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【すっぴん】のフィルナ  作者: さいぼ
第一章 モンスターパレード
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第十八話 和解

 ギルドマスターのアルさんの言う「私にも関係のある」お客さんは私の知らないおじさん達だった。


 えーっと、アルさんは丁寧な言葉遣いをしようとしてたし、変なことは言わずに様子を見よう。

 「アルさん」とも呼ばない方がいいよね?


「本日はお忙しい中わざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」


 うわー! アルさん別人みたい。

 チラリと横を見たらフィーアさんが笑いを堪えてる。


「ふん、どう言い訳するのか聞かせてもらおうか」


 あ、あれ? 私ここに座ったままでいいのかな?


 アルさんが謝る側っぽくて私も関係あるんだよね?


 またチラリとフィーアさんを見ると「大丈夫」って目が言ってる。


 そうだね、堂々と。



「では、お話致しますのでどうぞお掛け下さい」


 アルさんに促されておじさん達が私の前と隣に座る。


 ど、堂々と。


 ──なんて無理だよフィーアさん!



「この祭り気分が抜けていないお嬢さんが噂のコボルト(フェイク)ですか?」


「ええ。つい先程昇格試験を終えたところです」


「ほう……」


 えっえっ……どうすればいいの!?


「ほら、自己紹介」


「は、はい。【すっぴん】のフィルナです」


 フィーアさんに言われて名乗ったけど、そもそもこの人たち誰!?


「フィルナ、この方々はこの王都で薬屋を営む【薬師】です」


 ふぇっ!? ちょちょちょ、ちょっと、それ! 私いちゃダメなやつでは!?


「お嬢さんの煽りを食って儲け損ねた3人ってことだ」


 真正面のスキンヘッドのおじさんがそう言いながら前のめりに両肘を突いて合わせた手の上に顎を乗せる。


 ううっ、視線が痛い。


「まぁ、質が良かったのは認めましょう。余った冒険者に現物を見せてもらいましたから」


 隣に座った白髪混じりの茶髪短髪のおじさん。

 この人だけ腰が柔らかい感じだね。


「せやかて、質ならワイらのポーションも最高品質や。お嬢ちゃんのポーションだけ使う理由にはならんよなぁ」


 独特な訛りの斜め前に座ったチリチリ赤髪のおじさん。

 この訛りはここの西の方の商人の街のやつだよね。アカツキ達とここに来る途中に寄った覚えがあるよ。


「そうですね。今日はその説明をさせていただきます」


「おう、頼むで? 今回はあのオババのポーションだけじゃ足らへんって聞いてたんやからな。ハンパな理由じゃ納得せーへんで?」


 そういえば前回のモンパレのときオババが結構無茶したって言ってたよね。

 だから今回は元々この人たちにも頼るはずだったんだ。


「はい、その為に薬草採取の直接依頼も許可を出していましたし、突然このような形になってしまったことは申し訳なく思っています」


 あ、備蓄が減ってたのはそういうことだったんだ。

 フィーアさんが口を尖らせてるってことは表向きには言ってなかったんだね。


「そうだ。我々はその報酬を払った分も無駄になったというわけだ」


「それに関してですが、皆様の今回用意していただいたポーションは保険と考えています」


「います? いました、の間違いでは?」


「いえ、言葉通りです。まだ脅威は去っていないかもしれないのです」


「ん? どういうことや? モンパレは終わったんやろ?」


「実は、二年ほど前にマチルダさんからここにある施設を皆様に貸し出してもよいと言われ、そのお礼を言いに伺ったのですが、その時に忠告と提案をされたのです」


 えっ? いつの間に……。


「まず、モンパレが早まるかもしれないこと。そして、ただ早まるだけではない可能性があることを言われました」


「早まるだけではないとは?」


「来年、本来のモンパレが起きるかもしれない、ということです」


「なんやて!?」


「マチルダさんも可能性としては低いと言われていましたが、ないとも言い切れない、と。ですので、もし今回このフィルナさんの調合で賄えるようなら、皆様のポーションはそちらに備えていて欲しいと言われたのです」


「別に逆でもよかったじゃないか。今回我々のポーションを使い、お嬢さんにはこれから作って貰えばいい。あのオババもいるんだ」


「いえ、私はこれからは討伐もやろうと思っていますし、オババももう……薬屋としても引退するみたいです。なのでこれから数を揃えるのは難しくなると思います」


 それくらいは言ってもいいよね?


「こちらとしても戦力が増えるのは歓迎したい。そして皆様なら今後も安定してポーションが作れる。ですのでフィルナのポーションを優先するという形を取らせていただきました」


「そうか、あのオババおらんようになるんか」


 あれ? ちょっと寂しそう。


「正直フィルナがマナポーションまで作ってしまうとは思っていなかったので連絡が急になってしまったのですよ」


「ちょっと待て。連絡が来たのは三日前だ。そんなギリギリに作り始めてあの騎士団の魔法部隊やらのマナポーションを賄ったっていうのか?」


「その通りです。僅か二日で、ね」


「お嬢さんは【すっぴん】ですよね? マナポーションを最高品質にするなど『調合』スキルがあったとしてもそんな一朝一夕でできるようなものでは……」


 ええっと……どうしよう。危ないから広めない方がいいよね?


 助けを求めるようにアルさんを見た。


「少々特殊な製法みたいですが……」


独自技術(オリジナル)っちゅうやつやな。そらワイらも商売敵には教えられんこともある。そんくらいわかってるわ」


「そうですね」


「ああ」


 よかった。そういうのもあるんだね。みんな何かしら隠したい技術を持ってるんだ。


「ご納得いただけましたか?」


「せやな」


「はい」


「ああ」


 んん? なんか思ってたのと反応が違う。オババのこと良く思ってなかったんじゃないのかな?


「ん? どないしたんや?」


「あ、あの……オババのこと嫌いなんじゃ……?」


「あー嫌いや。薬屋のくせに薬以外で儲けやがってな」


「え? そっち!?」


「そうだ。我々は薬を作ってそれを売るしかないというのに、【治癒術師】として突発の治療まで対応できるのはな」


「あれは悔しかったですね」


「ま、おかげでこっちの薬屋の需要も上がって儲かったんやけどな」


「自分の力じゃないっていうのがね」


 ああなるほど、オババが薬屋を始めて『薬屋』そのものが注目されて盛り上がったんだ。


「だから我々のポーションでオババなんて引退させてやりたかったんだ」


「ふふっ、実際そうなってるじゃないですか」


「ん? そう言われればそうやな」


「ぷっ」


 ソファーに座った四人の大笑いが部屋中に響いた。


「ああスマン、こっちは自己紹介しとらんかったな。ワイはポーク・ソテー。なんやウマそうやろ? 地元でソテー商会ってゆーたらそれなりのもんやで。行くことあったらご贔屓にな」


「私はレイズです。薬屋『木漏れ日』の店主をしています。よろしくお願いします」


「ヤックだ」


 おお、性格が出てる自己紹介だね。



「で、ポーションはナンボ用意したらええ?」


「今回だいたいポーション500、マナポーション500を用意して、それで死者は出ていません。同じ量、可能ですか?」


「三軒合わせれば既にそれくらいあるんじゃないか?」


「そうですね。一年あればさらに作ることも可能ですね」


「では、均等になるように各店200ずつ。合わせて600、600の納品でどうでしょう? もちろん全てギルドで買取させていただきます」


「ふむ。それなら平等やな。来年何もなくても買い取ってくれるんやろ? ならワイはええで」


「私も」


「こちらもだ」


「金額はどうしましょうか?」


「お嬢ちゃんと同じでええ」


「え? 私はマナポーションも同じ額にしてもらったから損しちゃいますよ」


「大方製法の口止め料ってところでしょう? なら私達はこの談合の口止め料ということで」


「おや、痛いところを突かれましたね」


「ふん、かゆくもないだろう?」


「え? どういうこと?」


「ギルドマスターは他から持ち込まれても買取拒否できんっちゅーことや。ま、たいしておらんやろうけどな。その程度で今回の件はチャラにしたるゆーとるわけやな」


 ……あ!


「ありがとうございます」


「おー気付いたか」


「なかなか商才もありそうなお嬢さんですね」


「かなり強かなようだな」


「フィルナ、そんなにたくさんいりませんからね」


 な、なんか勘違いされてる気がする。

 これからはそんなにいっぱい調合しないよ? ……たぶん。



 そんなこんなで話し合いは終わった。

 その頃にはもう日が暮れそうになってた。


 明日は討伐クエストやってみようかな。

 パーティが組めるといいんだけど、ここにはEランクはほとんどいないんだよね。

 私が経験ないのに新人さんと組むのも申し訳ないし……うん、明日はとりあえず一人で行こう。


 そう決めて家に帰って、今夜は早めに寝ることにした。

お読みいただきありがとうございます。


次回今章最終話、旅立ちに向けて。

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