第四十話 『ダンジョン』
「なるほど、加護か。それを先に言えっていうのは無理な話ね」
私の強すぎる魔法についてクリムさんに説明したら割とすんなり納得してくれたよ。
「ごめんなさい、テンション上がっちゃって」
「うん。もう少し周りを気にしてほしかったかな」
「え?」
「窓の外を見てごらん」
「窓……? うわっ!」
さっきまで訓練してた兵士さん達が集まって来てたよ。
「もしかして……助けてくれた……?」
「まぁ、あのままあそこにいたら、もみくちゃにされただろうね」
そう言いながら窓の方に向かう。
「さあ、訓練に戻りなさい!」
クリムさんに一喝されて兵士さん達は戻っていったよ。
「ありがとう、クリムさん」
「うーん、むず痒いわね。クリムでいいよ。それで……その……」
「ん?」
「私と……ゆ、友人になってくれないだろうか」
「ええっ!?」
驚いたけど、もじもじしながら不器用にそう言うクリムさん──ううん、クリムはめちゃくちゃ可愛い。
「フィルナのように話してくれる年の近い女性は初めてなんだよ……」
確かに先に普通に話したフィーアさんはああ見えてさんじゅ……はっ! なんだかこれ以上言っちゃいけない気がする!
「私でよければ! もちろんいいよ!」
「本当!? よかった……」
「あっ……でも……」
「えっ? な、なに?」
「私、ここを出たら国も出ちゃうんだ……」
「なんだ、そんなこと。また会ったときに友達として接してくれなくなるわけじゃないんでしょう?」
「そんなことしないよっ!」
「ふふっ、ありがとう。それだけで十分。何日かは泊まって行くんでしょ?」
「うん。せっかく友達になったのにもうさよならなんてもったいないもんね」
「ねぇ、私が泊まる宿、ベッドが空いてるんだけど一緒にどう?」
「えっ。それって騎士団でとってる部屋じゃないの?」
「うん。だから内緒で──」
「誰に内緒にするんだ?」
ふぇっ!?
「だ、団長! 聞いてたんですか!?」
いつの間にかあのイケメン団長、レオンさんがいたよ!
っていうか、レオンさんも来てたんだね。
「フッ、あの『鉄の魔女』に友達か……」
「い、いけませんか?」
「いや、良かったと思ってな。成人の儀直後から騎士団に呼び、ずっと訓練漬けにしてしまったのは俺だからな」
えっ、クリムが成人したときには既に団長だったってこと?
レオンさんってめちゃくちゃ若く見えるんだけど……いったい何歳なんだろ。
「団長……。ですが、私はそのおかげで副団長という今の立場にまで駆け上がれました。全ては団長が団長としていてくれたからです」
「そうか。だが、こうして力を抜ける相手がいるというのも大事だ」
「それは団長にもいらっしゃる……のでしょうか……?」
おや? クリム?
「残念ながら俺にはいないな。だから余計にわかってしまうんだ」
「クリム、チャンスだよ!」
「えっ、ちょっとフィルナ! なにを言って──」
「はっはっ、面白いな君は」
おおっ、笑うと破壊力がとんでもないね。でも、これは……。
「そうでしょう。私で誤魔化したくなるくらいに」
「──っ! 君は……」
「えっ……?」
「ちょっと二人でお話ししてみてはどうでしょう?」
「そう……だな。クリム、明後日の休み、時間取れるか?」
「は、はい!」
「あれ、なんならこれから私席を外しますよ?」
「いや、国を出るという君の耳に入れておきたい話がある」
「私に?」
「実はここに来たのは君に会うためだ」
「えっ? 団長、それは本当ですか?」
私もびっくりしたけど、クリムも聞かされてなかったんだ。
「君の知り合いの彼。いやそれ以上の間柄か。彼と関わりの深い者は特別なことが多い。だから君の行き先をマチルダさんに教えてもらい、通るだろうここで来るのを待っていた」
「そんな……私が……?」
確かに加護を貰ったりしてるけど……。
「そして先程の模擬戦に今の洞察力。間違いないと、話しておくべきだと判断した」
ああ、模擬戦も見られてたんだ。
「もしや、団長……あの件を……?」
「あの件?」
「君……フィルナだったか。『ダンジョン』について聞いたことは?」
それはオババから聞いてる。だけど……。
「世間的に知られていることくらいだけですけど……」
「そうか、なら『ダンジョン』がどのように生まれるか知っているか?」
「えっ? 『ダンジョン』が生まれる……?」
「ああ。これは公表されていないし、残っている記録も少ないのだが、『ダンジョン』は約1000年前から100年毎に増えていると推測されている」
「それって……」
「もちろん他国も含まれる。消失してしまったりして開示されていない記録もあるが、それも考慮した上での推測だ」
「つまり、次の100年目が近い、ってことですか?」
「話が早くて助かる。その通りだ。だが、場所に関しては全く予想もできていない」
「なるほど……。でも、なぜそれを私に?」
「それが先程言った、『特別』が関係している」
「フィルナがそれに遭遇する可能性がある、と?」
「えっ?」
「ああ。そうと決まったわけではないが、気をつけてほしい」
「わ、わかりました」
「もし新たな『ダンジョン』を見つけたら、早急に近隣のギルドに報告を。すぐに魔物の殲滅、あるいは間引きが必要になる」
確認されてる『ダンジョン』の場所は今の地図には載ってるからそれと違う場所ならたぶんわかるはず。
「はい。……あの、魔物ってそんなに増えるんですか?」
「どういうわけか常に湧いてくる。そしてそれが放置されて一度溢れ出すと、基本的にダンジョンの中から動かない魔物が人の住む場所を目指し出してスタンピードが起こってしまうのだ」
「!! スタンピード……」
「最近だと10年ほど前にオルフェ国で内乱が起きた際、『ダンジョン』内の間引きが疎かになり村が一つ消える程のスタンピードが起きている」
「それって……『夕暮れの空』が……?」
「知っていたか。オルフェに立ち寄った際に内乱に巻き込まれるのを避けようとして王都を離れた時、偶然遭遇したらしい」
「そっか……あれ……『ダンジョン』から……っ……」
あ、あれ……? 立てない……どうしよう……震えが……止まんない……。
「フィルナ! 大丈夫!?」
「おい、どうした!?」
そのまま目の前が真っ暗になった──。
「あれ……私…………」
知らない天井だ……。
「フィルナ! 気が付いた!?」
「クリム……? ここは……?」
広い部屋。ベッドだけじゃなくてリビングみたいなテーブルもある。
「私が泊まってる宿の部屋。安心して」
「そっか、結局お世話になっちゃったね」
「いいの。気にしないで。それより起きて平気なの?」
「うん。もう大丈夫」
ベッドの上で体を起こす。
「団長も心配してたから、目を覚ましたって伝えてくるね」
「わかった」
「もう平気なのか?」
「はい、ご心配おかけしました」
レオンさんはわざわざ部屋まで様子を見に来てくれたよ。
「急に震え出したから驚いたわ」
「は、はは……」
「君は……もしやあのスタンピードの生き残りか?」
「はい」
「そうだったの……」
「すまない。無神経だったな」
「いえ、誰にも言ってないことですし」
この国で知ってるのはオババくらいかな。それも私が言ったわけじゃないけど。
だからオババも話したりはしなかったんだと思う。
「だが、それを聞いて確信した。やはり君には何かがある。一人になるときは十分注意してくれ」
「わかりました。あの……私、旅に出るまで私のいた村の近くに『ダンジョン』があったなんて知らなかったんです。誰も村から出ないし、「外に出ちゃいけない」ってずっと言われてたので」
「なるほど。大人だけが把握していたんだろう」
「今思えばそうだったんでしょうね。そして、アカツキから貰った地図がこれです」
「これは……手書きの地図?」
「うん。アカツキ達が訪れた場所が書き込まれてるの」
故郷の後はそれを辿るつもりだったんだ。
「オルフェの『ダンジョン』が載っていないな」
「そうなんです。この国のモンパレのこともそうでしたけど、私にスタンピードを思い出させるようなことを隠してくれてたんだと思います」
『ダンジョン』のことを話してくれたオババもスタンピードのことは教えてくれなかった。レオンさんの話を聞いた感じだと、オババなら知ってたよね。
それによくよく考えたら、話してくれたのは仕組みだけでどこにどんな『ダンジョン』があるかは聞いてない。
「そうか……すまなかった」
「いえ、それはいいんです。アカツキ達もいずれは知ることだとわかっているでしょうし。むしろ、私は『ダンジョン』のことをもっと知りたい。『ダンジョン』がどう生まれるかっていう話、聞かせてください!」
知らなきゃいけない、そんな気がするの。
「わかった。クリム、彼女に何か飲み物を」
一気に話して喉が渇いてたことに言われて初めて気付いた。
「はい。フィルナ、ちょっと待っててね」
「ありがとう」
クリムが紅茶を用意してくれて、テーブルに座り直して話を聞くことにした。
お読みいただきありがとうございます。
次回は続きの話になりますが、サブタイは未定。




