第四十一話 『ダンジョン』の魔物
「では、現在10のダンジョンが確認されているが、そのうち記録が残っているのが5つ。その中でも二つは生まれた瞬間が目撃されている。その話をしよう」
騎士団団長のレオンさんが『ダンジョン』について話してくれる。
クリムはそれを確認するように一緒に聞いてるよ。
「生まれた瞬間?」
「ああ、一目で異常とわかるものだ。『ダンジョン』には山や洞窟、地下道など初見ではわからない、目立たないものがほとんどだが、明らかな建造物も存在する」
「建造物!?」
「『フォーグの塔』と呼ばれるダンジョンがそうだ。50階層から成る巨大な塔になっていて、それが突然現れたそうだ。これは当時のフォーグという国で多数の目撃の記録が残っていたようだ」
「フォーグ……地図にはありませんね。今は違う国なんですか?」
「この大陸の南東、現在のクレセント王国にあたる」
「あ……ここか」
確かに地図にも載ってる。
「そして、もう一つは大陸の中央、迷宮都市にある最古のダンジョン、『トルナ地下大迷宮』だ。名前くらいは聞いたことがあるだろう? これも建造物だと予想されている」
うん。迷宮都市自体は有名だからね。
迷宮ダンジョンがあることくらいしかわからないけど。
「地下なのに目撃されたんですか?」
「ここは少し違う。元々そこにはトルナ王国という国の王都があったが、その瞬間、そこにあった王都が丸ごと消えたそうだ。ダンジョンが目撃されたわけではない」
「王都が!? そこにいた人は!?」
「ダンジョンの上、つまり元いた場所にそのままいた、と記録には残っている」
ほっ。もし私が本当に特別で『ダンジョン』が生まれるところに遭遇するっていうのならちょっと怖かった。
「よかった……」
でも、消えた王都はどこに行っちゃったんだろう。
たぶん聞いてもわからないよね。最古のっていうことは1000年前の話なんだろうし……。
「だが、これはダンジョンが地下にあったから地上に残っただけなのか、地上にダンジョンが生まれても外に出されるのかはわからない」
「あ……もしかしたらいきなりダンジョンの中っていうこともあり得るんですね」
「可能性の話だが、ないとは言えない。だから伝えておきたかったのだ」
「ありがとうございます。知らないと……パニックになっちゃうところですね」
「もう一つ。最近気になる情報が入っている」
「最近?」
「『ダンジョン』で行方不明者が出た」
「え? 行方不明っておかしくないですか?」
『ダンジョン』はソロでの侵入が禁止されてるっていうのはオババから聞いた。
だから必ず誰かが一緒だし、全滅したのなら別のパーティが確認するだろうし、そう伝わるはず。
「とあるパーティがダンジョンから帰還する際、『転移』を使用しようとした。だが、術者だけが消えてしまい、他のメンバーはそこに残されたらしい」
「それってまさか……」
「安心していい……というのも不謹慎な言い方だが、『夕暮れの空』ではない」
「よかった……あっ、ダメですね。そんなこと言っちゃ」
「身内なのだからそう思うのが普通だ。その行方不明者は現在捜索中になっている。他国のことではあるが、そのパーティは各地を旅していたらしく、こちらにも情報提供の依頼が来た。行ったことのあるどこかに転移してしまった可能性もあるから、と」
「なるほど……」
「ああ、それよりも何が言いたいかというと、『ダンジョン』では『転移』は使わないように、ということだ」
「まだ使えませんけどね」
「だが、使えるようになる見込みがあるのだろう? 頭の片隅に入れておいてくれ」
「わかりました」
この人はどこまで【すっぴん】を知ってるんだろう。
今日の模擬戦で予想したのかもしれないけど。私がスキルで魔力を回復させてる話は聞いてないはずだもんね。
「それと……フィルナはダンジョン内の魔物については詳しくはなさそうだな?」
「そうですね。それもお願いします」
「そうだな……クリム、話してやれ」
そう言ってレオンさんにも出された紅茶を飲む。
話し続けるのは大変だもんね。
それにクリムもそう言われるのを待ってたみたい。
「わかりました。それじゃ、私から話すね」
「うん、よろしく」
「私が行ったことがあるのはこの国の北にある山のダンジョンなんだけど、他もだいたい同じだと思って聞いて」
「わかった」
「『ダンジョン』内の魔物は基本的に強い魔物単体かそれと同等の群れのどちらかに分かれるわ」
「同等?」
「うん。普通の魔物にも縄張り争いというか、生存競争みたいなものがあって、棲み分けしてるのは知ってる?」
「ええっと……弱い魔物は強い魔物に近付かない、みたいなやつ?」
王都を出て入った森でも主の近くにはほぼ魔物はいなかったんだよね。
「そうそう。ただ、ダンジョンでは少し違って、結構な数が集まってるせいか魔物同士でも争ってることがあるみたいなの」
「つまり弱い魔物でも強い魔物に対抗できるようにしてるってこと?」
「うん。だからダンジョンの中にいるのはそういう競争に勝った魔物。一筋縄じゃいかないわ。でも、それを放置すればそういう魔物がどんどん増えてしまうの」
「スタンピードが起きるくらいに?」
「それは末期。争いすらできないくらいに増えてしまった場合に起こるの。だからスタンピードはむしろ弱い魔物が飛び出してくるわ」
「あれが弱い魔物……」
「弱いと言っても魔物だからね。普通の人には対抗できないわ。それが大量に押し寄せてきちゃうから村レベルではどうにもならなかったでしょうね……」
「うん……」
「あ、ごめん」
「ううん。私が聞いたことだから。続けて?」
「わかった。同等とは言ったけど、こちらとしては群れはパーティならなんとかなるわ。問題は単体で強い魔物」
「あのオークジェネラルやサンダードラゴンみたいな……?」
「圧倒的な力を持つ魔物を犠牲なしに倒すことは難しい。そういう魔物が群れに手を出さないのは単に手傷を負いたくないから……と言われているわ。そこに残る群れるような魔物は毒とか厄介な能力を持っていることがあるからね」
「逆にそういう攻撃手段が強い魔物にも有効ってことだよね?」
「一方的に攻撃できるならね」
「あ、だから犠牲が……」
「そう。群れの方が突っかからないのも結局は戦力が落ちて他の魔物にやられるのがわかっているから。これも予想だけどね。魔物にそこまでの判断能力があるかは未だに議論がされてるわ」
「それでも弱い魔物が倒されてるって事実はあるんだよね」
「近い話だと、例えば……【テイマー】の『使役』の成功率が本人のステータスに依存するっていう話は知ってる?」
「んーん。初めて聞いた。それが本当なら魔物に相手を判断する力があるってことになりそうだけど……」
「【テイマー】の使役する能力次第、っていう意見もあるのよ」
【テイマー】が『使役』できるかどうか、なのか魔物が従うかどうかだったら後者な気がする。
リューさんと従魔のドラゴンとの間にはお互いに信頼関係があったように見えたもん。
「うーん……そうかなぁ?」
「ふふ、私もフィルナと同意見よ。戦っていて不利だと思ったら逃げ出す魔物もいるでしょう?」
「私はまだないけど……『夕暮れの空』も取り逃がしたことがあるって話は聞いた」
「私は判断能力というほどしっかりしたものじゃなくて、動物と同じ行動原理があるんだと思ってる」
「うん。それは確かにしっくりくるね」
「俺もそうだと思う。というか、他の意見は魔物と直接戦ったことのない者の考えだ」
レオンさんも話に加わってきたよ。
「ともかく、私みたいな人間が一人で『ダンジョン』に入ってしまったら間違いなく襲われるっていうことはわかりました」
「フィルナだけじゃなく、人間は襲われる傾向があるからね」
「ああ。だから万が一『ダンジョン』に取り込まれるようなことに陥った場合は、まず安全地帯を確保しろ」
「安全地帯?」
「魔物が寄ってこない場所があるの。あ、さっき団長が言った迷宮は例外ね。迷宮には寄ってはくるんだけど広い分あまり魔物が出てこない場所があるわ」
「なるほど……その安全地帯を自力で作ったりとかはできないのかな?」
「うーん……さすがに聞いたことはないね。でも、例えば壁に穴を開けたりして逃げ込むのはアリね」
「大型の強い魔物が入れず、群れる魔物が一匹ずつしか通れないのが理想だな」
「あれ? それって安全地帯じゃない?」
「ううん、通れる魔物は襲ってくるからね。安全地帯っていうのはそれすらないの」
「ってことは魔物の動きを見てたらわかるのかな?」
「そうだ。不自然に避ける場所がわかるはずだ。その大きさは場所によって異なる。広い空間だったり人一人が限界だったりな」
「後者を見つけるのは難しそうですね」
「うん。見つけられたらラッキーくらいに思っておいて」
まぁ、『インスニ』あるからなんとかなるかな? あ、でも匂いは消せないんだっけ。
こういう話はオババからも聞いてないしありがたいよ。
「わかった」
「まぁ、『ダンジョン』に遭遇すると決まったわけではない。既存の『ダンジョン』に入る際の知識として知っておいてくれればいい」
「はい。ありがとうございました」
一通り『ダンジョン』について教えてもらって、レオンさんは自分の部屋に戻っていったよ。
お読みいただきありがとうございます。
『ダンジョン』についてはもう少し先の予定ですが話してくれる人がここにしかいませんでした。
次回、出国。




