第三十四話 護衛依頼
あれから四日目の朝。
私はこの日までルルと残りの東、南、西側をそれぞれ一日かけて回ってた。
ルルにはこの街の全部を見せてあげられたかな?
まぁ、隠れた店とかは私も知らないから無理だったけどね。
それはこの街を知ってる人たちに任せよう。
そして、宿にいるときはルルに魔法の契約。
私が使える初級魔法を一通り契約したよ。
ルルが魔法を使える職業になるかはわかんないけど、使えるとしたらこれで最初は困らないね。
「そんじゃ、今日から教えたるからな」
「はいっ!」
ルルはスピニッチさんと接客のお勉強が始まるみたい。
「ルル」
「なぁに? フィルナ」
「私、早ければ今日ここを発つよ」
「そっか……そうだよね。フィルナは故郷を目指してるんだもんね」
ルルには私が今何の為に旅してるのか伝えてある。
「うん。ちょうどいい護衛依頼とかあったらそれに合わせるからね。もしかしたらここを出たら戻らないかもしれないから」
「どこに向かうの?」
「まずは南から川を渡るよ。故郷はもっと西の方なんだけど、ここから西だと山を越えることになるし、元々ルートはそっちって決めてたからね」
アカツキ達と通った道を辿る旅だしね。
「フィルナ……また……会えるよね?」
「もちろん! ルルの依頼を受けなきゃだしね」
「ははっ、覚えてたんだ。あっ、そうだ、これ!」
ルルから金貨一枚を受け取った。
「あ、そっか。そうだったね」
ルルのここまでの護衛報酬を一万ギル──金貨一枚で請け負ってたんだったよ。
「フィルナ……本当に、本当に、ありがとうございました!」
やっぱり泣かなかったね。ルルは……ほんとに強い子。
「ふふっ、新しいお父さんとお母さんと仲良くね。幸せになって」
「おい、ワイは!?」
いつの間にかガーリックさんも後ろにいたよ!
「へへ、おじーちゃんも!」
ルルに言われてガーリックさんの顔が気持ち悪いことになっちゃった。
ルルはガーリックさんには懐いてる感じなんだよね。ネックレスの件があったからかな。
スピニッチさんとマーエさんともこれくらい打ち解けられたらいいんだけど、それは時間がなんとかしてくれるよね。
「ルルちゃんの使う部屋はいつでも来れるように準備してあるからね」
「ありがとう!」
マーエさんもよっぽど嬉しいんだなー。
うん、この一家を紹介してもらえてよかったよ。ありがとう、ポークさん。
「フィルナちゃん、ホンマにえらい金落としたみたいやんけ。ありがとな」
スピニッチさんには私がどこで何を買ったか知られてるみたい。
さすが商人の街のトップ商会、情報も筒抜けだね。
「まぁ、この先も一人かもしれないからね。いろんな薬の材料売ってて助かったよ」
使ったお金のほとんどがそれだったよ。魔法鞄にいくらでも入るからってちょっと買いすぎちゃったかも。
「そら、ポークが仕入れに使うくらいやからな。品揃えは王都より上や」
「どおりで。しばらくは薬に困らないよ」
「そか、ポークが【薬師】やったんも役に立ってよかったわ」
そっか、ポークさんが【薬師】だったからこの街でも本格的に薬の材料とか扱うようになったんだね。
というか、【薬師】として十分役に立ってると思うんだけど、商売第一なのはさすがだよ。
「その縁でこうやって出会いもありましたしね。本当にこの街は楽しかったです。ルルにも言ったけど、必ずまた来ます!」
「おう、またな」
「次も安ぅ泊まらせたるで」
「絶っ対! また来てね!」
「うん! それじゃあ。あ、依頼が明日とかだったらまた今日も泊まるけどね」
スピニッチさん、カクッと膝が折れちゃった。
まぁ、何も依頼がなかったらそのまま一人で出るんだけど。
「なんやねんな。調子狂うわ」
「ははは、行ってきます!」
「いってらっしゃい、フィルナ!」
「うん、ルルも元気でね!」
笑顔でお別れできてよかった。
さぁ、まずギルドに行こう!
初日の最初に来て以来のギルド。
ここも造りは王都と同じ。
そしてさすがにアキンドとはいえ職員さんたちは訛ってないよ。
扉を開けるとすぐ側のテーブルから気になる話し声が聞こえてきた。
「どーすんの? 結局パーティメンバー募集出しても誰も来なかったじゃない!」
「最初に俺たちみたいなEランクパーティには来ないかも、って言っただろ?」
「確かになー。でも、一人くらい来ると思ってたぜ」
「どうする? このまま四人で行く?」
「もう今日が護衛依頼の日だしな、仕方ない」
若い男女二人ずつの四人パーティが話し合ってるみたいだね。
ていうか、パーティ募集してたんだ。今日までにギルドにも寄っておけばよかったかな。
「君たちの受ける依頼ってどこに向かうやつ?」
護衛依頼って聞こえて思わず声を掛けてた。
「うおっ! なんだ? コボルト……の被り物?」
「あ、ごめん。コレは気にしないで。私はフィルナ。護衛依頼を受けようと思ってたんだけど、君たちの依頼が私が行きたい方向だったら一緒に受けられないかと思ってね」
「私達の受けた依頼は南の国境手前の防衛拠点の街プロテアまでの護衛よ」
「そっか。私も南に行きたいんだよ。どうかな? 見ての通り私はソロだからさ、パーティ募集してるんだよね?」
「貴方……職業は?」
「【すっぴん】だよ。割と動ける方だけど」
「悪いけど足手纏いはちょっとな……」
「依頼主にも迷惑がかかるしな。声掛けてくれたのはありがたいけど、他を当たってくれ」
そう言って四人は出て行っちゃった。
はぁ、やっぱりダメかぁ。
クエストボードを見てみたけど、ちょうどいい依頼はなさそうだね。
あとは来たばかりの依頼がないかカウンターで聞いてみよう。
「あ、フィルナさん! イヤンの件ではお世話になりました。クエストとは別に『偉業』としてライセンスに残ってますから他のギルドでも対応良くなりますよ」
「『偉業』って大袈裟だなぁ」
「いやいや、ギルドマスターの不正を暴くって相当ですからね!?」
「まぁ、そんなことより、南の方に行く護衛依頼とか入ってません?」
「そ、そんなことって……コホン。フィルナさんがいいならこれ以上は野暮ですね。そうですねー……特に新しい依頼はありません」
「そっかー」
「ですが……『夕焼けの太陽』というパーティが受けている依頼がまだ人数上限に達していないので、追加で入ることは可能です」
「あー、さっきのパーティかな。私個人は断られちゃったんだけど、それで入るのはどうなんだろ」
というか、そのパーティ名ってもしかして……。
「むしろDランクのフィルナさんを断る方が失礼なんですけど……。なので問題はないと思いますよ。というか、パーティに入ってもらわなかったことを後悔するんじゃないかしら?」
「そんなもんですかねぇ」
「そうですよ。ということで、受注しちゃっていいですか?」
「まぁ、一人で南に向かうのはなんだし、お願いしようかな」
「はい。……ではライセンスをお返しします。約2時間後に南門に集合となってますが、『夕焼けの太陽』はもう向かったようなので早めに着いた方がいいでしょう」
「ああ、私が受けたのを知らずに出発されたら面倒だもんね。行ってきます」
「お気をつけて」
ここからはそんなにかからないし、急いだ方がいいかもね。
私はギルドを出て真っ直ぐ南門へ向かった。
お読みいただきありがとうございます。
次回、大橋。橋の名前がまだ決まってません。




