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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第二章 帰郷
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第三十五話 『夕焼けの太陽』

 南門に着くと、『夕焼けの太陽』と見覚えのある商人さんが出発の準備を始めてた。


「おーい! ちょっと待ってー!」


 そこに駆け寄っていく。


「うおっ! さっきのコボルトの被り物女!」


「ちょっとユーヤ! 失礼でしょ!」


 金髪に額当てしてるのがユーヤっていうのね。


「ごめんなさい、コイツこんな奴で」


 あれ? 女性陣はまともだ。


「で、何か用なのか?」


「ああ、うん。やっぱり同行させてもらおうと思って。ギルドで受注してきちゃった」


「はぁ!?」


「あ、フィルナさんやないか!」


「どうもーセルイドさん。私も行くことになったよ」


「え? 知り合い?」


「フィルナさんはウチの商会のお客さんやで。スピニッチさんとこの宿に泊まっとったんや」


 このおじさんはガーリックさんのお店の人だよ。

 宿の目の前にあるから何度も寄ってたら顔見知りになったんだよね。


「は!? あのめちゃくちゃ高い宿に!?」


「Dランクのフィルナさんがおるんなら心強いわ」


「え!? Dランク!? 【すっぴん】でしょ!?」


 もう誰がリアクションしてるのかわかんないくらいみんな驚いてるね。

 【すっぴん】だもんね。仕方ないかな。


「まぁまぁ、これで私の参加も認めてくれるかな?」


「そうだな、悪かった」


「ギルドが受注してたら私達は何も言えませんし」


「ユーヤ、文句ないよね?」


「あ、ああ」


 よかった。セルイドさんが依頼主で助かったよ。


「そんじゃ、改めて。ワイが依頼主のセルイドや。これからプロテアまで補給物資の配達を護衛してもらいます。期間は一週間を予定しとる」


「了解です。私はDランクのフィルナ。職業(ジョブ)は【すっぴん】。スキルは追々伝えるよ」


「ほら、ユーヤ!」


「お、おう。俺たちはEランクパーティ『夕焼けの太陽』だ。そして俺がリーダーのユーヤ。職業(ジョブ)は【戦士】」


 ユーヤの武器は鞘なし抜き身で片刃の片手剣みたいだね。盾も持ってるよ。


「次は俺か? ツカサだ。職業(ジョブ)は【ナイト】、盾役だな」


 ツカサは兜から金髪がはみ出てるくらいの長髪で、全身鎧を着てる。こっちも片手剣と、ユーヤより大きい盾を持ってるね。

 盾役っていうだけあって頑丈そう。


「あたし、クイナ。【治癒術師】よ」


 オババとおんなじ職業(ジョブ)だ。

 この子は金髪ショートカット。魔法使いの人にしては珍しく短いよ。

 武器は先の鋭い杖。クレ姉さんが使ってた、突きで攻めるタイプの杖だね。

 まぁ、本来そう使わないのが一番いいんだけど、この子はなんか積極的に使いそうな雰囲気だよ。


「最後は私ですね。ウェマです。職業(ジョブ)は【黒魔導師】。よろしくお願いします」


 おお、【導師】は【術師】の上位職業(ジョブ)で超級まで覚えられるんだったはず。

 この子も金髪だしみんな金髪なんだ。ウェマのは縦ロール? っていうんだっけ。

 ウェマは赤と緑の二つの宝石が埋まったロッドが武器みたい。2属性強化かな?


 それにしてもクイナとウェマの雰囲気と職業(ジョブ)が真逆だね。



「【斥候(シーフ)】がいないんだったら索敵役は私がやろうか。『探査(サーチ)』使えるしね」


「「「「はぁ!?」」」」


 四人が揃って驚くもんだから、思わず後退(あとずさ)っちゃったよ。


「まぁ、川までは安全やで。三日目まではそう気張らんでもええ」


 そうなんだよね。街道を行くなら魔物なんてほとんど出ない。

 でも、川の近くは別。やっぱり常に自然の力が働いてる場所って『特異点』がよく現れるみたいで街道や橋があっても魔物が出るの。


 特にこれから行くヒュドラ川は九つの川が集まった大河で、その周辺には頻繁に討伐クエストが発行されてる。


「念には念を、ね。それに【すっぴん】もやるもんだってとこ見せとかないと」


「いやもう十分でしょ……」


「確かに……よくよく考えたら走ってくるなんてありえねぇよな」


「冒険者なりたての私達より強かったりして……」


「はっ、俺はまだ信じねーぞ!」


「「ユーヤ!」」


 クイナとウェマに睨まれて、ユーヤはバツが悪そうにそっぽを向いちゃった。



「さぁ、少し早いけど出発するで! さすがにもう来んやろ」


 依頼主のセルイドさんの決定に従って、私達は西門を出た。


 御者台にセルイドさんと私。そして荷台の両側に『夕焼けの太陽』が二人ずつ座ってる。


 すぐに動けるように、それに四人の方が連携はとれるってことでこういう形になった。


 でも、セルイドさんの言った通り、三日間何事もなく荷馬車は進んで行った。


 ちなみにまたお肉を振舞ったらみんな大絶賛だったよ。

 おかげでユーヤとも少しだけ距離が近付いた気がする。相変わらずツンツンしてるけどね。




「前方範囲内に結構いるよ。もうちょっと進んだら馬車止めよっか」


「ほなその前に休憩入れよか。そっちも動く準備しといた方がええやろ?」


「ってことだけど、ユーヤ! それでいい?」


「ああ! みんな軽く体動かしておこう!」


 うん、戦闘ってわかってテンション上がったね。戦うことに関しては大丈夫そうかな。


 ずっと座りっ放しだったし、私も体動かそうっと。


「ね、軽く手合わせしない? お互いの力量も知っておいた方がいいでしょ?」


「別にいいけど、三人でやるのか?」


「ツカサは守り重視なんでしょ? だったら二人同時でいいよ」


「ちょっとそれはナメすぎだろ。怪我しても文句言うなよ?」


「言わない言わない。さ、いくよ!」


 久々の二刀流。

 短剣でツカサを相手して、片手剣でユーヤを攻める。


 アルさんと模擬戦したときも思ったけど、私、相手の動きを見極めるの結構得意みたい。


 ユーヤもなんだかんだ言いながら峰打ちしてくれてるし、案外優しい子なのかも。


 連携が慣れてるっていうのも本当だね。二人とも同時だったりタイミングをズラしたり、息ピッタリ。

 私が短剣でツカサを相手取りたいのを察したら左右入れ替わったり、判断も悪くないね。


 筋力は二人の方が上みたいだから同時に押し込まれるとキツいけど、そうさせない位置取りをすれば──っ!?


「おっと!」


 急に二人が離れたタイミングで氷塊が飛んできたよ。

 ウェマの『アイスⅠ』だね。


「おい! なにやってんだ!」


 さすがのツカサも怒ってる。


「ほら、やっぱり大丈夫だったっしょ?」


 今のはクイナの差し金か。


 私はクイナとウェマの方に歩き出す。


「ご、ごめんなさい!」


 迫ってくる私に頭を下げるウェマ。


「クイナ〜! あなた仲間に仲間を撃たせるなんて何考えてるの!」


 クイナの耳を引っ張ってお説教。


「いたたたた! ご、ごめんってば!」


「ウェマも! 謝るくらいなら撃っちゃダメでしょ!」


 同じくウェマの耳も引っ張る。


「いったーい! ごめんなさーい!」


 私が『気配察知』の上位スキル『探査(サーチ)』を持ってるって知っててもやっちゃダメだよ!


「仲間を撃つなんて二度としないで! いい!?」


「「はいっ!」」


「よろしい」


 耳を離してあげる。


「フィルナさん、力強いんだね……いたたた」


 引っ張られた耳を撫でながらそう言うクイナ。


「フィルナでいいよ。ウェマも。ほら『ヒールⅠ』」


「ええっ!?」


「そんなに驚くこと? 【すっぴん】が全魔法習得できるって知ってるでしょ?」


 まぁ、初級以上は知られてないだろうけど。


「実際に使える人なんてきっと初めてですよ」


「ま、まだ初級魔法を使う魔力しかないけどね」


「フィルナって一体何者なの?」


「んー、もう少し仲良くなったら教えてもいいかな」


「何か秘密はあるんだ」


「どうだろうねー」


「おい、そろそろ行くぞ!」


 おっと、ユーヤがお呼びだね。


 また荷馬車を少し進めてから、魔物の方へ歩いて向かった。

お読みいただきありがとうございます。


『夕焼けの太陽』の紹介をしようと思ったら長くなりました。

大橋は次回に。死闘はありません。

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