第四話 冒険者
ギルドに来るのはアカツキ達と王都に来た時以来だなぁ。
あの時はただ付いてきただけだったけど、今日は私が冒険者として生きていく最初の一歩。
どれだけ歩いて行くことになるかわからないけど……【すっぴん】だから歩くの遅いかもしれないけど、まずは一歩、踏み出さないとね。
「いらっしゃい……今日はどのような御用件ですか?」
あっ、この受付のお姉さん見たことある……かも?
さすがに被り物見てちょっと引いてる……?
「あ、すいません、登録お願いします」
声を出したら安心してくれた……っぽい?
「はい。ではお名前と職業を──」
「【すっぴん】のフィルナです」
「この紙に……って、わかりました。職業はあまり大きな声で言わない方がいいですよ」
ああっ! やっちゃった! お姉さんもクスクス笑ってる。
「き、気を付けます」
「はい。……ところでフィルナさんってもしかして……よければお顔を見せて頂けませんか? ああ、これは強制ではないですよ」
お姉さんだけなら……いいかな?
私は顎から指を入れて被り物を目の上まで捲った。
「やっぱりあの時の。アカツキさんから伺ってますよ。「いつか登録に来るから」って」
私が見覚えあったのも初めて来た時に会ってたのかな? もしかしてニキビの子って覚えられてた? それはちょっと恥ずかしい……。
それにしてもアカツキわざわざギルドに私のこと伝えてたんだ……。ふふっ、なんか嬉しい。
「ええっと……よ、よろしくお願いします」
「お任せください。では、冒険者について説明しますね」
「は、はい!」
「まず、冒険者というのはこの大陸共通のライセンスになっていますので登録証はそのまま身分証として使用できます。他国に入る場合、入国料も免除されます」
「免除!」
「はい。ですが、1年以上クエスト達成の履歴がないと失効しますのでご注意を」
あ、だからここに来る道中でもアカツキ達は時々クエスト受けてたんだ。
「それってすぐにわかるんですか?」
「ライセンスにクエスト受注と達成をギルドの魔道具で書き込みますので見ればわかるようになっています。当然ながら改竄は即失効です。すぐにバレますから絶対にしないように」
「わ、わかりました」
「クエストはあちらのボードから選んでここに剥がして持ってきてください。それで受注成立です。常設クエストに関しては受注は不要ですので達成報告だけで構いません。条件を満たしていれば常設クエストのみ複数同時達成が認められますが、通常のクエストは一つずつ受注となります」
「簡単なものでもダメなんですか?」
「そうやって簡単だと油断する人が絶えないんですよ。どんなクエストでも気を抜かずに一つずつ、しっかりとこなしてください」
「う……すみません」
「『夕暮れの空』のような高ランクになればこちらから複数をまとめて依頼することもあります。つまりギルドに信用されるよう頑張ってください、ということです」
「はい、わかりました」
「良い返事です。では、これが貴女のライセンスになります。始めはFランクから。昇格には試験があり、条件を満たしたらこちらから提案します」
「その条件って?」
「Fランクは10回以上のクエスト達成と、1回以上の討伐クエスト達成が条件です。それ以降は非公開となっておりますのでご了承ください」
「え? 非公開?」
「受注の偏りを避ける為です。わかっているとみんなそればかり受注してしまうでしょう?」
「なるほどー、確かに」
「受注できるクエストはソロや三人以下のパーティなら同ランク、四人以上のパーティならワンランク上のクエストまで受注できます。ちなみにパーティはギルドに申請が必要で、パーティのランクは一番低いメンバーのものになるのでご注意ください」
「申請がいるんですね」
「低ランクを勝手に連れて行ったり、助けて貰ったりしたのに報酬を渡さないっていうことがあるんですよ。報酬を受け取る正当性をしっかり示しておけばギルドは味方ですが、それ以外は当事者でなんとかするしかありませんので、緊急時以外他のパーティのクエストに手を出さないよう気をつけてくださいね。よっぽど他に目撃証言などがあったりしない限り、パーティ申請されていない人を擁護することはできませんので」
「わかりました」
そろそろ覚えきれないよ……。
「ふふ、ほかにわからないことがあったら都度聞いてください。さっそくクエストを受けますか?」
「えっと、薬草採取ってありますか?」
「はい。それなら常設クエストです。受注は不要ですね。5本一束で50ギルの報酬になります」
うちの宿が一泊200ギルだから四束で一泊分ね。あれ? 常設の割に結構高額?
「報酬多くないですか?」
「実は結構備蓄が減ってまして。薬草は一つの群生地で採れる数も限られてますし、毎日そこで採れるわけでもありませんから。それに討伐の方が割りが良くてあまりやってくれる人がいないんですよ」
「結構割りはいいと思うんですけど……」
「この辺りの薬草の群生地は王都に近くて魔物が少ないので経験値が得にくいんですよ」
「ああ、なるほど。そっちの割りですか」
でも、それって私には好都合かな。さすがに魔物とはまだ本格的には戦えないもんね。
それにモンパレが数年後に迫ってるのに薬草の備蓄が減ってるなら確かに報酬増やしてでも集めたいよね。
それでもやる人は少ないんだ……よし、私が頑張ろう。
「そういうことです。でも、薬草採取が安全といっても"比較的"ですからね。十分気を付けてください。それと、薬草はわかりますか?」
「はい、オババのところで教わってます」
「ああ、あの人の。なら安心です。では、改めて気を付けて行ってらっしゃい」
すごい。オババって言っただけで信頼されてる。これがギルドの信用を得るってことなんだ。
「ありがとう。行ってきます」
そう言って出口に向かったところで大男が私の前に立ち塞がった。
すごい大きな人。見上げないと顔が見れない。
「おいおい、【すっぴん】が冒険者なんてふざけてんのか!?」
怒鳴られてちょっとビックリしたけど、すぐにアカツキの言葉を思い出した。
(冒険者同士であんまり敬語は使うなよ。それと、言いたいことはしっかり言うんだ。遠慮ばっかしてっと伸びねぇぞ)
そうだよね。アカツキ、ありがと。
「別にふざけてないけど」
「ああ!?」
「冒険者に職業の指定はないでしょ。それに受付のお姉さんもちゃんとライセンスを発行してくれたわ」
「そこじゃねぇ。身分証代わりに登録するやつはいるからな。お前はクエストを受ける気なんだろ? それが無謀だっつってんだよ!」
「私は自分のことくらいわかってる。だから討伐クエストなんて受ける気はないわ。まだ死にたくないしね」
「ヒュー! やるねぇ。ゴッツに言い返すなんてなぁ」
唐突に横から割り込まれた。目の前の男がゴッツっていうのね。
「おい、ラース」
「ああ、お嬢ちゃん、気を悪くしないでやってくれ。こいつは善意でやってんだ」
「ええっ?」
「すぐ大怪我するバカが多いせいだろうが」
なるほど、成人が20歳になっても無謀な人は多いんだ。
だから強く言ってでも無茶しないように脅しをかけてた、ってことね。
なんだ、いい人じゃん。
「ふふっ、私はしばらく薬草採取をやります。それでも気を付けますね」
「なんだ、さっきと随分雰囲気が変わったな」
「そりゃ、ゴッツがそんなイカつい顔で怒鳴るからだろ?」
「るっせぇ!」
「い、いってきまーす」
巻き込まれると面倒そうだから私はそそくさとギルドを後にした。
お読みいただきありがとうございます。
次回は初めての外。