第三十一話 目利き
「あっ! あれかわいい!」
露店商が並べてる品物の中で、ルルが指差したのは指輪。
「ほんとだねー。いろんな色があるよ」
「わたし、あの真っ赤なのがいい!」
「お、買うんかい? そっちの被り物の嬢ちゃんはどうや? ひとつ200ギルやで」
「そうだなー……私はそっちの茶色いの。ルルの髪の色とおんなじやつ!」
「あっ! バレてたの?」
「ふふっ、ルルのは私の髪の色だもんね」
「おじちゃん、まけてー!」
「んー二つで200でどや?」
『鑑定』してみたけど、そんな高そうじゃないよ。
「50! もちろん二つでね」
「お願い! おじちゃん!」
パンッと両手を合わせてルルがねだる。
「しゃーないなー特別やで?」
「やったーありがとー!」
ルルは値切り交渉上手だなぁ。私も『交渉術』スキルあるはずなんだけどな。
「まいど! あとから金返しては聞かんで?」
「えっ?」
もしかしてもっと安かった?
「ま、これも勉強や」
「そっかぁ。返してとか言わないから参考までに本当はいくらか聞いてもいい?」
「はっはっは。素直やなー。ま、他に客もおらんしええやろ。ひとつせいぜい10ギルってとこや」
「むむー。やられたぁ」
「この街は初めてか?」
「二度目だけど、ちゃんと回るのは初めてだよ」
「ほな、うちの品だけでもよー見てき。ほら、このブローチはいくらや?」
指の輪っかくらいの大きさの宝石が付いてるね。
とりあえず『鑑定』……んー……ネフライト?
これ似た宝石があって安い方だっけ……?
「高い方なら500ギルくらい?」
「まぁ、せやな。で、これはどっちや?」
「安い方、かな? 20ギル?」
「おーわかるか。でももっと安いで」
「え? じゃあ10ギルとか?」
「5ギル!」
「はっはっ、小さい嬢ちゃんの方が正解や。これは安い方でもさらに価値がないやつや。要は半分偽物っちゅーことやな」
「ま、またルルに負けた……」
「へっへーん」
「これは慣れと勘が大事やからな。逆にこん中で一番高いんはどれやと思う?」
「このブレスレット……なんだか普通じゃない気がする」
埋まってるのは宝石じゃなくて魔石?
「やるやないか。こいつは『幸運』の付与がしてあんねん。こん中でもダントツで高い10万ギルや」
「ふえぇ。すっごい!」
(「『目利き』スキルを習得しました。『鑑定』と統合され『鑑定眼』に変化しました」)
これって、もしかしてアルさんが使ってたスキル?
そうだとしたら「視るだけでわかる」って言ってたよね。
意識を集中して視てみたら、いつもの鑑定結果に『相場価格』が出てたよ。
このブレスレットの相場は8万ギルだって。
このおじさん、ちゃっかり上乗せしてたよ!
「ね、おじさん。このブレスレット、9万ギルで買うよ。お勉強代ね」
「ほう……嬢ちゃんわかっとるやないか。もちろんええで」
「はい、これはルルの。お守り代わり」
「えっ、いいの?」
「もちろん。もらってくれる?」
「うん! ありがとう!」
「仲ええなぁ。せや、指輪も嵌めてやり」
「へっ?」
ど、どの指に?
「フィルナ、お願い!」
出されたのは左手。
そして上目遣いのルルが私の理性を奪った。
「はい、ルル」
薬指に嵌めてあげる。
ピッタリだね。
「えへへー。やったー」
手の甲を向けて見せてくる。
な、なんだかイケナイことをしてしまったような……。
「じゃあ今度はわたしがフィルナに嵌めてあげるね」
「う、うん」
同じ手を出すしかないよね。
おじさんがニヤニヤしながら見てる。もー!
「はい! ピッタリ!」
あれっ? サイズはルルのとおんなじだったよね?
私の指、さすがにそこまで細くないはずだけど……。
「おじさん、まさか……」
「はっはっは。すまんすまん。さすがにバレるか」
「ってことは、これ全部手作り?」
「そうや。ワイは【錬成師】。サイズ調整なんて朝飯前やで」
「あービックリしたぁ。じゃあ本当にこの売り物安いんだ?」
「せや。スキルでちょいちょいっとな。そのブレスレットはちゃうけどな」
「これ?」
「それだけは知り合いから仕入れたええもんや。大事にしたってな」
「うん! ありがとう、おじちゃん」
「ほなな、この街楽しんでき」
「はい。ありがとうございました」
みんな口を揃えて「楽しんで」って言うね。それだけで楽しくなってくるよ。
「次はどうしよっか?」
「んーお腹空いてきたかな」
「そうだねー。何食べる?」
「辛いの!」
「ええーそういう店あるかなぁ」
「フィルナ、あっち行ってみよ!」
「あっ、ちょっと引っ張らないで」
またルルに引っ張られながら走る。本当にあのころの私みたい。
アカツキ達みんなを引っ張ったり、勝手に走り出したり。
あっ、ルルはいなくならないように気をつけなきゃね。
そして『幸運』のブレスレットの効果か、ルルは食べたいって言ってた「辛い物」のお店に辿り着いた。
「からーい! けど、おいしー!」
香辛料がたくさん入った麺。スープも真っ赤。おかげで野菜も真っ赤っか。
私は……ちょっと辛いくらいなら平気だけど、これは……キツい。
「すごいねルル。わらひ舌がひりひりふるよ」
「フィルナ、何言ってるかわかんないよー」
「すまんの、嬢ちゃん。ウチは辛いのしかなくてよぉ」
「ああ、お構いなく。なんとか食べ切れそうだから」
辛いけど、味はいいもんね。残さないよ!
「スープもおいしー」
うっわ、ゴクゴク飲んでる。あれは絶対無理。
「嬢ちゃんが可哀想やからちょいとマケとくわ。二人で30ギルや」
「あー美味しかったー!」
「まいど! また来てくれな!」
「次どこ行くー?」
「うーん、さっきあった武器屋見ていい?」
「うん。いいよー」
今の店に行くときに見かけたんだよね。
次の目的地をその武器屋に決めてまた歩き出した。
あー舌が痛いよ。
お読みいただきありがとうございます。
次回、自分の武器。




