第二十七話 初めての対人戦闘
私はまず追っ手と反対側へ走って移動した。
そして、近付いて来てた二人が『探査』の範囲外に出たところで『インスニ』を使って戻る。
帰りは初級支援魔法『加速』も使って一気に。
向こうが慎重に距離を詰めてたおかげで余裕で間に合った。
そして私は野営を通り抜けて、さらに二人の横を抜ける。
うん、やっぱり奴隷の女の人だね。辛うじて首輪は見えたよ。
そのとき、二人の声が聞こえてきた。
「一人は範囲外に出て行った。なんでかまではわからないけど、一人でも少ないならチャンスかも」
片方の人はショートカットのシルエットが見える。
やっぱり【斥候】が来てたね。シーさんの言った通り。
それに『不可視』は『探査』には映らないみたい。
「そうだね。戻る前に仕掛けよう」
薄暗くて顔はよく見えないけど、もう一人はポニーテールと大剣を持ってるのがわかる。大剣を使えるのは【剣士】か【戦士】だよね。
これなら作戦通りいけそう。
私は更に奥で待機してるもう一人の背後まで移動する。
こっちは魔法使い系の職業だね。殴打もできるロッドに分類される杖の一種──ルミ姉さんが使ってた──を持って、ローブのフードを被ってる。こっちも表情はよく見えなかったな。
全てはタイミング。
今この人に何かをしても前の二人に警戒する時間を与えてしまって面倒になる。
だから二人がもっとシーさん達に接近した時にこの人を押さえる。そしてそれが合図。
私は『インスニ』を維持したままじっと二人が近付くのを待つ。
狙いは武器を抜こうとした瞬間。
ここだ!
「動かないで!」
私は姿を現して後ろからロッドを持つ腕を押さえ、短剣を首筋に突きつけて、シーさん達に聞こえるように声を上げる。
ついでにフードも剥がしたんだけど、長い髪がぶわっと露わになって私の鼻を擽る。
「「えっ!?」」
前後で驚きの声が重なった。
そして、前の二人はこっちを振り返ってしまってた。
それは致命的な隙だった。
シーさん達は二人をあっさり取り押さえた。
「じゃあ、行こっか。貴女、お名前は?」
「セシリー……です」
私がセシリーの拘束を解いてシーさん達の方へ歩き出すと、セシリーはその後ろをついてくる。
「ちょっと! セシリーに何をしたの!?」
シーさんに押さえられてる【斥候】の彼女が叫ぶ。
「リリア、大丈夫。ローズも。落ち着いて」
私じゃなくてセシリーが答えた。
「どういうことなの?」
こっちがローズかな。大剣を持ってる方。
「まぁ、害はないから安心して。すぐにわかるから」
被り物してるから警戒されても仕方ないんだけど、できるだけ優しく話しかけた。
「おい、嬢ちゃん。俺も聞いてねぇぞ。何する気だ」
「あーごめん。ま、見てて。それで内緒にしててくれるとうれしいかな」
たぶん本職に見つかったら面倒なことになりそうだし。
『魔法付与』・『使役』
二人の首輪に初級隷属魔法『使役』を付与する。
『使役』は【テイマー】やリューさんの【ドラゴンライダー】では基本中の基本であり職業の根幹になる魔法。
そして奴隷の首輪に付与されてる魔法でもあるの。
セシリーの首輪に『鑑定』してわかったから、拘束してる時に同じように付与したの。
これは旅立つ前に試したんだけど、付与済みの魔道具や武器に同種類の付与をすると上書きできたんだよね。
そして、セシリーは首輪の付与が上書きされて私が主人として認識されてるみたい。
念のため『鑑定』してみたけど、実際そうなってた。
「おいおいおい……嬢ちゃん、何者だ?」
押さえてた二人を解放するシーさんとエーさん。
「私はフィルナ。コボルトFのフィルナ」
「フィルナ様……」
「いや、様とかいいから。それよりシーさん、確認なんだけど、彼女たちを解放するのは大丈夫かな?」
「むしろ勝手に主人を変えて連れ歩くほうがダメだな。だったら鍵を手に入れたことにして解放する方がまだマシだ」
「えっ、どういうことですか?」
リリアの口調が主人に対してのものに変わってる。
「今から貴女達を解放します。それからお話を聞かせてください」
「あの、こんなこと言うのは変ですけど、いいんですか?」
「いいのよセシリー。奴隷が欲しくて付与したわけじゃないからね」
「フィルナ様がご主人さまなら奴隷のままでも良いのですが」
「いいって、そう言ってもらえるだけで十分だよ、ローズ」
解放するのはそのまま『解放』。『使役』とセットで初級隷属魔法として覚える魔法。
それを首輪に直接掛けると、カチッと鍵を開けた時の音がして首輪が外れて地面に落ちる。
さっきの言い方、シーさんはこの方法知ってるね。
当然、『使役』対象者の主人の『解放』しか効果がない。本来『使役』した魔物に使うものだしね。
だからどの奴隷にも使えるっていうわけじゃないんだけど、やっぱりメンソルの周りに【奴隷商】がいるってことだね。
「やっ……た……やったよ……!」
「ようやく……終わったのね……」
「ありがとう……ありがとう……!」
三人は涙を流しながら抱き合って解放されたことを喜んでる。
なんとなくわかる。
ここで追っ手に選ばれる程の実力者なら解放に必要な額なんてすぐ稼げたはず。
レベルを上げるなら冒険者登録をして討伐クエストを受けるのが一番手っ取り早いからね。それにランクを上げておけば他の町でも動ける。
だけど、主人はあのギルドマスターだった。そしてあそこのギルドには討伐クエストはなかった。
つまり、無報酬で存在を隠された討伐クエストを受けさせられていたんだろう。
彼女たちは解放される手段を断たれていたんだ……。
「ごめんね、話、聞かせてくれるかな?」
今後の対応を決めるため、彼女たちから向こうの情報を聞き出すことにした。
お読みいただきありがとうございます。
戦闘らしい戦闘はしたら負けなのです。今は。
次回、アキンド到着。




