第二十三話 少女とお泊まり
ギルドの奥の部屋で私はギルドマスターの謝罪を受けてる。隣にルルもいるよ。
「本当にすまない。メンソルの方も全く悪い話を聞かなかったからこちらも油断していた」
「まぁ、ちゃんと教育したりして懐柔してたみたいですからね」
「なんでフィルナ……お姉さんはご主人さまが悪い人だってわかったの?」
「ふふ、フィルナでいいよ。それはね、ルルが「まだ手を出されてません」って言ったからだよ」
「へ?」
「他の子には出してたんでしょ?」
「それは……まぁ」
「なるほどな」
あ、ギルドマスターは気付いたみたい。
でもね、さっきから私にだけ謝っててルルへの謝罪がないよ。
「それで、ルルはどうなりますか?」
それはともかく、買い戻しの手続き途中だったんだよね。
「それなら問題ない。その首輪の鍵も預かっている」
「じゃあ……」
「よかったね、ルル」
「うんっ」
「ほら、これだ。外してやるといい」
「ありがと」
鍵を受け取ってルルの首輪を外してあげる。
「外してやるといい」だって。なんだかイライラが止まらなくなってきたよ。
「じゃあ、お金、返すね」
「いいよ。持ってて。それは私が受けたクエストだから。ちゃんと護衛するから、その後一枚だけくれればいいよ」
「ええっ!?」
「そのことなんだが……」
「はい?」
「その依頼、あのバカが違約金狙いで受け付けたらしい。いや、受け付けすらされていなかった」
「そんな……」
「つまり正式なクエストじゃなかった、と」
「ああ。受注するフリだけして買い戻しをする流れに持っていき、契約書を出す。そうすれば金額が違い、買い戻しはできない」
「アキンドから呼んだニセ【鑑定士】がルルの契約書が改竄されていると『鑑定』するわけですね」
そして強引に作った弱みを握ったルルを……なんて聞かせられないよね。
「そちらも今追わせているところだ。余罪はありそうだからな」
まぁ、他の奴隷にも同じことしてそうだよね。弱みを握られて助けも求められなくされてるんだろう。
それで表向きには「いいご主人さま」。気持ち悪い。
それにこの人も。淡々と説明しててルルには謝る気がないらしいね。
「それで、街から離れられないルルを護衛することはできないから私はクエストを達成できない、だから違約金が発生するのね?」
「だが、それは正式なクエストじゃないからその金はあいつの懐にそのまま入る、というつもりだったらしい」
「ひどい……」
「ま、本当に100万でも払ってたけどね」
「ひえっ」
「この件……慰謝料だけで済ませてくれないだろうか。いや、当然町全体の調査と是正を約束する」
「別にいいですよ。私はルルを助けられればよかったので。お金だって払うつもりでしたし」
他の人みんなをどうこうって言うほどの人間でもないよ。
ルル以外がどうでもいいってわけじゃないけど、ちゃんとルール通りにやるならそれがこの町の秩序なんだろうし。
「すまない。20万ギルある。受け取ってくれ」
「で?」
「えっ……?」
「それは私への慰謝料でしょ? ルルへは?」
「いや……その……」
「フィルナ、わたしはいいよ」
「ダメ。こういうのはちゃんとしないと」
「何が望みなんだ?」
「ふふっ、よかったね、ルル。このおじさんが服とか揃えてくれるって」
「ええっ」
「いやっ、待て……」
「あ、私の専属担当だったアルさんに連絡しようかなぁ」
「ま、まさか……アルフレッドさん……?」
「そうですよー」
「わ、わかった。わかったから連絡は勘弁してくれ」
(「『交渉術』スキルを習得しました」)
お、久々にスキルを覚えた。加護の追加がないってことはこれ自体が何かの上位スキルなのかな?
今はいいや。後で調べよう。
やっぱり王都のギルドマスターとじゃ立場が違うみたいだね。
「それじゃ、行きましょうか」
「へっ? 今から!?」
「もちろん。一緒に可愛い服選ぼ! さぁ、案内してくださいねー」
「はぁ……どうしてこんなことに……」
どうして? わからないの?
よーし、もう遠慮しないからね。
ルルの服数点に靴から、荷物鞄に護身用のナイフまでそのまま町を出られるように揃えてあげた。
もちろん全額ギルドマスター持ちでね。私への慰謝料より高くついたね。
この町、ピンとキリしかないんだもん。そりゃあ高い方選ぶよ。
そして、ルルを連れて宿に戻った。
「ルルも何も食べてないよね?」
「うん」
「それじゃ、二人分の食事お願い」
「はい。では100ギルです」
首輪をしてないルルを連れてきたことでようやく受付の人の顔が普通になった気がする。
「よーし、ご飯が来る前にお風呂入ろう。綺麗にしなきゃね」
「え、いいの?」
「せっかくお風呂付きの部屋なんだから入らないと損だよ。髪洗ってあげるね」
「そっか……わたし、奴隷じゃなくなったんだ……」
ルルにとってはお風呂なんて滅多に入れるものじゃなかったらしい。
その割に髪綺麗なんだよね。これからはちゃんとお手入れもしなきゃ。
「よしよし、辛かったよね。アキンドに着いてもどうするか決まるまでは一緒にいてあげるから」
「ありがとう、フィルナ」
二人でお風呂。被り物を取って素顔を見せるのはフィーアさん以来。
湯船に浸かる前に髪と身体を洗ってあげる。
「フィルナはどうしてあれを被ってるの?」
「前はね、ニキビがすごかったんだー。顔中、ほんとニキビだらけ」
「そうなの? 今全然そんなことない……っていうか、キレイだよ……」
「ふふ、ありがと。元々輪郭には自信あったんだよ? でもあんまり酷いから隠してたんだよね」
「えーじゃあ、もう隠さなくて大丈夫だよ!」
いつかフィーアさんが言ってた通りにレベルが上がるほどにニキビが減っていったの。
今じゃほとんどないくらい。まだときどき出てくるけど、それは普通だよね?
「そうなんだけどね。決めたんだ。目指してる人を追いかけ始めた時に外そうって。私なりの意思表示、かな」
「ふぅん……今は追いかけてないの?」
「そうだねー……追いかけてるんだけど、まだなの。今もし出会えたとしても一緒には行けないかな」
「よくわかんないや」
「今はそれでいいよ。いつかルルにも目標ができたらわかるかもね」
「うん」
「そんなことより」
「え?」
「ルルのココ。私より大きいなんて納得いかないんだけど?」
「はは、フィルナ、ぺったんこだもんね」
「ルル……言っちゃいけないことを言ってしまったね……」
「ふぇっ? フィルナ!? あっ、あははは……く、くすぐったいよぉ!」
「このこのこの! くそぅ、これ絶対将来すごいことになるやつだ。今のうちに成敗してやるぅ!」
「も、もう! フィルナよりちょっと膨らんでるだけじゃん! フィルナやめて! もー! おかえしっ!」
ぺたん。
「………………」
「あ……」
「どうしたの? 揉みなさいよ」
「な、なんかごめん……」
「ぷっ。冗談よ。ルルは笑ってると可愛いんだから、ほら笑って。こちょこちょこちょ」
「あひゃひゃひゃ……やめてってばぁ」
しばらく続けた後、我に返って一通り流して一緒に湯船に入った。
「ありがと」
「ん?」
「元気出たよ」
「そっか。ならよかった」
「フィルナあのね……ホントにホントにありがとう!」
「どういたしまして。さ、そろそろ出るよ。ご飯が来るまでに服着なきゃ」
「はーい」
「こんな美味しいご飯久しぶり……お母さんの作ってくれたご飯以来かも……」
「いいご主人さまは食べさせてくれなかったの?」
「うん……食べ物もらえるだけで幸せだと思ってた……」
「そっかぁ……これからは自分で食べる物も選べるからね。まぁ、いいものはそれなりにお金かかるけど」
ここの一食50ギルも割と高い方。美味しいからいいけど。
「だからアキンドで働けるところ探そうかなって思ってるんだ」
「いいね。そういうところからやりたいこと、見つかると思うよ」
「あっ、そうだ! いつかフィルナに12万ギルの依頼するよ! それが私の目標!」
「ふふっ。楽しみにしてるよ。さ、食べたら今日は寝よっか」
ダブルベッドに今夜は二人。
いや、別にヘンなことはしないよ!
「ねぇ、フィルナ?」
「なぁに?」
「フィルナはこんなに優しいのに、なんで今日、ギルドマスターには怒ってたの?」
「だって、ルルには全然謝らないんだよ? ルルの依頼をちゃんと受け付けてなかったのなんて完全に向こうの問題なのにさ」
「え? わたしのことで怒ってたの?」
「そうだよ。むしろ私に謝るところなんてほとんどなかったんだし」
たぶん、アルさんがDランクに上げさせたかったのもこういう時の為だよね。私がEランクだったらもっと横柄な態度とられてたかも。
Eランクなんてまだまだ初心者と変わらないもんね。
「ありがとう」
「いいのいいの。でもね、ああいうときはしっかり主張していいんだよ。ルルは冒険者じゃないけど、自分が悪くないときは堂々としてていいの」
私もフィーアさんに散々言われたもんね。
それにルルはそういうことができるようになったら変わる気がする。
ああいう依頼を思い付くくらいだしね。あれはちょっとやりすぎではあるけど、真っ当な商売の方法とか覚えたら立派な商人にもなれそう。
うん、アキンドでいい出会いがあるといいな。
「うう……わたし、がんばる! だから……」
「大丈夫。急に置いていなくなったりしないから」
泣き出したルルを抱きしめた。
早くこの町は出よう。明日……うん。でもルルにも今の私にも歩きはきついかな……乗り合い馬車が空いてたらもうアキンドに向かっちゃおう。
お読みいただきありがとうございます。
少しくらいは膨らんでますよ?
次回、フィルナの魔法。




