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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第二章 帰郷
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第二十一話 春を売る依頼

 なるべく周りを見ないように歩いた。

 宿で聞いたギルドの場所は割とすぐ近くだったよ。ほとんど町の中心。

 ただ、宿の人の薄ら笑いはなんだったんだろ。



「さて、何が出るかな……」


 意を決してギルドの扉を開いた。


 あれ? ここ、ギルドだよね?

 造りは王都とさほど変わらないけど、そこにいる人が全然違う。

 ほとんど依頼人? 薄着の女の人が多い。

 冒険者っぽい人はいるにはいるけど、装備も何も着けてないし、どうなってるの?


 混乱してキョロキョロしてたらその冒険者の男の人が声を掛けてきた。


「お、噂のコボルト(フェイク)じゃねぇか。売る側……じゃねぇよな。男の方はあんまりいねぇぞ?」


 歳は私と同じかちょっと上くらい。装備はないけど身なりは綺麗だね。とりあえず危ない人じゃなさそう。


 ていうか私、そんなに知られてるの? それに男はいないって……?


「ぇ? いや、どういう……この町ってこれが普通なの?」


「なんだ、知らずに来たのか?」


「まぁ……誰も教えてくれなくて」


「それはそうだろうな。まぁ、この町は見た目通り、こんな町だ。それでも聞くか?」


 うーん……知らないのもなんだか気持ち悪いよね。


「知識として聞いておこうかな。あ、私にはフィルナって名前がちゃんとありますからね」


「わかった。俺はライアルだ。あっちのクエストボードのところへ行こう。まずはアレを見るのが早いからな」


「クエストを?」


 首を傾げつつもライアルについて行く。



「見てみろ」


 依頼を、ってことだよね。えーっと……。なにこれ。


『私を買ってください。一晩10000ギル』

『私はなんでもできます。一晩20000ギル』

『回数こなせます。一回2000ギル』

『持続力には自信があります。一回5000ギル』


「意味がわかんない」


 さらっと見ただけだけど他もこんな感じ。


「だろうな。んじゃ、続きは座って話そうか」


 今度はテーブル席に腰掛ける。


「あれは?」


「見ての通り『依頼』さ。ただし、金額は報酬じゃない。こっちが払うんだ」


「えっ?」


「あーフィルナはそういう世界を全然知らねぇんだな。先にあの金額について言っておくと、一晩の額を書いてあるのが女。回数毎の額を書いてるのが男だ。稀に違うやつもいるけどな」


「へぇ。でもなんでこんな依頼を?」


「ここで働く側のやつのほとんどが口減らしで売られた奴隷なんだ。ここと隣のアキンドの周りは小さな村が多いからな。まぁ奴隷自体は合法で、主人には衣食住を世話する義務があるし無理矢理じゃない。ここに来るのはほとんど自分から性奴隷になることを選んだやつなんだ」


「奴隷のことは知ってる。犯罪奴隷以外は選べるんでしょ? でもなんで性奴隷に?」


「金額を見たらわかるだろ? 一番稼げるからだ」


「自分を買い戻す為かぁ」


「そういうこと。奴隷が解放される為には自分が買われた金額を主人に払うしかない。犯罪奴隷は無理だけどな。それに主人が金を持たねぇ奴隷を解放するのは義務の放棄で犯罪と同じ扱いだ。だから独り立ちする為にやってるんだ」


「なるほどね。でもなんでギルドで仲介してるの?」


「奴隷が自分の買い戻しを求めたら拒否してはいけない、っていうのが決まりなんだがな。色々と問題が起きてちゃんとした立会人を付けようってなったのが始まりみたいだな」


「ってことは今はそうでもないんだ?」


「そもそも奴隷を所有してるのがその辺の店の店主かこの町に住んじまった好きモノの金持ちくらいだからな」


「あー、誰の奴隷かだいたいわかってるんだ」


「そ。だからここは悪質な店もないし、俺らみたいにこの中から選ぶのを楽しみに来るやつも損はしねぇ」


「そうなの?」


「金額にバラつきがあっただろ? あの金額、ギルド職員が決めてんだ。店の呼び込みよか信用できるぜ?」


「あ、そういう知識はいいです」


「ていうか、そこにいる人に直接言えばいいじゃん。キレイな人いるんだし。なんでわざわざ依頼になるの待ってるの?」


「慣れた相手ならともかく、何があるかわかんねぇだろ? ギルドを通せば依頼人に危害を加えられることはないからな」


「あー、それも身を守る為かぁ」


「それに、主人の方にしても下手やって逃げられでもしたら大損さ。それならしっかりギルドが管理してくれる方いいってことさ」


「なるほどねぇ。変な町」


「まぁ、だからここにはアンタが求めてるようなクエストはねぇんだよ。魔物が出たら大抵別の町とかに依頼が行くからな」


「そっかぁ、完全に無駄足だったかなぁ」


「ああ、買い取り希望っていうのもあるぜ。条件満たしてる別の主人に付きたいっていうやつもいる。大抵性奴隷以外で、ってやつだが」


「やっぱり辛いから、かな?」


「それもあるだろうけど成人したから儀式受けたい、っていうやつもいるぞ。ここにいる限りは受けられないからな」


「はぁーなるほど。そういう人は精神的に強そうだね。旅の連れに、って人もいるのかも」


「おう。まさにそれだ。いい職業(ジョブ)なら余裕で元が取れるからな。そうなりゃ買ったやつも楽になるし、買われたやつも解放される金を稼げてどっちも損しねぇ」


「身体を売るっていうと悪いイメージしかないけど、そう考えるとまともかも」


「口減らしで売るっつっても本人が納得しなきゃできないからな。なんだかんだ芯が強いやつが多い。だから俺はそいつらの直で金になるここで買うんだ。解放の足しになればってな。もちろん欲があるのは否定しねぇが」


「かっこいいなんて言わないからね?」


「言われようとも思ってねぇよ」


 まぁ、自分の欲求のが先だよね。否定しない分まともな人かな。


 うん、とりあえずここには用はなさそう。

 一応その買い取り希望っていうのを見てみようかな?


 席を立ってまたクエストボードに戻った。



「ん? コレなんか変」


「どうした?」


 ライアルもついてきてた。


『私を買い取らせてください。120000ギル。その後、別の町までの護衛希望。報酬10000ギル』


「ああ、これは直接解放希望だな」


「直接解放?」


「ようはこの12万ギルってのがこいつの金額なんだろう。護衛に関しては手持ちから報酬を払うってことだな。ま、買い取りと違って何も得しないから受けるやつなんてさすがにいねぇ」


「ふーん……面白いね、この子。ちょっと……う……」


「おい、どうした!?」


「お、お腹が……」


 ヤバい……アレだ……。


「おいおい、宿はどこだ? 連れてってやるよ」


「ごめん、ありがとう」


 失敗したなぁ。こんな町だって知ってたら終わってから出発してたよ……。

 コレだけは『自己再生』も意味がないんだよね……。



 ライアルに肩を借りて宿に戻った。宿の人の顔に殺意が湧いたけど、延泊の手続きもしておいた。

 コレじゃ何日か滞在するしかないもんね。


 あ、ライアルにはすぐに帰ってもらったよ。変な誤解されたくなかった……というより私に余裕がなかった。


 あー肉料理なんて言わなきゃよかった。申し訳ないけど魔法鞄(マジックバッグ)行きだね。


 今夜は痛み止めの薬を混ぜた薬湯だけ飲んで眠った。

 さすがに周囲の声なんて気にする余力もなかったよ……。

お読みいただきありがとうございます。


比較的精神年齢低めなフィルナですが、そこそこ知識はあります。

だいたいアカツキのせいです。


次回、依頼主との接触。

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