第三十二話 自分の武器
ルルと二人、さっき食べた店に行く途中で見かけた武器屋に入った。
「フィルナ、何を買うの?」
「んー、短剣をちょっと、ね」
「フィルナはもう持ってるよね?」
「あれはね、借り物なの」
モンパレのときはあっという間だったから返しそびれたけど、私の使ってるミスリルの短剣はアカツキのもの。
次に会ったら今度こそ返すんだ。
だから今のうちに新しい短剣を買って慣らしておきたいんだよね。
っていうか、短剣はアカツキのだし、片手剣もゴッツさんにもらったやつ。
私はまだ自分で自分の武器を用意すらしてないの。
そういうのもあって、特に短剣は自分で買ってみようかな、って。
「ふーん。じゃあ、わたしも探すね!」
「うん。気になるのあったら教えてね」
「わかった!」
うーん、棚に並んでる短剣は綺麗なんだけど、なんていうか普通だね。可もなく不可もなく。
というか、他の武器もそうみたい。
ただ整備は丁寧なのが伝わってくるよ。
「あんまりいいのないなぁ」
「すまんなぁ、ワイ、【整備士】やねん。知り合いの失敗作とか売れ残りを整備して売っとんのや」
店主さんが呟きを聞いて謝ってきちゃったよ。
むしろ私が謝るとこだね。
「あの、ごめんなさい……でも、失敗作が普通くらいになるのはすごいんじゃないの?」
「ま、そこがワイの売りやからな。ああ、掘り出し物ならそこの樽にあるかもしれんで」
「これは?」
「冒険者とかが使わんくなったやつを回収してんねん。そこにあるやつやったらメンテナンス代100ギルだけでええで」
「え? タダ?」
「ワイも買い取ったわけやないからな」
「あ、そういうこと。でもなんで武器だけ? 防具とかも整備できるんでしょ?」
「それなぁ、嫁にも言われてんけど、夢やったんや。武器屋開くんがな。けど、貰った職業は【鍛治師】やなかった。それでも、どーしても諦めきれんでな」
「そっかぁ……やりたいことをやるって大変だよね」
私も【すっぴん】だってわかったときはガッカリしたもんね。
「まぁ、整備だけやったら防具もやるけどな。そこは嫁に言われて妥協したわ。実際、防具も売った方がええのは確かやし」
「ふふっ、やり手のいい奥さんだね」
「せやろ? 自慢の嫁や」
「フィルナフィルナ!」
ん? 静かだと思ったけど店主さんと話してる間ルルは何してたんだろ?
「どうしたの?」
「これ! きっといいものだよ!」
あ、さっき言われた樽を漁ってたんだ。
ルルは柄も刃も使い込まれてボロボロの短剣を取り出してた。
ボロボロだけど、錆びてはないね。素材はいいのかも。
「どれどれー」
『鑑定眼』で見てみる。
ボロボロな特殊合成金属の短剣
色々な素材を金属と掛け合わせてミスリルを超えることを目指した研究の過程で生まれた短剣。
ミスリル程ではないが、強靭で腐蝕しにくい。
更に『麻痺』の付与が施されている。
現在はまともに振ることもできないくらいボロボロ。
相場価格 0ギル
「へぇー付与付きかぁ。いいね、これ」
ミスリルを超える研究ってなんだろ。それに過程ってことは別の結果が出てたりするのかな?
それに『麻痺』は中級魔法だから私じゃまだ魔力足りないし、この付与はかなり役に立つよ。
「ほんと!?」
「すごいよ、ルル。どうしてこれがいいってわかったの?」
「えへへ、直感!」
「おー、さすがルル!」
わしわしと頭を撫でてあげる。目を細めてる顔が最高なんだよね!
「それにするんか?」
「うん。整備お願い」
「おう。100ギルや」
100ギルとその短剣を渡すと、店主さんはじーっと短剣を見つめてる。
「あーコレか。ちょお時間かかりそうやけどええか?」
この短剣のこと知ってるのかな?
置いて行った人を覚えてるとか?
「むしろそれが直るんならいくらでも待つよ」
「ハハ、ゆーても他の店回ってくるくらいで終わっとるはずや。あとでまた寄ってくれればええ」
なら短剣のことはその時聞けばいいか。
「わかった。お願いね」
「お願いしまーす」
「はは、おーきに」
「それじゃ、ちょっと時間潰そうか」
「うん。あっちでジュース飲めるみたいだよー」
「よし、そこ行こっか」
ちょうど喉も渇いてきたとこだしね。
ドリンクの出店に向かって、その前に設置してあるベンチを確保。
「ルルは何がいい?」
「フィルナと同じで!」
「じゃあ、りんごのジュース二つくださーい」
「はいよー」
「フィルナはりんご好きなの?」
「うん。果物だと一番好き。だから私に合わせてるとりんごジュースしか飲めないよ?」
「ははっ、そんなに好きなんだ」
「はいお待ちどう。二つで3ギルでいいよ」
「おおきに!」
「ふふっ、もうここの訛り覚えたの?」
「えへへー。ここで働くからね!」
貪欲だね。昔、アカツキ達を見て冒険者になることを決めた私もこんな感じだったのかな?
「はぁ、どうしようかなぁ」
「ん?」
急に隣のベンチに静かに座ってた若い男の人が呟き出したから、思わず反応しちゃった。
「あ、すみません。年の近そうな子がもう働くって言ってるのを聞いてつい口に出ちゃいました」
訛りがないってことは外の人だね。
「どうしたの?」
特にこれといって今買いたい物もないからその人の話を聞いて時間を潰してもいいかな。
お読みいただきありがとうございます。
次回、次の旅に向けて。




