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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第二章 帰郷
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第二十二話 依頼主の少女

 お腹……空いたな……。

 そういえば昨日着いてから何も食べてないや。


 ちゃんと薬の材料持っといてよかったぁ。

 こんなにひどいの初めてだよ……。


 疲れはなくても身体に負担は掛かってたのかな……。


 これが……旅……。



 ううう…………。



 こんなの王都に居たら知らないままだったよ!

 お腹痛くなってワクワクしてくるなんて、私おかしいのかな?



 ご飯、何か軽いもの用意してもらおう。


 うん、薬湯が効いてるみたい。歩くのは問題ないね。

 それに部屋にお風呂があってよかった。拭くだけだとちょっとね……。


 受付に言って食事を頼んでからお風呂に入った。


「今日は一日休もう」


 そう決めてその日は体を動かさずにオババにもらった薬の図鑑を読み返して過ごした。


 『薬の知識』があっても咄嗟の時に役立つのはこういうことの積み重ねだってオババもポークさんも言ってた。





 翌朝。


「よし、動くのは大丈夫そう」


 完調じゃないけど、ギルドに行くくらいなら問題ないかな。

 最後に見た依頼……ちょっと気になったんだよね。


 この後はライアルも言ってた隣町のアキンド──ポークさんの地元──に行くつもりなんだけど、その前に会ってみたい。



 今日は装備は全部魔法鞄(マジックバッグ)に仕舞って宿を出た。



「よかった、まだあった」


 まぁ、受ける人はいないって言ってたもんね。


 買い戻しと護衛の依頼書を剥がしてカウンターへ向かう。


 一昨日はよく見てなかったけど、ここは職員男の人だけなんだね。


「この人に会いたいんですけど」


 カウンターの受付職員に依頼書を渡す。


「は? あ、ああ呼び出すからしばらく待ってもらえるか?」


 よっぽど意外だったんだね。慌てて書類を漁り出した。


 依頼書には名前も何も書かれてないけど、ギルドではそれも、依頼人がどこにいるのかも管理されてるんだろうね。


「あっちで座ってるんで、来たら呼んでください」


「あ、ちょっと待った。ライセンスを」


 相当慌ててたんだね。そっちが先でしょ?


「はい」


「Dランクのフィルナ、ね。わかった。受注処理は本人と顔を合わせてからだ。止めるならそこで止めていい」


 止める前提なんだ。感じ悪。

 それとも依頼人の方に問題があるのかな? 私の予想だとそうは思えないんだけど。


 その人は別の職員にカウンターを任せて依頼人を呼びに出かけて行った。


 あれ? そういえば買い取りってギルドが立会人になってやるんだよね?

 その人の主人も来ちゃう感じなのかな?



 よくよく何も考えずに行動しちゃったなぁ、とあれこれ頭を捻っていたら、そんなに待たずに名前を呼ばれた。



「うわっ、なんでコボルト!? この人が??」


 あー、最近こういうリアクションされなくなってたから新鮮だよ。


「はい。フィルナだよ、お嬢さん」


 依頼人は茶色くてサラッサラの背中まである長い髪の女の子。

 奴隷の証の首輪がなければどこにでもいそうな可愛い子だね。


「あ、ごめんなさい! わたしはルルって言います。15歳で、まだ手は出されてません!」


「ぷっ、女の私にそれ言わなくていいんじゃない?」


「あっ、そっか! アハハ」


 元気そうな子だなぁ。


「それじゃ、依頼を受けるかどうか、あっちで話そうか」


「うんっ」



 またテーブル席に移動して座る。


「どうぞ? 奴隷とか気にしないから」


「は、はい」


 そのまま立ってるから許可して座らせる。

 空気が改まったせいか緊張し出したみたい。



「それで、一万ギルで何をするの?」


「ええっ……なんでわかったの?」


「なんとなく。12万ギル貰って10万ギルがあなたの値段で報酬が一万、残りを手持ちにするんでしょ?」


「うん……ごめんなさい」


「謝らなくていいよ。別に依頼に嘘があるわけじゃないしね。でも、私もお金を払うからには事情を聞きたいな」


「えっ……受けてくれるの……?」


「そのつもりで聞くよ」


 見捨てちゃダメだって私の勘が言ってる。何かこの子からは私に近いものを感じる。



「わたし……両親がいないの。村の畑で作った野菜をわたしの家族でアキンドに売りに行った帰りに事故に遭って……わたしだけが残った」


「そうだったんだ……でも、どうして奴隷なんかに……?」


「村のお金……野菜を売ったお金も事故で無くなっちゃったんだ。わたし……なにもわからなくて……」


「そっか、ごめん。辛いこと聞いちゃったね」


「ううん、話さないとだし」


 うん、この子は私に似てる。


「それで、どうしてこの依頼を?」


「お母さんが大切にしてたペンダント、事故の後無くなってたんだけど、ご主人さまがアキンドで売られてるのを見つけてくれたの。さすがに他にも奴隷の人がいるから私にだけ買ってあげたりできないけど、って」


「だから自分で買おうってことか。他の子にも気を遣えるご主人さまなんだね」


 たぶん、違うんだろうけど、指摘しないであげたほうがルルの為かな。


「うん、ご主人さまはいい人なの。わたしにも読み書きを勉強させたりしてくれたし」


 私もアカツキ達のおかげでこうしていられるんだもんね。

 アカツキがどんな人でも信じちゃってたと思うよ。


「わかった。この依頼、受けるよ」


「えっ、ほんと!? いいの!?」


「私もね、両親死んじゃったんだ。その時助けてくれた人のおかげで冒険者にもなれたしね。ルルにもこれからやりたいこと見つけてほしいな」


「あ、ありがとう……」



「ルル、よかったな」


 え?


「ご、ご主人さま!?」


 突然の声に振り返ると、凄く身なりのキレイなおじさんが立ってた。

 これからは『探査(サーチ)』はもっとこまめにやるように気をつけなきゃね。ギルドの中だから油断しちゃってたよ。


「貴方がルルのご主人さま?」


「ああ、メンソルという。君がルルを買ってくれる冒険者か」


「いいえ、買うのはルル自身ですよ。私はお金を渡すだけ」


 こっちは悪い方の勘が働いてるね。なんていうか、敵意を感じる。


「ええっと……職員さん、手続きしてくれる?」


「わ、わかった」


 ライセンスをまた渡して受注処理を進めてもらう。


「それじゃ、ルル。これが約束の12万ギル」


 一万ギルの金貨を12枚ルルに手渡す。


「ありがとう……」


 ルルは金貨を大事そうに受け取った。ちょっと手が震えてる。


「それじゃ、そのまま買い戻しの立会いもお願い」


「では、双方契約書を」


 職員さんが指示すると、ルルとメンソルそれぞれが契約書を取り出す。


「あれ?」


「嘘……金額が……」


「どうした? ちゃんとルルの名前が入った契約書だろう?」


 メンソルが取り出した契約書に書かれていたのは100万ギル。一桁違う。


「この場合はどうなるの?」


 職員に確認する。


「【鑑定士】を呼ぶしかないな。アキンドから手配しよう」


 ああ、『鑑定』でわかるんだ。ていうか、手際が良すぎるよ。


「なら、私が見ましょうか。『鑑定』」


 わかりやすく結果を公開状態にする。


 奴隷契約書(奴隷控え)

 主人と奴隷のサインの入った契約書。記載された金額で無効にできる。


 奴隷契約書(主人控え・改竄)

 主人と奴隷のサインの入った契約書。記載された金額で無効にできるが、金額が改竄されている。


「なっ!?」


「バカな!?」


 職員さん? なんであなたが驚いてるのかなぁ?

 私、あなたには職業(ジョブ)を名乗ってないんだけど。


「ええと、まともな職員さんいますかー?」


 大声を出すと、別の職員さんがやってきて対応してくれた。




「ウチの者がすまなかった!」


 色々片付いたあと、奥の部屋でイヤンのギルドマスターに頭を下げられた。

お読みいただきありがとうございます。


少しイライラモードのフィルナ。


次回、少女とお泊まり。

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