうと思う。
そして出来上がった薬湯をロザリィに飲ませる。
「はー! 生き返った気分だよ。すごいなフィルナは!」
「そういう薬でもあるからね。あんまりおいしくはなかったと思うけど」
「おいしく……?」
「ああ、やっぱりそういうのもわかんないよね。体が慣れてきたら美味しいもの食べてみようか」
さすがに食事したことない体にお肉は危ないよね?
「わかった。それじゃ、アタイも答えるけど、フィルナも教えてくれるかい?」
「うん、いいよ」
結局その日はもうそこから動かずにロザリィと話をすることにした。
お読みいただきありがとうございます。
次回、ロザリィの今後。




