第二十六話 把握と対策
「確かにボスは定期的に成人前の処女も売っていた。今回も連絡が来ないのはそれかと思っていたんだ」
状況を説明して、メンソルが捕まったことも伝えると、また素直に話してくれた。
そういえば最初そんなこと言ってたね。
「それがこのお嬢ちゃんだったってんなら、確かにそれはボスの裏切りかもしれねぇ」
「それでボスが捕まっちまったのか……」
「何かそのきっかけになるようなことなかったの?」
「いや、何もなかったはずなんだが、ボスだけが知ってる何かがあったのかもしれん」
「例えば?」
「そうだな……ギルドマスターが先に裏切って他からも奴隷を買っていた、とかな」
「それって裏切るほど? あの人ならどこから買ってても不思議じゃないけど」
「……あーもう、この際だ。全部話しちまおう! ボスはあそこの娼館を裏で全て取り仕切ってんだ。だからアガリはボスに行くし、他の奴が奴隷をヤツに売るなんてあり得ねーんだ」
「それって、奴隷を売る見返りにギルドマスターから見逃されてるってこと?」
「そうだ。持ちつ持たれつ。そんな関係だったんだ」
「でも、取り仕切ってるならどうやって……?」
「だからそれがあり得ねーんだって。裏切ったら潰される。そんな関係でもあるんだからな」
「潰されないほどの相手から買ってた……?」
「そんな相手なんてアキンドの領主くらい……まさか!?」
「商売人からしたらイヤンのアガリはでかいな……」
ちょっと予想が大事になりすぎてわけわかんなくなってきたよ……。
とにかくルルを守るのが一番。最優先!
「とりあえず、協力してくれるってことでいいのかな?」
「こうなりゃ仕方ねぇ。……が、アキンド側には俺たちは何もできねぇぞ? 手伝うのはイヤン側からの……ヤツの刺客だけだ」
「そうだな。もし本当に追っ手が来るってことはヤツの裏切りは確定だ」
「ボスが捕まっちまったってんならイヤンに向かうのは得策じゃねぇ。アキンドにいる仲間にも連絡を取りてぇしな。アキンドまで……護衛してやるよ」
アキンドはもう行ってから考えるしかないよね。
そっちは私達にどうこうってないはずだし。
「わかった、よろしく。ごめんね、ルルもそれでいい?」
「うん……まだよくわかんないけど、フィルナがわたしのためにしてくれてるっていうことはわかったから」
本当はルルが奴隷に堕ちるきっかけになった人だけでも憲兵に突き出してやりたいけど……さすがにそれじゃ向こうも納得しないよね。
「それじゃえーっと……名前は教えてくれないよね? なんて呼べばいい?」
「好きに番号でもなんでも呼んでくれ」
「じゃあ……左から、エーさん、ビーさん、シーさん、ディーさん、イーさんで」
「わかった。それでいい」
「俺がエーだな。それじゃ、俺が夜番をしよう。せめてもの償いをさせてくれ」
「いいの?」
エーさんがさっきのお金とペンダントを盗った人。
「お嬢ちゃんは本調子じゃねぇんだろ? 大人しく休んでな」
まぁ、まともに食事できてないの見たらわかっちゃうかな。それでもビーさんはよく見てるみたい。
「安心しな。取り引きで裏切るような真似はしない」
真ん中のシーさんがこの中のリーダーなのかな?
「そうだな。お嬢ちゃんがいねぇとあの美味いメシが食えねえからな」
ディーさんが一番餌付けされちゃってるみたいだね。
「天使には指一本触れさせません!」
イーさん……ルルが天使なのは同意だけど、ちょっと逆に危険かもしれない。
「お願いするね。ルル、私達は馬車で休もう」
「うん」
私とルルは身を寄せ合って眠った。
といっても、私はまだ警戒してたから眠りは浅かったんだけど、シーさん達は襲ってくることも逃げ出すこともせずに、交代で夜番をして馬車を守ってくれてた。
エーさんは宣言通りずっと起きてたみたい。
うん、この人達なら大丈夫かも。というか、思ってた感じの人達じゃないのかもしれないね。
「なんで私達を襲おうとしたの?」
だから、翌朝食事をとりながら聞いてみたんだ。
「いや、そもそもそれが勘違いというか……いや、間違っちゃいねぇんだが……」
「ん? シーさん、どういうことなの?」
ディーさんの説明じゃわからなくてシーさんに振ってみる。
「まさかこの馬車を普通の客が使うと思ってなかったんだよ」
「だいたい奴隷商行きだからな」
ビーさんが補足してくれる。
「もしかして、私達が売られると思ったの?」
「まぁ、そういうことだな。イヤンには奴隷は多いが奴隷商はいない。そういう仕組みだからな」
「だからイヤンの周りから売られるやつは馬車でアキンドに向かわされるんだ」
「え? でも、それを攫っても結局奴隷になるんじゃ……あれ? でもイヤンには奴隷商はいないって……」
「おっと、これ以上は話せない」
メンソルかその近くにいる人が奴隷商ってことかな。
それならわざわざアキンドに送る必要は……? まぁ、これは深く聞いても仕方ないね。
「どこで奴隷になるかは決まってないってことでいいのかな?」
「……あんまり深入りするのは危険だぜ、お嬢ちゃん」
おっと、これでも踏み込みすぎちゃったか。
「わかった。今回のはよく知らずに行動した私も悪かったってことで」
「それで納得してくれると助かる。それじゃあ出発するか?」
「そうね、道中よろしく」
馬車には私とルル、そしてシーさんとディーさん。他の三人が後ろで警戒しながら付いてきてる。
ときどきシーさん達が交代しながら。イーさんはすぐに乗車拒否させてもらったけど。
「そっちの職業は……詳しくは聞かないけど、何系統?」
シーさんが乗ってるうちに対策を練るよ。
まずはお互いのできることから。
「全員近接系だ。対魔法特化もいる。昨日みたいな不意打ちだと無理だがな」
「なるほど。私が『探査』してるから不意打ちはないと思う。範囲は1kmくらい」
「お前……魔法撃ってたよな? 信じていいのか?」
「ルルの安全を重視してる私がそんな嘘吐くメリットがないでしょ?」
「そうだな。そっちも聞かないでくれてるんだ。俺達も聞かないでおこう」
「それと、奴隷について聞きたいんだけど。私は仕組みとしての奴隷しか知らないから」
「そうだな。奴隷は主人の言うことは絶対だ。だが、一般の奴隷への強制力はその奴隷の調教具合による」
「調教具合?」
「懐かせるにしても脅すにしても、「主人の命令に従わなくては」とどれだけ思わせられるか、だな。首輪自体にそこまでの強制力はない。思考がやや偏るがな」
「犯罪奴隷は?」
「そっちは強制力の強い首輪が嵌められる。これは単純に危険だからだな」
「じゃあ、どっちも首輪は魔道具なんだ?」
「ああ。そして解錠する為の鍵はセットで作られるから、その鍵でしか外せないようになっている」
なるほど……もしかしたら私の魔法とスキルならなんとかできるかも……。
「見た目の違いは?」
「ん? 知らないのか? 一般が黒。犯罪奴隷が暗い赤だ」
「追っ手が来るとしたらみんな奴隷だよね?」
「そうだろうな」
「なるべく殺さないであげてね」
「そのつもりだ。俺も奴隷に手を掛けたくはない。ほとんど知ったやつだろうからな」
あれ? 本格的に思ってたのと違う人だ。
なんだか、アキンドに行くのが不安になってきたよ。大丈夫だよね? ポークさん!
そして夕方ごろ、そろそろ野営場所を決めようかという時に、私の『探査』に人が掛かった。
「来た。三人だけ。今までギルドマスターに売った奴隷に【暗殺者】はいる?」
「凄えな……。あ、いや、【暗殺者】はいねぇ」
ビーさんが私の『探査』にビックリしてる。
そういえばシーさんとディーさんしか聞いてなかったね。
【暗殺者】がいないなら『不可視』とかで隠れてる可能性はないかな。隠れてて『探査』にかかるかどうかはわかんないけど。
「どうする? このままだと追いつかれる時には暗くなっちゃうけど」
「野営してるフリをして待ち構えよう。嬢ちゃんは相手の動きを教えてくれ」
シーさんが作戦を考えてくれる。
相手が全員近付いて来るようなら合図で一気に攻める。
遠距離型がいるようなら一人は身を隠して接近する。
まぁ、私の仕事だね。
そして、全員が遠距離型なら私の魔法で先制と陽動を掛けて、シーさん達がその隙に攻める。
そんな感じで決めて様子を見る。
そして、三人のうち一人が止まって、残った二人が近付いて来た……。
私が一人を相手にするんだ……!
お読みいただきありがとうございます。
思っていたより長くなってます。
今回出る予定だった追跡者は次こそ出てきます。
次回、初めての対人戦闘。




