第三十六話 浮遊大橋
「オラ! こっちだ! 『挑発』!」
ツカサのスキルで狼の魔物、グラスウルフを引き寄せる。
それを大きな盾で捌きつつ、近くの狼をユーヤが仕留め、離れた狼にはウェマが『ファイアⅠ』を撃つ。
そして攻撃の集中するツカサをクイナが回復。
連携はほんと完璧みたいだね。
ただちょっとツカサを囲んでる狼が多すぎるかな。
「私も前に出るよ!」
中間の位置で状況を見てた私は後方には魔物がいないことを確認して左手に短剣、右手に片手剣を構えて飛び出した。
『加速』!
支援魔法も使ってツカサを挟んでユーヤと反対側へ。
こっち側はまだまだ数も多い。
「武器技・『スライスバイパー』!」
これは蛇のような不規則な軌道で3回斬りつける短剣の連撃系武器技。
やってみて驚いたのが、右手に持ってる片手剣にも乗るんだよね。
別の武器じゃダメだったからある程度使いこなしてる必要があるのかも。
その斬撃で六匹の狼を一気に仕留めた。
「すげぇ」
周りの狼から解放されたツカサが息を吐く。
「まだまだ! この距離なら! 『ウィンドⅠ』!」
これまたⅣ規模の風の刃が少し離れた周りの狼を切り刻む。
「なんだよこれ……」
「ふぅっ。これで終わりかな? ……うん、近くにはいないね」
さすがに戦いながら『探査』はまだできないから改めて確認、と。
「すげぇな……ソロでDランクになるわけだ……」
「ちょっと! 二人も解体手伝ってよ!」
惚けてるツカサとユーヤにクイナからの抗議の声が飛んできた。
「あ、わ、悪い」
二人も慌てて作業に入る。
結構な数いたから解体も大変。
私ももちろん回収作業に入ってるよ。
魔石だけじゃなくて状態のいいものは毛皮や肉も取ってギルドに買い取ってもらうの。
私はともかく『夕焼けの太陽』にはいい収入になるだろうしね。
「魔石は全部で21個かぁ。かなりいたね」
残念ながら魔石が残らなかったのもいたよ。
……私が勢い任せにやっちゃったやつ。
「本当に分け前は人数割でいいの?」
「もちろん。それが一番モメないからね。あ、余りの一個は今使ってもいい?」
「え? いいですけど……ね? ユーヤ」
「あ、ああ。あれだけ倒したんだ。一個くらいで文句はねぇよ」
「ふふっ。ありがと」
簡易調合道具を出して、薬草と魔力草も取り出す。
そこに魔石も砕いて入れて……と。
「『調合』! うん、上出来。クイナ、ウェマどうぞ」
出来上がったポーションを器に移して二人に差し出す。
「え? えっ?」
「マナポーションだよ。念のため飲んでおいて」
結構魔法使ってたもんね。
「は? はぁぁあ!?」
「ほら、遠慮しないで」
「は、はい……」
二人はようやく飲んでくれたよ。
「ていうか、それ……魔法鞄か?」
「あ、うん。そうだよ」
荷物少ない時点で気付いてほしかったな。
「本当に何者?」
「ほら、そんなことよりセルイドさん呼びに行かなきゃ」
みんなを促して、移動を再開。
「ねぇ、フィルナのこと、教えてよー」
クイナが興味津々で聞いてくる。
ちょっとイタズラ心が湧いてきちゃったよ。
「ふふっ、そうだねー……。この胸当てと魔法鞄は『夕暮れの空』のみんなに貰ったんだ」
渾身のドヤ顔を決めてあげたよ。被り物で見えないけど。
その時のみんなの顔、しばらく思い出すだけでニヤついちゃいそう。
もう期待通りの反応。
やっぱり彼らはアカツキ達に憧れてたよ。パーティ名、ほとんど同じだもんね。
私と別れた後のアカツキ達と会ったことがあるんだって。
そのとき魔物と戦う彼らを見て、ああなりたいって思ったみたい。
「ところで、その短剣……見覚えがあるような……あ、いや、俺が見たのはもっとボロっちいのなんだが……」
ユーヤがなんか照れながら聞いてくる。
ふふ、戦うお姉さんに惚れちゃったかな?
「ああ、この短剣? アキンドの【整備士】のおじさんがやってる武器屋で手に入れたんだよ。前の持ち主が置いていったんだって。ゾーイっていう子だけど、その子が使ってるのを見たとか?」
「ゾーイ!? あいつに会ったのか!?」
「ああ、うん。この短剣がゾーイのものって知ったのはその後だったけどね。みんなはゾーイを知ってるの?」
「知ってるもなにも、俺たち同じ町の幼馴染なんだ。あいつ、ちゃんと商人になれそうだったか?」
あー、アキンドに一緒に来たパーティって『夕焼けの太陽』だったんだ。
ユーヤも気にしてたんだね。
「まぁ、職業が【商人】だしね。本人もやる気になってたみたいだから大丈夫だと思うよ」
「よかったぁ。ゾーイってばなんか気弱なとこあったからさ。みんな心配してたんだよ」
「でも、私たちのパーティに入れてって言ってきたときは真剣だったよ」
「真剣じゃなきゃ一緒に行ってねぇって」
結局私のことよりゾーイのことを話しながら進んでいく。
幼馴染っていいなぁ。羨ましい。
「お、見えてきたでー」
「おお! 改めて見てもでっかいなぁ」
昔見た時もおんなじように声上げたなぁ。
大河を渡るための大橋。
馬車が余裕ですれ違えるくらいの幅があってかなりの大きさだよ。
転落防止の壁も結構高くまであって、なんだかお城がずっと続いてるみたいだよ。
「すっげー」
ユーヤも童心に返っちゃってる。
「あれってどうなってんだ?」
「支え、何もないよね?」
「浮いてる?」
「お、ウェマ正解。橋に使ってる石材一つ一つに『浮遊』が付与されてるの。だからちょっと壊れたくらいじゃ崩落しないんだよー」
ルミ姉さんの受け売りだけどね。
直すときも壊れたところに同じように付与した石材をはめるだけ。
そして、万が一その先の防衛拠点を突破されて攻め込まれたときは橋を落とせるように両側に付与を解除する装置が設置してあるの。
だから両端に小さな駐屯地がある。
当然この辺は魔物が出るから、そこには拠点の兵士さん達が訓練も兼ねて交代で常駐してるの。
橋にもごく稀に魔物が出るし、お金を払って頼めば向こう側まで同行してくれるよ。
っていうのは建前で、そのお金は直接兵士さんの小遣いになるから頼むのが通る時の暗黙の了解。
兵士さん達のおかげで一般の人が平和に暮らせるんだもんね。
一応通る時に簡単な検閲があるからそこまで行って一度止まる。
そこで兵士さんに同行を頼むよ。
「橋の上に魔物なんて俺がプロテアに着任してから三年、一度も聞いたことがない。ま、気楽に行こう」
「それってフラグってやつ?」
「フィルナさん、さすがにそれはないやろ」
まぁ、『探査』でいないのはわかってるけどね。
冗談を言い合いつつ、荷馬車はゆっくりと橋を渡っていった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、プロテア到着。




