第四十六話 混乱
ちょっとだけ落ち着ける時間ができた。
『ダンジョン』内の間引きとか湧く間隔の調査とかギルドが動かないといけないことはたくさんあるし、その為に待機してる冒険者もたくさんいたから早めに報告しないとだけど、さすがにもう夜だしね。
改めてステータスも確認した。
レベル1224、魔力・瞬発力が110、体力・筋力が100。
間違いなくこの『ダンジョン』に入って伸びた。
「それにしても、フィルナすごかったね」
「ええ、来てくれたときも凄いと思ったけれど、急にもっと凄くなりましたよね?」
「そういや私が【すっぴん】だって言ったっけ?」
「!? まさか……フィルナ様が……? いえでもあの強さは……」
言ってなかったみたい。そりゃ知らなかったら困惑するよね。
とりあえず色々と驚かれながら【すっぴん】の固有スキルとかについて話したよ。
「それで、さっきレベルが1000を超えてステータス制限が1/10にまで解放されたんだ」
「うわー一気に十倍! あの炎すごかったよ!」
「ふふ、ありがとリリア」
「でもどうしてそれまで伸びなかったステータスが急に伸びたんでしょう?」
「どうもレベルはあんまりステータスの伸びに関係してないみたいなんだ」
「えっ? それなら余計に……?」
「スキルの習得もだけど、思い返してみると、集中してるっていうか……緊張感? が高まったときの行動が影響してそうだね」
「えっと……例えば?」
「あのダンジョンに入ってすぐに『暗視』ってスキルを覚えたんだけど、覚えそうな状況なんて今までいくらでもあったはずなんだよね。それこそこうやって野営してる時とかさ」
「確かに。暗い中でものを見るっていうだけならそうですね」
「でも、相手がオーガ族だってわかってその姿を見ようって集中してたらすぐに習得したんだ」
「オーガと一対一……想像したくないですね……」
「でも、確かにそんな状況だったら、とんでもなく集中しますし、緊張しますね」
「魔法も走ることもそう。とにかくみんなのところにってずっと気を張ってた。だから魔力も瞬発力も伸びたんだろうね」
加護のことを考えると実質2000〜3000伸びてるんだよね。とんでもない数値だよ。
完全に解放されるのはきっとまだまだ先だろうけど。
「嬉しい……アタシたちのために……」
「ええ、そうね」
「改めて、ありがとうございます。フィルナ様」
「はは、セシリーから魔道具受け取っておいてよかったよ」
「ごめんなさい、まさかこちらから使うことになるなんて……」
「いいのいいの。助かったんだから。ローズもみんなも気にしちゃダメ」
「このお礼は必ずしますので……」
「それじゃ、ギルドの報告のとき、私じゃ信じてもらえないかもしれないから一緒に立ち会ってくれる?」
なんて言ったけど、当事者だから立ち会うことになるけどね。
「そんなことであればいくらでも!」
よし、これでお礼とかもう言わせないよ?
とはいえ、【すっぴん】の私の証言が信じてもらえない可能性は十分にあるよ。
私の方がランクが上だしオーガエンペラーも手元に持ってるけど、それでもこの国は職業で相手を見てくるからね。
そして報告するならウェアルかな。今なら消費魔力50の『転移』も使えるしね。
レオンさんの予想が当たり過ぎて怖かったよ。
あの話を聞いてなかったらダンジョンの中で使ってたかもしれない。
翌朝、私は三人と一緒に『転移』でウェアルのギルドに飛んだ。
「うおっ! どっから現れやがった!?」
早朝だったからか、ギルドには職員さんしかいなかったよ。
まぁ、専属担当が付いてる冒険者しか今は来ないだろうしね。
「あらぁ? あなたたちはぁ……この間のぉ」
「あ! この前のお姉さん! 緊急で報告があります! ギルドマスターに繋いで貰えますか?」
「いきなり来て何を言い出すかと思えば……ギルドマスターに繋げだと? それにお前達、無許可で『転移』を使用したな? この状況──」
「待ちなさい!」
若い男の職員さんが私達を咎めようとしたのをお姉さんが止めた。
表情も口調もさっきと全然違う。
「繋いであげるのはいいんだけど、ギルドマスターは朝から来客中なの。早朝から対応するってどういうことかわかる?」
ギルドマスターがわざわざ……ってことは相手は一人しかいない。
グランドマスター、国王ね。
「はい。それなら尚の事都合が良いです。お願いします」
「……わかったわ。ついてきて」
「アマンダさん! いいんですか!?」
「目を見ればわかるわ。それでもしつまらない内容ならギルドマスターが処罰するでしょ」
アマンダさんって呼ばれたお姉さんの後について奥の部屋に向かう。
そして、その部屋の扉をノックする。
「ギルドマスター、他国の冒険者ですが、緊急の要件だそうです。お通ししますよ?」
「……わかった。入れ」
ちょっと間が空いて許可が下りて入室する。
目の前のテーブルを挟んだソファーにそれぞれ左にそこそこ若い男の人と右に壮年の男性が座ってる。
あれ? なんとなく見たことがあるような若い方が国王様?
「さて、要件を聞こうか」
そう切り出したのは右側の人。やっぱりこの人がギルドマスターなんだ。
「結論から言います。西の森、湖のある辺りに『ダンジョン』が生まれました」
「なんだと? そんな話を信じるとでも?」
「信じられないのは私も同じです。ですが、彼女たち三人がその発生に巻き込まれ、旧知で『信号』の魔道具を共有していた私に通知が来て、彼女たちを救出しました」
「『ダンジョン』をソロでだと? 余計信用できないな。お前の職業は?」
やっぱり……。
「……【すっぴん】です」
「は! 【すっぴん】がそんなことできるものか!」
「ん? ギルドマスターは知らねぇか? 去年のタイクーン王都を襲ったモンスターパレードで活躍した【すっぴん】の話を」
ええっ、ここの国王様がそれを知ってるの!?
「耳には入っていますが、どこかで【すっぴん】がヘマをした話が捻じ曲がったんでしょう」
ああ、ギルド経由で広まってるのか……。ていうか、このおじさん……おっと、ギルドマスターだった。全然信じる気ないね。
「では、【すっぴん】の固有スキルの話は?」
おお、国王様ぐいぐい攻めるね。
「それこそデタラメです。かつて一人も成功者のいない職業ですよ? 前例がないのはおかしいでしょう?」
「頭かってぇなぁ……」
国王様、呆れて頭を掻き出しちゃった。
「ともかく! 『ダンジョン』が生まれるなんてあり得ません! 適当なことで時間を割かせおって!」
「そうか? 俺はお前に間もなく『ダンジョン』が生まれる時期だからここの状況はその前触れかもしれない、そういう話をしに来たんだが」
私に怒りをぶつけようとすると国王様がフォローしてくれる。
さすがに国王ともなるとその話も知ってるんだね。
「な、なんですって!?」
「お前が報告してきたことだろ? 何かの前兆かもしれない、と」
「そ、それはそうですが……」
「さぁ、話が噛み合ってきたな。ギルドマスター、どう動く?」
「ぐ……おい、お前! 見てきたことを詳しく話せ!」
「口が悪いやつですまんな、コボルトF」
そのアダ名まで知ってるんだ。
「では……。まず特徴は地下に向けて縦に伸びた『ダンジョン』で、確認したのは地下5階まで。更に下への階段もありました。広さは各階この街の半分くらいでただ広い空間です。遭遇した魔物は……」
覚えてる範囲で倒してきた魔物も伝えた。
ギルドマスターの表情がだんだん険しくなっていくのが不安で仕方なかったよ。
お読みいただきありがとうございます。
長くなりすぎて分割したので話の切り所がちょっと中途半端な感じです。
次回、グランドマスター。




