第三十九話 魔法の訓練
「申し訳ない、取り乱した」
キラキラした目で願望を露わにしてたクリムさんが我に返ったよ。
「ふふっ、大丈夫。クリムさんの意外な一面が見れて面白かったです。ルミ姉さんがそんな風に見られてるのはちょっと驚いたけど」
「ルミ姉さん……か、いいな」
ルミ姉さんのことになると人が変わって面白い……というか、可愛いね、クリムさん。
そんなクリムさんの話もしたいけど、ちょっとさっきから気になってることがあるの。
「あの訓練のこと聞いてもいいかな?」
右側の模擬戦なんだけど、普通に魔法を撃ち合ってるように見えるんだよね。
それで怪我とかしてる感じはないし、どうやってるんだろ。
「ああ、あれが気になるんだ」
「あれって魔法を撃ち合ってる……よね?」
「そう見えますが、あれは『映像』の魔道具を使った擬似魔法です」
あら、説明始めたら口調が戻っちゃった。
まぁ、慣れてるからだろうね。それより気になることを聞こうかな。
「『映像』? それは知ってるけど……こんな使い方……」
『映像』は実体のない偽物の姿を見せたりして撹乱する支援魔法。
でも擬似魔法なんて聞いたことないよ。
「私も研究者ではないので詳しい仕組みはわかりませんが、あの魔道具は使用しようとする魔法を無効化して擬似魔法として撃ち出すことができます」
「魔法を無効化って……」
「はい、元は魔法使いの犯罪者に使用されるものの流用です」
だから口調が堅くなっちゃったのか。
「そんな話を聞いちゃってよかったの?」
「ええ、これはむしろ画期的なものだと考えます。実際の魔法と同じものが出るのに被弾しても無害。これほど魔法の訓練に向いた魔道具はありません」
「普通は人に向かって魔法なんて撃てないもんね」
「以前は的に向かって撃つだけだったし、こうして避ける相手に思う存分撃てるのはありがたいよ」
あ、また変わった。
「どれだけ撃ったかで精度が段違いだもんね」
だから私も早く『魔力制御』を覚えたいの。強すぎて場所と状況を選んじゃうから全然撃ててないからね。
「そう。前回のモンパレでサンダーを使いこなせる者がもっといれば、と痛感したわ」
「雨が降り出してファイアが使えなくなっちゃったんだよね」
「あれだけオークがいたらファイアが一番よかったんだけどね」
「ねぇ、あれ、私も使ってみたい!」
実はさっきから擬似魔法だったら私の魔法がどうなるか試したくて期待しちゃってるんだよね。
「いいよ。私とやろうか」
「えっ、ほんと!?」
「うん。ちょっと待ってて。二つ借りてくるわ」
そう言ってクリムさんは建物の中に入っていった。
そして、なぜかユーヤ達を引き連れて戻ってきた。
「私がフィルナと模擬戦するって言ったら「見たい」って言い出したんだけど……いいよね?」
「もちろん!」
「じゃあ、これを付けて。あ、支援するなら先に掛けないと無効化されちゃうからね」
「あ、そっか。じゃあ『加速』っと。首に着ければいい?」
パッと見鍵がないだけで奴隷の首輪とほとんどおんなじ。
──って、あれ? 反応がない。
「そういえばフィルナの職業って……?」
あ、そういえば言ってないや。普通に支援魔法使ったけど、模擬戦するなら攻撃魔法を使うと思ってたよね。
腰に片手剣と短剣も装備してるし、どう見ても普通じゃなかったよ。
「私は【すっぴん】。今は初級魔法なら一通り使えるよ」
「そう……なんだ……【すっぴん】……」
困惑してるね。それもそうだよね。
「まぁ、とりあえずやってみようよ」
「あ、ああ」
初めて魔法を使ったときみたいに自分がワクワクしてるのがわかる。
早く擬似魔法っていうのを使いたい。
訓練をしてる兵士さん達から少し離れた場所にクリムさんと距離を取って立つ。
「ちょっと試しに一発いい?」
「どうぞ」
「よーし、『ファイアⅠ』!」
小さな火球の『映像』がクリムさんに向かって飛んでいく。
「おお、普通の『ファイアⅠ』だ」
「フィルナ、『映像』は元の魔法と同じようにこうやって人に当たると消えるから。なるべく『映像』を消さないように避けるのも訓練だよ」
私の放った『ファイアⅠ』はクリムさんに当たって消えた。
それにしても……魔法が無効化される感覚っていうのがなんとなくわかる気がする。
それに自分の魔力が魔法にならないせいか魔力の動きもわかる感じ。
これ、いいかも。どんどん撃ってみよう。
「わかった! よろしくお願いします!」
「よろしく!」
お互いに一礼して構える。
私は今回は素手。
クリムさんの武器は木のロッドだね。ただの木じゃない感じがする。
よーし、一通りの初級攻撃魔法を試すよ!
クリムさんも同じみたいでお互い色んな魔法を撃ち合う。
でも、やっぱりクリムさんは凄い。全然当たらないよ。
それにこっちは当たってばかり。
当たるとすれば……発動から着弾までが一番早い『サンダーⅠ』!
くそう、狙ったところに落ちない!
「対人でサンダーが有効だと気付いたのはいいね。でも、狙ったところに当たらなきゃ意味がないわよ」
「ううー経験不足だなぁ」
サンダーはなかなか難しいね。でも、ちょっとずつクリムさんに近付いてきてるよ!
しばらくサンダーだけ使い続けてようやく一発当たった。
クリムさんも私に合わせて動かずに私が同じ場所に留まらないようにだけ魔法を撃ってくれてたよ。
「あ、当たったぁ……」
(「『魔力制御』を習得しました」)
おお! でも、さすがに進化はないか。
(「『魔法無効』を習得しました。加護により『魔法吸収』に進化しました」)
まさかのスキル。これってなんの職業のスキルだろ?
あれ? ちょっと待って。これ支援魔法大丈夫だよね?
『加速』まで吸収されちゃったら困るんだけど。
これがあってもクリムさんには当てられまくったのに。
「お疲れ様でした。まさかこんなに早く当てられるとは思ってなかったよ。それにフィルナはかなりの魔力を持っているようですね」
「ありがとうございました! でも、魔法がたくさん撃てたのは回復するスキルを持ってただけで私の魔力は8しかないの」
「は?」
「でも、いっぱい撃ったおかげで『魔力制御』を覚えられたし、ようやく普通の魔法が撃てるようになるよ」
「はあっ!?」
「ねぇ、魔法を当てても平気な的ってないかな?」
早く、早くこれも試したい!
「え、ええ……あっちの的には対魔法防御強化を掛けてあるわ」
鎧を着た案山子みたいな的を指差すクリムさん。
動揺してるんだけど、このときの私は興奮で全然クリムさんが見えてなかったよ。
「よーし、まずはいつもの感覚で……『ファイアⅠ』!」
いつものⅣ相当のファイアが的にぶつかって消えた。
「は? え? ちょっとフィルナ……」
「次は……限界まで魔力を抑えて……『ファイアⅠ』!」
さっきの擬似魔法で撃った『ファイアⅠ』より一回り大きな火球が的にぶつかる。
「あれ?」
思ったより大きい火球になっちゃった。
でもまぁ、これならまだ使える範囲内かな。
「ん?」
「フィルナ、キッチリ説明してもらうわよ。ほら、中へ」
真顔のクリムさんに捕まって兵舎の中に連れて行かれちゃった。
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次回、ダンジョン。




