第三十八話 思いがけない再会
「ん? なんか様子が変やな」
防衛拠点プロテアの北門手前で一旦馬車を止めて、閉じられた門を見たセルイドさんが首を傾げてる。
「あれ? そういえば昔見たときは門はどこも開いてたような……」
「せや。ワイも閉まっとるのは初めて見るわ」
「何かあったのかしら? まさか戦争とか!?」
「えっ、クイナ怖いこと言わないでよ」
「ないない。南のバルゥームとは平和そのもんや。たぶんこれは外に向けてやない」
「わかんねぇけど、行ってみようぜ。この荷物はここに必要なもんだし入れてくれるだろ?」
「ツカサの言う通りやな。ワイは向こうから注文受けて来たんやし問題ないやろ。ほな、行こうか」
「うん。たぶん大丈夫だよね」
そう言って荷馬車を門の前まで進めると門衛二人に止められる。
「アキンドからの補給物資だな?」
「せや。今日は門閉めてどないしたんでっか?」
「いや、それがな……」
「騎士団の視察だよ。本来門は開けっ放しにするもんじゃないからな。あの方々がいる間は閉じてるんだ」
「ああ、そういう……」
「視察っていうか、慰労らしいけどな。それでもちゃんとしてるところを見せないとってうちの兵長が張り切ってて、門まで閉じちまったんだ」
「視察とか慰労って初めてじゃないんでしょ?」
「新任の兵長なんだが見栄っ張りなんだよ。もしかしたら騎士団の目に留まって徴用されるかもって、あるわけないのにな」
「うーん、どっちもどっちかなぁ。騎士団が来るならビシッとしたくなるだろうし」
団長のレオンさんとかいたら私でもいいとこ見せたくなっちゃうもん。イケメンだし。
「まぁ、みんな引き締まってるのは確かだな。だからそういうとこはわからんでもない」
「ま、とりあえず入れるんやろ? ワイは頼まれたもん届けれるんならそれでええわ」
「ああ、今開ける」
ガコンッと音を立てて、門の片側だけが開く。
「おーきに」
セルイドさんは門衛二人に片手を上げてお礼を言って馬を進ませた。
「えーっと、とりあえず先にギルドで報告でいいのかな?」
「そうやな。そこで報酬も払うから後は宿を取るなり好きにしてええで」
「じゃあ、セルイドさんについていっていい?」
「ん? それまたなんでや?」
「私、兵舎って初めてだから見てみたいんだ」
昔はここも宿に泊まるだけでほぼ素通りだったしね。
「別にええけど、特になんもないで?」
「ただの興味本位だから」
「な、なぁ! 俺たちも一緒に行っていいか?」
「ユーヤ達も?」
「ほら、あたし達この国の全部を見たいって言ったでしょ?」
「こういうところも見たいんです」
「もしかしたら訓練に参加させてもらえたりするかもしれないからな」
「ええでええで。ほんならギルド寄ったらみんなで行こか」
「「ありがとうございます!」」
おお、ユーヤやツカサが素直にお礼を言うのは珍しいね。
兵士とかに興味があるって、やっぱり男の子なんだなぁ。
一瞬私に付いて来たいんだと思っちゃったよ。ごめんね。
……って反省したけど、ユーヤの視線がこっちに向いてたよ。
それも可愛いからいいんだけどね。
ギルドで報告と道中で倒した魔物の素材と魔石を買い取って貰って、セルイドさんからも報酬を受け取ったよ。
報酬は一人1000ギル。ルルのが破格だっただけで護衛任務としてはこれくらいが普通。
というか、あれは元々私があげたお金だしね。
ちなみに提出した魔石は五種類。Cランクまではあと十種類だよ。
「ほな、兵舎はすぐそこや。行くでー」
「はーい!」
ほんとにすぐ近く。っていうか、ずっと見えてた壁がそうだったよ。
お城ほどじゃないけど、それなりに頑丈そうな塀に囲まれた敷地に入ると、まず目に入ってきたのは訓練場。
正門から建物までの石畳で左右に分かれて訓練してた。
左が近接系、右が魔法系だね。
防衛拠点だけあって対人戦を想定してるみたいで、それぞれペアになって模擬戦をしてる。
って、あれは……!
「クリムさん!」
「! ああ、貴方は……フィルナ、でしたか?」
魔法系の方で訓練を見守ってたのはモンパレのときに会った騎士団の魔法部隊隊長、クリムさんだったよ。
今日はフードを被ってないから綺麗なピンク色の波打つような髪がしっかり見えてる。
それにフィーアさんに負けず劣らずの美人さん。
「そうです! 覚えてて貰えて嬉しいです!」
「フフッ、ソレを忘れるわけがありません」
あ、被り物。確かにコレで覚えてくれてる人は多いだろうなぁ。
「すごいなフィルナさん、副団長さんと知り合いやったんか」
「副団長?」
「そういえば、あの時は魔法部隊の隊長としてしか挨拶していませんでしたね。タイクーン王国騎士団副団長、クリム・ワーナードです」
あの肘を張って胸を突くかっこいい敬礼で名乗ってくれたよ。
それに苗字持ち! 貴族様だったよ!
「ご、ごめんなさい! 気安く声を掛けてしまって! 私はフィルナと申しましゅ!」
かんだ。
「ぷっ……どうかそんなに堅くならないで。苗字があるといっても準男爵だから。苗字を持っただけの平民だよ。あの時のフィーアのように軽く話してくれて構わない」
き、貴族様じゃ……ないの?
「ええっ、い、いいんですか?」
「私が堅いのはずっと騎士団にいるからなんだ。気安く話せる相手がいなくてね……」
「は……うん、わかった」
もしかして、普通に話せる相手が欲しいのかな?
私より年上だろうけど、まだ30いってないくらいかな。
それでずっと堅苦しいのは私だったらキツいかも。
「二人はゆっくり話しててな。ワイは荷物届けてくるわ」
「あ、うん。ごめん、いきなり話し込んじゃって」
「ええよええよ。ほな、『夕焼けの太陽』も行くで?」
そう言ってセルイドさんはユーヤ達も連れて離れていった。気を利かせてくれたみたい。
ユーヤ達は羨望の目を向けてたけど。
「でも兵士さん達の前でいいのかな?」
「フィルナはDランクに上がったんでしょ? なら、堂々としていれば大丈夫」
「えっ……なんで……?」
「ふふふ、あんなすごい魔法を使う人をチェックするのは当然でしょう?」
「ああ……バレてたんですね」
「騎士団でも私くらいだけどね。あとは団長か。大丈夫、アルフレッドさんから話は聞いてる」
「なんかすみません」
「いいの。それより……フィルナ、魔法部隊……騎士団に入らない?」
ええっ!? 私が騎士団に!? そこまで評価してもらえるのは嬉しいけど……。
「ごめんなさい」
「ふふっ、そうだと思った。気にしないで」
「自然魔法はあまり使うなって、あの時アカ……あの人に言われてるんで」
危ない。そういえばアカツキは公式には来てないことになってたんだったよ。
「ああ……あの方。羨ましいわ。フィルナはルミネ様とも知り合いなんでしょう?」
「うん。やっぱりこの国の人は憧れるものなの?」
「当たり前じゃない! この国で魔法を使う人間にとって、ルミネ様は女神様の次に崇める対象ですよ! ああ……一度でいいから教えを乞いたい」
クリムさんは目をキラキラさせながら、両手を組んで空を見つめ出しちゃった。
崇めるって……【賢者】だってこととか魔法がすごいだけじゃここまではならないと思うんだけど……。
ルミ姉さん、一体なにしたの……?
お読みいただきありがとうございます。
次回、魔法の訓練。




