第三十三話 次の旅に向けて
ルルと出店の前でジュースを飲んでるとき、隣にいた男の人と思いがけず話をすることになったよ。
まぁ、ちょうど時間を潰してるところだったしね。
「僕はゾーイといいます。この街には商人になるためにやってきました。ただ、ここまでは幼馴染達のパーティに入れてもらってやってきたんですけど、いざ一人になると不安というか、何から手をつけようかって……」
「あ、パーティの人たちは手伝ってくれないんだ?」
「パーティに入れてもらうのも無茶言った自覚ありますから。足手纏いなのは間違いないですし」
「戦闘職じゃないんだ?」
「はい。【商人】です。それ自体は望み通りなんですけどね」
「商人になりたいと思ってて【商人】になれたの!? それでどうしようか悩むなんて贅沢だねぇ」
でも、なりたい職業になれても悩んだりするんだね。
「ははっ、フィルナが言うと重すぎだよ」
「えっ? それはどういう……?」
「フィルナはねぇ、【すっぴん】なんだよ。それでちゃんと冒険者やってるし、100万ギルくらいポンと出せるくらい稼いでるんだよ」
「ええっ!? ど、どうやったらそんなに……」
「ま、地道な努力かな」
「そっかぁ、やっぱりそうですよね。僕も地道に頑張ってみます」
「そもそも商売始める元手はあるの?」
「はい。パーティでは一応魔物討伐にも参加しましたし、ちゃんと報酬も分けてくれたので」
「え? 【商人】で? すごいね」
「レベルを上げないとっていうのもあったんで……。まぁ、付与の付いた武器を投げて動きを止める程度でしたけど」
「なるほど、それならまだ安全かな」
「ええ、出発前に状態は悪かったんですけど付与付きの武器が安く手に入ったのはラッキーでした」
「やっぱり付与付きの武器って便利なんだね」
さっきルルが付与付きの短剣を見つけたのはお手柄だったね。
これからの旅も楽になりそう。
「ありがとうございました。聞いてもらえてなんだか頑張る気力が湧いてきました!」
「そう? ならよかったよ」
「いえいえ、貴方みたいな方はきっと他の人にも勇気を与える人だと思います。まだなにもしていない僕が言うのも何ですが、お互いに頑張りましょう!」
なんだか照れちゃうなぁ。
「そうだね。うん。頑張ろう!」
「がんばろー!」
ゾーイは元気に走ってどこかに行っちゃった。
「それじゃ、武器屋に戻ってみよっか」
「うん」
今日はここまでかな。武器屋で短剣を受け取ったら、ガーリックさんのところにまた挨拶しに行かなきゃ。
「お、嬢ちゃん戻ったか。できとるで」
武器屋の店主さんは店に入るとすぐに短剣を出してきてくれた。
「わ、すっごい。新品みたい」
「あそこまでボロボロやとスキルで一発ってわけにはいかんけどな」
「だから置いていったのかな?」
「いや、もー使わんって言ってたで。売ろうにもアレじゃ値は付かんやろしな」
相場0ギルって出てたもんね。
「でも、付与付きを使わないってもったいないなぁ」
「いや、商人になるために来たって言ってたわ。やからもー使わんってことやろ」
「あれ? それって……もしかしてその人私のちょっと前に来た?」
「おーほとんど入れ違いやったな」
あ、やっぱりゾーイだ。だから近くで会ったんだね。
「それにしても……」
短剣を受け取って『鑑定』してみる。
「整備して売れば儲けただろうになぁ」
相場価格が50万ギルまで上がってるよ。
「はっはっ、嬢ちゃんの方が商人に向いてそうやな。ま、これも勉強や。その短剣、返したらアカンで?」
うっ、読まれてた。
「い、いやだなぁ、せっかく手に入れたいい武器を手放すわけないでしょう?」
「教えてやるくらいはええ。やけど、ここじゃ売った買ったはそいつの責任や」
「なるほど。それがこの街のルールなんだね」
「なるほどー」
「おお、小さい嬢ちゃんもよー覚えとき。どっちかが「売った」「買った」ゆーたらそこまで。それ以上とやかく言うたらあかん」
「わかった!」
店主さんもこの街の先輩として教えてくれてる。
「あれ? 私達が初めてとかルルがここに住むとか言ったっけ?」
「ん? ああ、なんとなくや。こっちの嬢ちゃんがあんまり真剣に聞いとるんでな」
「ルル……」
「がんばるんだもん」
「ふふっ」
また頭を撫でてあげる。
なんだ、私より全然しっかりしてるじゃん。
私もルルと別れるときに泣かないようにしなきゃね。
私だけ泣いたりしたら情けないよ。
「それじゃ、おじさん短剣ありがと!」
「ありがとう!」
「おう。また来てな!」
「ルル、昨日のガーリックさんのところに行くよ」
「うんっ。ちゃんとお礼しなきゃだもん」
「何か買うのもお礼になるかもね」
宿の目の前にあるガーリックさんの商店に向かったら、ガーリックさんとスピニッチさんがなにやら店の前で話してる。
「あれ? ガーリックさんにスピニッチさん、どうしたんですか?」
「ん? おお、ちょうどええとこ来たわ。親父も会ったと思うけど、フィルナちゃんとルルちゃんや」
「はい。改めてよろしくお願いします」
「ルルです! 昨日はありがとうございました!」
「おう。よろしくな。それにネックレスのことやったら気にせんでええで。大したことはしとらん」
「でも……」
「ええって。親父もこう言うとるんや。そもそもそれはルルちゃんが持つべきモンなんやし」
「はい……!」
「それに嬢ちゃんは孫になるかもしれんのやろ? ワイは大歓迎やからな」
「あ、ありがとう……」
「あー親父はせっかちでアカンわ。ゆっくり考えてええからな」
「せっかちてなんやねん! お前が孫作らんのがアカンのやろが!」
「親父がポークに任せるゆーたんやんか!」
「ま、まーまー落ち着──」
「おとーさんもおじーちゃんも落ち着いて!」
「「お、おおぅ……」」
「い、今……」
「おじーちゃんて……」
「ワイもおとーさん言われたような……」
「もうっ! 喧嘩するなら呼ばないからね!」
「「は、はいっ!」」
はは、ルルすごいよ……。
「フィルナ、部屋に行こっ!」
あ、よく見たら顔が赤くなってるね。私を引っ張ってるのは照れ隠しかな。
そっか、ルルなりにもう結論は出てたみたい。
なら、私ももう次のこと、考えていいのかもね。
お読みいただきありがとうございます。
次回、護衛依頼。




