第四十四話 光の指す先
「確か、相手の『信号』に近付くと太くなるんだったよね」
私の腕の魔道具から出てる赤い光は既に結構太い。といっても小指の半分くらいだけど。
本当に遠いと糸より細いらしいから結構近い……というより間違いなく森の中にいるよ。
あれ? セシリー達思ったより進んでないの?
まだ次の町までの半分くらい。私がここまで一週間かかってるから、数日先に出たっていうセシリー達はとっくに森を抜けててもおかしくないんだけど……。
もしかして……森で迷った?
いやでも、近くにいるとは限らない私に『信号』を送ってくるくらいだし……急いだ方がいいよね。
私は『探査』を発動したまま光の指す森の中へ駆け出した。
森の中も外と変わらず魔物の反応はないね。
前の森にいた主みたいな魔物に遭遇しちゃったのかと思ったんだけど……。
それに割と近くにいるはずのセシリー達も見つからない。
「あれ? ちょっと下向いてる?」
先に進むにつれて光が下を指していることに気付いた。
「もしかして地下? まさか……『ダンジョン』!?」
そうなって初めてその可能性に思い至ったよ。
私じゃなく、セシリー達が『ダンジョン』発生に巻き込まれた可能性に。
ってことは、魔物が少ないのもそのせい?
ううん、今考えるのはやめよう。
大事なのはこれが本当に『ダンジョン』なのか、三人と合流することができるのか確認すること。
それにここからはどちらの街に行くにしても往復で一週間はかかっちゃう。
最悪私一人で『ダンジョン』に入る決断もしないといけない。
そして、それまで僅かに向きが変わっていた光が全く動かなくなった。
安全地帯に入れたのならいいけど、元々奴隷だったセシリー達が『ダンジョン』の知識を持っているとは限らない。
その上だんだん光は下を向いて行くのに光の太さは変わってない。
しばらく走って、遂に光が真下を指す場所まで着いた。
「この周りだけ木がない……なくなった? 昔の王都みたいに?」
範囲はそこまで広くはないけど……でもこの辺って確か……。
地図を広げる。
「やっぱり。ここ、湖があったんだ」
森の中央付近に湖を示す絵が描いてある。
だいたい王都で見た王城の建物部分くらいの広さ。
それが今は硬そうな岩肌が剥き出しになった、湖があったとも森だったとも思えない地面。
「ここが『ダンジョン』の真上っていうのは間違いなさそう。それならどこか入り口があるはず」
セシリー達が地下にいるってことは洞窟系の『ダンジョン』なのかな。
レオンさんから聞いた話だと、『ダンジョン』には必ず入り口があるらしいの。
山とかだとどこからでも入れるみたいだけど結局は山道っていう入り口を使うことになるし、こういう場合も必ずどこかから入ることになるって。
とにかく岩肌の地面を走り回って入り口を探す。
「あった……これって、階段……?」
見つけたそれは明らかに岩を人工的に削って作られた階段だった。その先は暗いけど空洞になってるみたい。
建造物もあるって言ってたもんね。
ただ……なんとなく、その先の空間を作ったっていうより、そこを通るための道を作ったっていう感じ。
……よし決めた。入るよ。セシリー達を助けよう。
入るのはいいとして、明かりは松明があるけど……いきなり点けるのは危ない気がする……。
一旦下を覗いてすぐ戻ろうか。
『インスニ』を使いつつ、ずっと継続中の『探査』を頼りに警戒しながら階段を降りていく……。
いる……間違いなく魔物。しかも単体。
階段を降り切る頃には足元がほぼ見えないくらい暗くなってた。
できれば『麻痺』の付与がある短剣で斬りつけたい。
だけど、このままじゃどこが攻撃が通るかわからない。
明かりを点けたら『インスニ』が無意味になっちゃうし……。
って、『信号』の光! あれ? 周りは明るくなってないね。
もしかして魔道具の装備者にしか見えないのかな?
『探査』してる魔物も特に反応してないし……これは無視しても大丈夫だと思おう。
だんだんと目が暗闇に慣れてきて、薄っすらと魔物のシルエットが浮かんできた。
あれは……たぶんオーガ系の魔物だね。アカツキはオニって言ってた。
一本か二本の角が生えてるのが特徴で下位種のオークより小ぶりだけどオーク以上のパワーがある魔物。
これは地上には戻らずにもう少し目を慣らす方がいいかも。
オーガなんてこっちの姿を見せて戦える相手じゃないよ。
それに明かりは松明だから片手が塞がっちゃう。
『インスニ』を維持して息を殺す。そしてとにかく魔物に集中。
(「『暗視』スキルを習得しました。加護により『探査』と統合され『空間把握』に変化しました」)
その瞬間、一気に視界が晴れた。
どうもただ広い空間みたい。
アレ以外は特に何もいないし遮蔽物らしいものもない。
そんな空間にいるのはオーガエンペラー。オーガ系最上位種。
まともに戦うのは無謀にも程がある。できれば無視して進みたいけど、セシリー達と合流しても結局ここに戻ってくることになるだろうし……しかも明かりを点けてね。
それだったらむしろ今の方がやりようがあるよ。
狙う場所はあそこだね。足の踵の少し上。
念には念を入れて『加速』もかけて二刀流で飛び込む。
短剣でオーガエンペラーの足の腱を斬る。
「グオオオオオオ!! ……グオ……ガ……」
足の痛みに叫んだオーガに麻痺が発動して動きが止まった!
ここは一気に決める!
『武器技・一点突破』!
片手剣の突進系武器技でオーガの胸を貫く。
そこは魔石のある場所。
魔石を砕けば魔物は死ぬ。
当たり前だけど、魔石は取れなくなるけどね。
でも、今の私がこのオーガエンペラーを倒すにはこれしかないし、手段を選んでる場合じゃない。
頭の中にあのレベルアップ音が鳴り響く。
これも気にしてる場合じゃないね。セシリー達を探さなきゃ!
『信号』の光はまだ下を指してるし、どこか降りる階段があるはず。
覚えたての『空間把握』に集中……あった! あっちだ!
階段はさっき降りてきたところの逆。
そこへ向かって駆け出したとき、周りに複数の魔物が現れたのを感じた。
「そんな……早すぎるよ……」
出てきたのはゴブリンロードを筆頭にゴブリンの群れ。
ゴブリンは群れのボス次第でランクが変わる魔物。
上位種のロードがいる場合はCランクだけど、見つかったら面倒だね。
階段に向かって走りながらゴブリンロードに向けて『ファイアⅠ』を全魔力を込めて撃った。
いつものⅣ相当のものよりも更に大きな火球が私を隠しつつ部屋を照らす。
辛うじて私の姿を見られる前に階段に駆け込むことができた。
でも、この先の空間にも魔物がいる。
セシリー達はまだ下みたいだね。光の感じから空間の壁側に張り付いてる? 囲まれないようにしてるのかな。
さっきの階のオーガエンペラーはAランク。
正直ここが私の身の丈に合ってないのを痛感してる。さっき倒せたのはたまたま。
この先もあんな魔物がいるかもしれない。
とにかく慎重に。
『空間把握』と『インスニ』と『麻痺』の短剣の組み合わせで倒せる相手だけは倒しておこう。
さっき倒せたのもこれらのおかげ。Aランクを倒せたからものすごい勢いでレベルが上がった。
っていうかまだ鳴り続けてる。これ、100以上一気に上がったんじゃないかな。
レベル1000を超えたらもしかしたらまたステータスが解放されて戦えるようになるかもしれないけど、さすがに当てにはできないね。
『空間把握』は意識しなくても使えるみたいだけど、集中すればはっきりわかるみたい。
下の階にいる魔物に意識を向けて階段を降りて行った。
お読みいただきありがとうございます。
次回、合流。




