第二十四話 フィルナの魔法
乗り合い馬車は失敗だったかな……振動がお腹に……響く……。
さすがに街道は王都の中を走るのとはわけが違うね。
アキンドまでこのまま三日。早めに落ち着いてくれるといいんだけど、こればっかりはね。
「フィルナ、大丈夫?」
「なんとかね。ルルはどう?」
ルルは次の日すぐに気付いた。まぁ、経験ある子にはわかるよね。
それでもう一日休んで出発したんだ。
ルルはこれまでメイドをやってたらしくて私の身の回りの世話までしてくれたよ。
すごい手際が良くてビックリしちゃった。
「ちょっとお尻痛くなってきたけど、まだ全然平気」
「馬の休憩に何度か休むみたいだから、それまで我慢、だね」
料金はもう払ってあるから最悪降りちゃおう。
冒険者だったオババにも言われたんだよね。コレのときは心が楽なようにした方がいいって。
出来るだけ町にいろとも言われたなぁ。でも、あの町はちょっとね。
「フィルナが辛かったら、わたしは歩くの平気だからね」
「ふふ、ありがと」
それから二度休憩を挟んで馬車は進む。
朝から出発して、今はお昼を過ぎたくらい。
さすがに外だし、『探査』もしてるよ。
集中してると動きもわかるから痛みを紛らすのにはちょうどいいね。
魔物の姿はないけど、何人か馬に乗った人がこっちに向かってきてる。
うーん、急いでるのかな? 結構スピード出てる。
人数は……5人か。普通にパーティでもある人数だし、どういう人たちなのかまではわかんないなぁ。
ちなみに感覚としては大体の形がわかる感じだよ。
今の状況で言うと、馬の上に人が乗ってるのがわかる程度。
よっぽど大きな大剣とか背負ってるなら別だけど、ほとんど装備もわかんない。
「フィルナ、どうしたの?」
「ん? ううん、なんでもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「そう? お腹、痛い?」
覗き込んでくるルルは可愛いなぁ。元気だったら抱きしめてるとこだよ。
「平気平気。薬も飲んだしね」
他にお客さんいなくてよかったかも。コボルト被った私が心配されてる絵面は自分でも変だと思う。
そんな話をしてたら、馬の集団がかなり近付いてる。
「な、なんだあいつら!」
御者さんが叫んだ。
ということはまともな人じゃないのかも。
「ルル、頭を低くしておいて」
私なら見られても平気だけど、ルルは可愛いからね。
悪いやつに見つかったら……そう思って言ったんだけど、ルルは逆にそっちに身を乗り出しちゃった。
どう見ても荒くれ者な風貌の5人は、そのまますれ違おうとして、止まった。
そして馬の前脚を大きく上げて方向転換してこっちを追いかけてくる。
「へへっ、見ろよ、女だぜ!」
「連絡が来ねえってことは女がいるよな?」
「だいたい売りに行ってるときだからな!」
「なら次の女にちょうどいい!」
「ボスのいい土産になりそうだ!」
大声で話してるからみんな聞こえてるよ。
「わわっ、フィルナごめん」
「いいよ。でも、次から気を付けてね」
「う、うん。でも、どうするの?」
「どうしよっか?」
「ええっ」
うーん……こういう場合は仕方ないよね。
「『ファイアⅠ』!」
横から身を乗り出して魔法を撃った。
火の玉が先頭の馬の足元に向かっていく。
ただの火の玉じゃないの。これは……モンパレのときに見た、魔法部隊の『ファイアⅣ』並みの規模。
だから封印してたんだよね。私の魔法は異常だった。
普通、『ファイアⅠ』じゃ馬一頭の足止めがやっと。
それが、五頭全てが吹き飛んだ。
「すっごーい。フィルナは『鑑定』もしてたよね? 魔法も使えるの!?」
「私は【すっぴん】なんだ」
「【すっぴん】!? 嘘でしょ!?」
へぇ、知ってるんだ。奴隷には必要なさそうなのに……。
「それも「ご主人さま」のところで教わったの?」
「う、うん。そうだよ」
なんか引っかかるなぁ。それに「連絡が来ないボス」……まさかね。
「おじさん、ちょっと止めて!」
御者さんに馬を止めてもらって、馬車を降りる。
短剣を抜いて、吹き飛んだ一人に近付く。
被り物のおかげで顔色はわからないよね。
「あなたたちのボスってメンソル?」
「んなっ! なんでそれを!?」
「おい、バカ!」
「ありがとう。大人しく捕まるならこれ以上は何もしないけど?」
「チッ……」
どうやらさっき吹き飛んだ衝撃で抵抗できないみたいだね。
それにすんなりボスがメンソルだって喋ってくれたよ。『交渉術』スキルのおかげかな?
御者さんに縄を貰って全員を縛りつけた。
そしてそれを馬車の後ろに繋ぐ。
もちろん持ち物は全部回収したよ。
「この人たちどうするの?」
「このままアキンドまで連れて行って憲兵に渡すんだよ」
「え? まだ結構あるよね?」
「そう。だから食事はさせてやらないといけないの。殺しちゃったら私達が捕まるからね。覚えてて」
まぁ、厳密には襲われて反撃したってことなら大丈夫なんだけど、捕まえた以上はちゃんとしないとね。
「う、うん」
馬車がまた進み出す。スピードはだいぶ落としてるけど、捕まえた5人は走るしかない。
こうするのは走らせることで余計な抵抗をする体力を奪うという意味もあるの。
そうすれば休憩の時は休むしかないからね。
「それにしても……やっぱり魔法は危ないなぁ」
「どうしたの? すごかったよ?」
「あれ、私の一番弱い魔法なの。まぁ、まだ初級しか使えないんだけどね」
「ええ!? すごいじゃん!」
「逆だよ。あれより弱い魔法が使えないんだよ? 味方がいる中に魔物一匹だけ狙うとかができないの。強すぎて魔石が取れなかったりするしね」
実は後者は経験済み。魔物に初めて当たったとき、ほとんど素材も残らなかったんだよね。
暴発とかじゃなくて(っていうか魔法の暴発なんて聞いたことないけど)、安定して強すぎるの。
「あ、そっかぁ」
「だから『魔力制御』っていうスキルを覚えたいんだけどね。上手くいかなくて」
「それがあるとどうなるの?」
「消費する魔力を増やしたり減らしたりできるの。そうすればもう少し弱い『ファイアⅠ』が撃てると思うんだよね」
【賢者】のルミ姉さんが持ってたスキル。だからイメージは聞いて知ってるけど、どうやったら習得できるか色々試してるところなの。
特に体内の魔力を感じる方法、あれが関係ありそうだから毎日やってるんだよね。イヤンに着いてからは集中できなくてやってないけど。
「なるほどー。でも、【すっぴん】ってすごいんだね。ビックリしちゃった」
「ふふふ、私には女神様の加護もあるしね」
「フィルナすごーい! ね、アキンドに着いたらもっと色々聞かせて?」
「もちろんだよ。魔法の契約もしてあげる。今は初級しかできないけどね」
契約でも魔力を消費するから使える魔法だけしかできないの。
それがなかったら魔法屋として荒稼ぎできたのになぁ。──って、そんなことしないけど。
あと、自然魔法はやめておこう。あんまり広めない方が良さそうだもんね。
「いいの!? やったー!」
ルルに喜んで貰えると私も嬉しいな。
アカツキ達もこんな気持ちだったのかな? どんどん甘やかしたくなっちゃうよ。
「ふふっ。ほら、座って。ゆっくりでも危ないよ」
「はーい」
そうして日が暮れ始め、一日目の野営がやってきた。
お読みいただきありがとうございます。
言及してないですが、回復魔法も効果が上がっています。
それで回復しすぎるということがなかったので封印していない、というわけです。
あと、封印していない魔法として神聖魔法『浄化』があります。主に洗濯用。
次回、懐柔。




